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「GODZILLA 怪獣惑星」は国道246号線沿いで起きていた? 瀬下監督が挑んだ国産3DCGアニメの集大成とは

2017年12月19日 21:43  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「GODZILLA 怪獣惑星」は国道246号線沿いで起きていた? 瀬下監督が挑んだ国産3DCGアニメの集大成とは
11月17日、映画『GODZILLA 怪獣惑星』が公開された。本作は、昨年大ヒットを呼んだ『シン・ゴジラ』に続いて、1954年に誕生した『ゴジラ』シリーズで初めての長編アニメーションとなる。

ストーリー原案・脚本を託されたのは虚淵玄。『魔法少女まどか☆マギカ』をはじめ、既存ジャンルを新しいアプローチで描き出す業界屈指のストーリーテラーだ。ハードでシリアスなSF世界、予測不可能なストーリー、ゴジラの圧倒的な力、無力感に絶望する人類の行く末。『ゴジラ』史上、かつてない規模で描かれる“アニゴジ”に、SNS上は悲喜こもごもなコメントで溢れかえっている。

今回は、『シドニアの騎士』『亜人』『BLAME!』などのアニメ化を手がけ、本作で静野孔文氏と共に監督をつとめた瀬下寛之氏にインタビュー。『ゴジラ』という存在の重みを知ったうえでなお、虚淵氏のシナリオをどのように組み立て、ビジュアライズしたのか。同氏の言葉からは、共に映画を作ったスタッフへの信頼感と、緻密な舞台設計に欠かせない深い考察、そして国産3DCGアニメーションへの想いが浮き彫りになっている。

また、取材では、2018年5月公開予定の第2章『GODZILLA 決戦機動増殖都市』など、今後へとつながるヒントも明らかに。すでに作品を観た方も、これから鑑賞される方も、今までになかったアニメ版『ゴジラ』を読み解く手がかりに活用してほしい。
【取材・構成=小松良介】

■虚淵氏、静野監督と一緒だったから出来たアニメ化企画

――初めて『ゴジラ』のアニメ化企画を聞かれた時、瀬下監督は「できるのかな?」という印象を持たれていたそうですね。それはまた何故ですか?

瀬下寛之(以下、瀬下)
言わずもがな『ゴジラ』は日本を代表する世界的なキャラクターですから。子供の頃から知っていますし、映像業界に身を置くプロとしても『ゴジラ』のすごさを心底理解しているつもりです。『ゴジラ』の根幹である「日本の特撮様式美」をアニメにすることは相当難しいだろうし、立ちはだかる大きな壁は、容易に想像できるものでした。

――どうやってアニメで特撮らしい様式美を表現できるのか、と。

瀬下
もし「歌舞伎をミュージカルにしてください」と言われたら、難しいですよね。ただ、歌舞伎を知らない方たちに向けて、「歌舞伎の世界に興味を持ってもらえるようなミュージカルを作って下さい」と言われたら、やり方があるんじゃないかなと。『ゴジラ』の持っている様式美は、易々とアニメに変換できるものではありませんが、アプローチ次第では何とかなるのではないかと思い、依頼をお受けしました。

それでもやっぱり、自分ひとりだったら受け止めきれなかったと思うんです。静野監督と虚淵さん、このおふたりと一緒に挑戦できるということが僕の中で大前提でした。おかげでなんとか、この3年間を悩みながら迷いながら、考え抜きながら、ここまでたどり着けた気がします。


――とはいえ、本作を完成させるために、瀬下さんおよびポリゴン・ピクチュアズの存在は必要不可欠だったのではないでしょうか。

瀬下
そう言っていただけると、とても嬉しいですけどね(笑)。ポリゴン・ピクチュアズは創業1983年という、日本において最も古い3DCGスタジオのひとつです。日本のCG業界、CGというものが商業映像に使われ始めた黎明期から第一線にいたスタジオであり、ある一定の安心感のある品質を、大量にコツコツと作っていける日本有数の力を持っている。さらには、『シドニアの騎士』からの、セルルックアニメに挑戦してきた実績と経験があります。
だからこそ、これだけの超大作、長編作品だとしても、ポリゴン・ピクチュアズだったらまあ何とかしてくれるだろうっていう、そういう信頼感はありました。

――瀬下さんからご覧になって、虚淵玄さんの魅力は?

瀬下
神話や伝承など、人々が語り継いできた重厚で格式の高いストーリーや世界を基盤にしつつ、現代劇的な、時代を反映した感覚を入れられる方です。若年層の少しディープなアニメファンがどのような感情や言葉を求めているのかを、本当に計算し尽して設計されているんですよ。

長い歴史の中で培われた壮大な世界感や群像劇など、全てをひっくるめた『ゴジラ』という格式高いブランドを、虚淵さんだからこそ支えてくれたという気がします。


――では、静野監督についてはいかがですか?

瀬下
やはり圧倒的なメジャー感…とでもいいますか。僕も虚淵さんも比較的マニアックなタイプですが、静野さんのフィルターに掛かると、どんなにマニアックなモチーフでも「メジャー」になるんです。これはもうすごい才能なんです。

今回おふたりとやり取りするのが本当に楽しくて。おかげさまで自分の得意分野や好むところを存分にやらせてもらいました。例えば「この部分に関しては多少マニアックに世界観設定を作っても、きっと静野さんが調整してくれる」みたいな頼り方です。虚淵さんが重厚な格式を与えてくれて、静野さんが圧倒的なメジャー感を与えてくれるという絶大なる信頼の下に、僕も色々な提案を数多く出せるわけです。

――本作で瀬下さんが主体的に動かれたのは、主に世界感や舞台などの設計が中心に?

瀬下
基本的には明確に作業を分担することなく、皆でアイデアを出し合って進めました。ただ、世界感設定やSF考証的な感じでしょうか肉付けなどについては、僕自身が好きなこともあり(笑)、比較的偏ったかも知れません。


■アニメでも揺るがないゴジラの圧倒的存在感

――本作を観ていると、まだスクリーンに姿を現していない状況でも「ガオー」っていう鳴き声ひとつでゴジラという存在を印象付けられる、そのブランド力に驚嘆しました。

瀬下
そうですね。シンボルとしてのゴジラのすごさですよね。シルエットと鳴き声で我々はゴジラを感じられる。僕らはゴジラというキャラクターを本当にリスペクトしていて、ある意味ではゴジラさんという役者さんに「ちょっとアニメに出演してもらっていいですか?」みたいな(笑)。そんな気持ちでやっていましたね。

――それは『ゴジラ』をアニメ化するにあたって、世界観や舞台はSFですからガラッと変えたとしても、「ゴジラとはどんな存在か?」というテーマや精神性は変えないという話ですか?

瀬下
うーん、そのあたりは他のシリーズとの比較に関わってくるので難しいですね。少なくとも本作のゴジラは物語世界において圧倒的な存在で、尊敬や畏敬の対象です。「怪獣」と言う名前で呼ばれていますけど、単純な「生き物」ではなく、もっと神々に近い超越した存在。本来戦いを挑むべき存在なのかどうかという、まさに「天災」です。

ただ、造形としてのゴジラをどういう存在にすべきかは、初期段階から方針を決めていました。「御神木」のような、信仰の対象にもなりえる、そういう存在として描いています。


――そんなゴジラがいきなり地上に出現して人類に災いをもたらすという。やっぱり背景としてあるのは、シリーズ第一作目で本田猪四郎監督が描いた『ゴジラ』にもある、人類が生み出した恐怖の対象であったり?

瀬下
そうかもしれません。そこは第2章以降でおいおい語られてくるところでもあります。これまでに発表されている「年表」や、小説版で書かれた前日譚にもあるとおり、この物語世界では20世紀の終わりに突然「怪獣」と呼ばれる謎の生物が出現します。そして、その怪獣も人類も、区別なくすべてを駆逐していく孤高の存在がゴジラなんです。

――映画公開前に発表された前史によれば、アンギラスやラドン、カマキラスといった歴代シリーズの怪獣も登場していますね。これはゴジラが『VSシリーズ』で歩んできた歴史も包括されている感覚があるのでしょうか。

瀬下
そこはあまり意識はしていないです。あくまでゴジラは地球の生命進化の頂点にあって、地球が選んだ究極の生命として、地球全体に調和をもたらすというか、そういう圧倒的な存在です。これ、第2章以降に関わるヒントかも(笑)。


――おお。ところで先ほど虚淵さんの書かれるシナリオの魅力に「神話的」というキーワードがありましたが、本作のエクシフやビルサルドのデザインを見ていると、どこかエルフやドワーフといったファンタジー要素が感じられますね。

瀬下
そうですね。その通りです。相似性というか、異星人ではあるけれど、彼らが仮に剣と魔法の登場する太古のファンタジー世界に降り立ったとしても、そのまま成立できるという。そういったことを意識しながら、設定やキャラクターデザインを考えています。

――そもそも本作が2万年後という人類有史を超えた世界を舞台にしている点で、すでにファンタジーと言えそうです。

瀬下
はるか未来、はるか太古、どちらも神話的であるし、対称性がありますね。違うのはどの時点・視点から捉えるかだけです。その対称性が、魅力や共感に繋がるのではないかと思います。

■日本で3DCGアニメを作る真意とは?

――3DCGを使ったゴジラとの戦闘シーンは本当に素晴らしい迫力でした。3DCGアニメにおいてステージング(場面設計)は非常に重要と聞きますが、本作では実際に丹沢(神奈川県)などの現地取材に行かれたとか。

瀬下
はい。スケール感を肌で感じとって反映させるためですね。ちなみに、本作の舞台は海面水位が40mくらい上昇して、かつ地殻変動を起こした、関東を舞台にしています。


――あくまで舞台は日本なんですか?

瀬下
具体的には言えないんですけど、本作の舞台は今後2章や3章で起こる出来事を前提に、そこから逆算して着陸ポイントや、ゴジラとの戦闘の場所を設計しています。実は、今回の舞台って、だいたい国道246号線沿いで起こっているんです(笑)。

――ああっ、たしかに! どんどん降りていってますね(笑)。

瀬下
元渋谷から元丹沢までが本作の舞台です。次作以降で意味は繋がります。どうしてゴジラがあのエリアにいたのか、といったあたりです。


――本作のような3DCGアニメーションの場合、プリプロダクション(企画~試作)でどこまで綿密な設計図を描けるかが作品に大きな影響を及ぼすと聞きます。本作は企画から公開まで3年ほどを経ているわけですが、プリプロやプロダクションといった内訳はいかがですか?

瀬下
作業工程間でオーバーラップしているのでハッキリとは区切れないんですけど、最初の1年半ぐらいはずっとストーリー開発と、ゴジラのデザインや世界観設定をしていました。本格的にプロダクションに入ったのはこの1年間くらいだと思います。

――すると、かなり制作がかなり進んだ段階で『シン・ゴジラ』を拝見されたわけですね。制作に影響はありましたか?

瀬下
『シン・ゴジラ』を拝見して、大傑作で安心しました(笑)。静野監督も虚淵さんも同意見でした。日本の特撮文化において、代々受け継いできた唯一無二の『ゴジラ』ブランドの本流を、『シン・ゴジラ』が継承してくれたからです。我々は本流に対する支流のひとつでいられるわけです。その時点までにやってきたことを、自信を持ってやりきればいいと確信することができた瞬間でしたね。


――瀬下さんは『シドニアの騎士』をはじめ、これまでに数々の3DCGアニメに関わってこられました。例えば『亜人』ではモーションキャプチャーを導入されたりと、新しい試みにチャレンジされていますが、本作で何か新しい取り組みはありましたか?

瀬下
細かく言えば色々ありますが、本作はこれまでの集大成になると思います。2014年の『シドニアの騎士』から本格的に、3DCGによるセルルック表現にチャレンジしてきました。この手法が日本の商業映像の世界において、少しずつではあるけれど認知されてきたような手応えを感じ始めています。
欠点の多い3DCGというツールですが、その長所を活用して、たくさんのお客さんに感動的なストーリーを伝えられる手段、ジャンルとして確立できたらと思っています。
そういう意味でも、より多くの方々に『GODZILLA 怪獣惑星』をご覧いただくことが、僕らの願いです。

『GODZILLA 怪獣惑星』
(C)2017 TOHO CO., LTD.