ルノーF1エンジンの主要サプライヤーも務めるフランスの自動車、航空機部品メーカー、メカクロームは2018/19年のWEC世界耐久選手権用に開発したLMP1用3.4リッターV6シングルターボエンジン『V634P1』の概要を明らかにした。
今回の発表で初めて名称が明らかとなった新型エンジンは、メカクロームが2018年からFIA F2(旧GP2)に供給する新型ターボエンジンの発展型といえるもの。そのスペックは最高出力650馬力、最大トルク650Nmを発揮するとアナウンスされた。
エンジンの大部分はメカクロームの工場で製造されるが、日本の自動車部品メーカー、日本発条が製造するバルブスプリングをはじめ、スチールバルブ、ピストン、コンロッドなどは外部サプライヤーの生産部品を使用している。
メカクロームではLMP1、F2のほかGP3用エンジンも手がけており、こちらも3.4リッターV6という型式を採用。しかし、GP3はNA自然吸気である点で前述の2タイプとは異なる。
また、95度のVバンク内にシングルターボを搭載するLMP1、F2用では燃料噴射装置が違いがみられ、LMP1用ではより巨大なパワーを必要とするため250バールの直噴インジェクターが採用されたほか、ターボ、燃焼室、ピストン、エンジンバルブもF2用から変更された。
「この新しいV6エンジンのプロジェクトは、およそ2年半前に始まった」と語るのはメカクローム・モータースポーツを率いるブルーノ・エンゲリック氏。
「LMP1プログラムを開始したのはGP3とF2用エンジンの製造を担当することが決定した後だった。それゆえに2016年シーズンに向けて生産していたGP3用V6エンジンを基礎とすることは当然の決定だったんだ」
「来シーズン、LMP1プライベーターの競争が激しくなるのは明らかだった。そのために我々はエンジンの限界を引き上げる必要があったが、供給するチームの予算に合わせた開発をするため、問題解決への対応に多くの知恵を絞らなければならなかったよ」
より巨大なパワーを得る点に関して、モータースポーツ用エンジンでは普遍的なツインターボにしなかった理由としてはエンジンサイズを挙げる。
「LMP1用エンジンのシングルターボはF2用と同様にVバンクの中心にあるが、それぞれのターボではその仕様が大きく異なっている。また、我々はツインターボを搭載する可能性も模索したが、エンジンサイズをコンパクトに抑えるためにはひとつの大きな過給器を備える方が最適であると考えたんだ」と説明した。
「我々はとてもエキサイティングな見通しが立ったパラメーターリストを有している。協力関係を築く新たなチームを歓迎するとともに、一緒に仕事をすることを楽しみにしているよ」
パッケージエンジンとしてジネッタLMP1シャシーに搭載されるほか、BRエンジニアリングとダラーラが共同開発した『BR1』への搭載も可能とされている『V634P1』。メカクロームでは今回の発表においてLMP1以外の活用法についてもコメントしており、その一環としてIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップの最高峰、デイトナプロト・インターナショナル(DPi)用への改良も検討しているという。
メカクローム『V634P1』テクニカルデータ
※WEC 2018/19スーパーシーズン用
形式:V型6気筒シングルターボ
排気量:3396cc
バルブ数:4バルブ/気筒
ボア×ストローク:96mm×78.2mm
バンク角:95度
ターボ:180度ツインストロークタービン
ECU:ボッシュMS6.4
最大回転数:9000rpm
最高出力:650PS/7000rpm(燃料流量制限110kg/h適応時)
最大トルク:650Nm/6000rpm(燃料流量制限110kg/h適応時)
燃料噴射装置:気筒内直接噴射およびポート注入システム
潤滑方式:ドライサンプ
搭載方法:フルストレスマウント
構造体:高強度アルミニウム(クランクケース、サンプ、タイミングドライブカバー、シリンダヘッドカバー)、鋼鉄(ウエットライナー)