2017年12月18日 10:32 弁護士ドットコム
下戸で酒が飲めない人にとって、飲酒を強要されることは苦痛でしかない。東京都内の会社員・J子さんも、「飲めないなら飲めないなりに、面白い理由を言うべき」と、しつこく絡んできたかつての上司を根に持っている。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、飲めない人たちから「酒を強要された」というトラブルにまつわる相談が多数、寄せられている。ある人は「お酒は全然だめだけど無理やり飲まされました。そして次の日は体調が悪く仕事もできない状態でした」という。また別の人は、上司から「飲めないなんて言い訳だろ。場が白けるから飲め」「俺が注いだ酒だぞ」と執拗に要求されたという。
こうした行為はアルコールハラスメントとも言えるのではないか。また、体質的に飲めない人が止むを得ず飲み、体調不良、急性アルコール中毒などを発症したら、犯罪行為にはならないのだろうか。平山 諒弁護士に聞いた。
「『アルハラ』という概念自体が法律に定義されているものではありませんが、当然のことながら『意に反した飲酒の強要』が許されるという事にはなりません。
まず、害悪の告知(相手の生命、財産などに害悪を加えることを伝えるなどの行為)をして、義務のない行為を無理に強いるという側面を切り出せば『強要罪』(刑法223条)にあたります。結果として、体調を崩す、急性アルコール中毒にさせたとなれば『過失傷害』(刑法209条)や『傷害罪』(刑法204条)、命にかかわる場合には『傷害致死罪』(刑法205条)に該当するケースもあるでしょう」
上司から命じられた場合、アルコールについては断れない状況も多いだろう。これはパワハラに該当するのだろうか。
「上司と部下というような立場の上下関係を利用して行われるアルハラは、まさに典型的なパワハラの一類型と言っていいのではないでしょうか。
実際に、アルハラは慰謝料の問題にも発展します。意に反する飲酒の強要で精神的苦痛を受ければ不法行為責任(民法709条)が生じますし、職場の問題であれば会社にも使用者としての責任が生じる(民法715条)こともあります。
なお、飲酒できない部下に飲酒を強要したことが原因で訴訟になり、不法行為性が認定された裁判例(平成25年2月27日東京高等裁判所判決【平成24年(ネ)第2402号】)もあります。
確かに『飲みニケーションで人間関係が円滑になる』という側面もあるので、大人の付き合いは大事ですが、嫌がる人に無理やり飲ませていいという理屈にはなりません。お酒は楽しくほどほどで、適量とマナーを忘れずに」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
平山 諒(ひらやま・りょう)弁護士
中央大学法学部、一橋大学法科大学院卒。大小さまざまな規模の事業者の顧問業務へ従事経験を持ち、現在は労働問題を中心に企業経営のパートナーとして活躍。 府中ピース・ベル法律事務所代表。顔色が変わらないためアルコールに強いと誤解されがちだが、最近めっきり弱くなってしまい、忘年会と新年会のシーズンが少し怖い。
事務所名:府中ピース・ベル法律事務所
事務所URL:http://fpb.tokyo/