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flumpoolは『Re:image』ツアーで何を伝えようとしていた? 活動休止前公演から考える

2017年12月18日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 12月6日に、山村隆太の歌唱時機能性発声障害による当面の活動休止を発表したflumpool。その3日前となる12月3日、パシフィコ横浜で行われたライブは、活動休止発表前最後のライブとなった。2018年にデビュー10周年を迎えるというタイミングで、『Re:image』というタイトルが付けられたツアー。この日のステージで、彼らは何を伝えようとしていたのか。


 映像を巧みに使いながら、サポートメンバーを加えたスケールの大きなサウンドで会場を一つにした1曲目「World beats」。タオルを回して盛り上がり、立て続けに3曲を披露した。軽くMCを挟み、早々に新曲の「WINNER」を披露する。ビジョンには歌詞が映し出され、観客は<僕は僕の背中を何度でも押し続けるよ強く>と歌う、強いメッセージ性に一気に引き込まれていった。


(参考:山村隆太「デビュー時、バンドに実像がないと感じていた」


 『Re:image』というタイトルについて、そこに込めた想いを伝えたのは中盤だ。「ツアータイトルは、“イメージし直す”という意味です。未来をやり直そうという気持ちで付けました。来年10周年を迎えるのですが、この10年でいろいろなバンドが生まれては消えて、そんな中でもこうして続けて来られたのは、みなさんのおかげです。ただ、自分たちがデビューした時に想像していた10年目の僕らに、まだ自分たち自身が届いていないなと思ったんです。でも諦めてはいません。まだ可能性はあるから。だからみなさん、僕らと一緒に未来をやり直してくれますか?」


 そう言って歌ったのは、デビュー曲「花になれ」だった。この曲は配信限定シングルとして2008年10月1日にリリースされたもので、当時のau KDDIのCMキャンペーンソングとして話題を集め、配信開始10日間で100万ダウンロードを突破。そのわずか一週間後には『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初出演し、同年末の『ミュージックステーションスーパーライブ2008』にもラインナップされるなど異例のヒットになった。


 しかしこの曲は、メンバーのオリジナルではなく、agehaspringsに所属する百田留衣が作詞・作曲・編曲を手掛けたものだ。きっと当時は、思いがけず訪れた大ブレイクという状況と、デビューしたてホヤホヤという自分たちとの間に、大きな隔たりを感じていたのだろう。しかしだからと言って、今それをなかったことにするわけではなく、10年という月日がかかってしまったが、今この場でそのギャップを埋めたいという願いが、この選曲には込められていたように思う。実際に当時よりも力強く、どこまでも真っ直ぐな歌と演奏は、まさしく「花になれ」に相応しいものだった。


 その後に演奏された「僕はここにいる」は、2011年の2ndアルバム『Fantasia of Life Stripe』に収録していた、力強いサウンドの中にも清々しいメロディが光る楽曲だ。歌詞には、<僕は僕の過去を否定も肯定もしない きっと明日だけをただ見据えてきたからさ>というフレーズがあり、この言葉が、今の彼らをもっとも表していただろう。終わったことはやり直せないし、“もしあのときこうしていたら”と、たらればの未来を欲することは、いたずらに時間を浪費するだけのことだ。flumpoolがこの日掲げた『Re:image』というテーマは、ありもしない未来を夢想するのでも、過ぎ去った過去を嘆くのでもなく、今の自分たちとその先にある未来をしっかり見つめるということだった。


 そしてその後に歌った「ナミダリセット」は、実に感動的なバラードだ。曲の最後には観客の<ラララ~>という声が会場を埋め尽くし、人と人が優しく繋がっていくような一体感と、何とも言えない温かい空気で包み込まれる。この曲を主題歌にした映画『サクラダリセット』は、時間を巻き戻す能力を持った主人公が、自分の求める未来のためにリセットを繰り返して……という物語で、歌詞では、涙を消すことはできないけどそのための努力は続けていたいと歌っていた。


 そんな「ナミダリセット」の強い想いを裏付けるように、続けて歌ったのが、2010年の4thシングル「reboot ~あきらめない詩~」だ。この曲をリリースした当時、山村がノドのポリープ手術で約2カ月の活動休止をした経験を持つ。そんな経験を経て、再び立ち上がったときの強い想いを込めたのが<いつだって何度だって変わってゆける>という歌詞であるが、ここには彼らの諦めないハート、未来を悲観していない気持ちが表れていた。決してうつむかず、真っ直ぐ前を向いて歌う山村の視線の先には、きっと輝く未来が映っていただろう。


 曲によって、ところどころ声がかすれたり高い音が出なかったりする場面があり、メンバーはそんな山村をフォローしながら、お客さんを心配させまいとMCで笑いを取っていたのが印象的だ。ギターの阪井一生は、デビュー当時女の子と横浜でデートしたときのほろ苦い経験を告白し、「俺だって文春砲を食らいたい!」と、大爆笑の会場に満足げな様子だった。一方、何度も「こんな声でごめん」と繰り返していた山村は、「こんな声になっちゃったけど、まだまだ歌いたいんだ。こんな声でもついて来てくれますか?」と、問いかけると「頑張って」と声援もあがり、「みんなやさしすぎるよ」と涙ぐむ場面もあった。


 本編の最後に歌ったのは、12月26日にリリースする新曲「とうとい」だ。命をテーマにした曲で、「一人じゃないから前に進める。みんなにも必ず支えてくれる誰かがいる。だから一緒に戦っていこう。もしみんなの前に、どうにかしないといけない現実があるなら、きっと聴こえてくるエール(歌)がある。今日横浜に集まったこのメンバーで、そんな歌をみんなで歌おう!」と、山村。温かく、そっと手を差し伸べるようなミディアムナンバーで、雨上がりの空に虹が架かるような曲だった。


 この日このときの彼らが、活動休止という未来まで想像していたかどうかは分からない。しかしファンと一緒に未来を作って行こうと、強い願いを持っていたことは確かだ。決して悲観はしない。この10年が、ずっとそうだったように。「僕はここにいる」や「reboot ~あきらめない詩~」の歌詞のように、きっと未来を見つめて、諦めることなく何度でも挑戦してくれるはずだ。それに「花になれ」の歌詞には、<十年後僕にこの歌を捧げよう 笑って泣いて歌って花になれ>という一節がある。「花になれ」からちょうどデビュー10周年となる2018年10月1日には、何度も『Re:image』を繰り返した、真の「花になれ」を聴きたいと強く願うばかりだ。(榑林史章)