2017年12月16日 06:02 リアルサウンド
本日16日、土曜時代ドラマ『アシガール』(NHK)の最終回「若君といつまでも!」が放送される。同ドラマは、『ごくせん』『デカワンコ』の森本梢子による同名人気コミックを実写化したエンターテインメント時代劇。脚力だけがとりえの女子高生・速川唯が、愛する若君を守るために戦国時代にタイムスリップし、足軽となって戦場を駆ける模様を描く。
参考:川栄李奈が語る、『アシガール』阿湖姫役の楽しさ 「唯之助とは対照的なお姫様感を意識しています」
リアルサウンド映画部では、母の身分が低く跡取りではないが、忠清(健太郎)の兄である羽木成之役の松下優也にインタビュー。成之役への想いや、お芝居をする上で意識していること、音楽グループX4として音楽、ダンス、そして俳優と幅広く活躍している現在などについて、じっくりと語ってもらった。【インタビューの最後には、チェキプレゼント企画あり!】
■「成之役では“芝居の芝居”をしていた」
――松下さんは『べっぴんさん』では昭和時代、今回の『アシガール』では戦国時代を演じていますが、自分が生きていなかった時代を演じる際には、どのようなことを意識していますか?
松下優也(以下、松下):特別何かを意識することはありません。これまで、ミュージカル『黒執事』のセバスチャン・ミカエリス役や、舞台『暁のヨナ』のハク役など、人じゃない役柄をいただくことも多かったので、生きている時代が違うくらいだったら、あまり違和感を覚えないです。でも、今回の『アシガール』は時代ドラマなので、所作などには苦労しました。
――特に苦労した所作は?
松下:歩き方など、ちょっとした動きに現代人らしさと言いますか、僕の癖が出てしまうので、そういうところは難しいなと思いました。歩く時に、左右に揺れてしまうんですよね。でも、日常生活で着物を着ていた当時の方たちは、あまり上半身を動かさずに歩くんですよ。現代人も歩く時に、左足と右手を同時に出して……なんて考えてはいませんよね。無意識で自然に歩けるようになるまでは、時間がかかりました。
あとは最も苦労した点で言うと、胡坐(あぐら)から立ち上がる時に手を使わないことですね。今はもう慣れましたが、最初は本当に難しくて、なかなか立ち上がることができませんでした。まず、胡坐から立ち上がる時に、手を使わないなんて考えたこともなかったので(笑)。
――言葉遣いも現代とは違いますよね。
松下:言葉遣いも、普段使わないものだらけなので苦労はします。ただ単に発すればいいわけではなく、慣れない言葉に感情をのせないといけないので。でも、芝居にも制限がかかってしまうと言う意味では、所作などの動きの方が大変でしたね。
――特に印象に残っているシーンは?
松下:第7話までだと、成之が如古坊(本田大輔)を張り倒すシーンですね。その辺から、今までの成之とはだいぶ変わってきます。原作の漫画だと、成之は初めから“絶対に何かある”雰囲気が漂っていたのですが、今回のドラマでは、初めのうちは意識的にその感じをあまり出さずにいました。
――なぜ、原作とはキャラクターをやや変えたのでしょうか?
松下:まず撮影に入る前に、監督から「第4、5話辺りに入るまでは、あまり裏がある雰囲気を出さないでほしい」というお話をいただきました。“芝居の芝居をする”と言いますか。最初の方の描き方では、如古坊が成之を支配しているように感じるはずです。実際に周りの人たちはそう思っています。たとえば、第1話の最後に、唯と成之が初めて出会うシーンがありました。あの時も、成之が如古坊に首で促されていましたよね。実はそういう見せ方も、成之の作戦だったことが後に明かされています。さっき言った成之が如古坊を張り倒すシーンは、二人の関係性の見え方が一気に逆転してくる場面でもあります。
――成之は視聴者も含めて欺いていたわけですね。芝居の芝居をするというのは、普通のお芝居よりも難易度が高いように感じます。
松下:難しいのは難しいですが、深く考えすぎると不自然になってしまう気がしたので、“いい人”を演じることだけに意識してお芝居をしていました。
――裏の顔を隠した温厚な成之である一方で、成之の全身からは心に秘めている激しい感情が発せられているような印象も受けました。
松下:もちろんそれもあります。やはり、常に根っこには恨みの感情があるはずなので。成之は今、腹の中ではどんなことを考えているんだろう、ということを想像しながら、本読みをしていました。
――松下自身さんは、成之に対してどういう印象を持っていますか?
松下:やり方は間違っていますが、決して悪い人間ではないと思っています。むしろ、見る角度によっては、正しい人間なのかなと。表に出てくる言葉や表情は嫌なやつに見えますが、でもそれは、弱き者に優しいからこそなんじゃないかなと。
■「お芝居でしか出せない自分がある」
――松下さんは中学生の頃からずっと音楽の勉強をしていますよね。なぜ、役者としても活動しようと?
松下:デビューしたのは18歳なのですが、実はデビュー前に映画のお話を頂いて、そこで初めてお芝居をさせていただきました。あまり大きな役ではなかったのですが、その頃は訳もわからずに、ただ全力でやっていましたね。そのあとに初主演かつ初舞台のお話をいただいて、その舞台でお芝居を年一回のペースでやらせていただくことになりました。もともと表現することが好きなので、徐々にお芝居の仕事が増えていくのと同時に、その面白さに気付いていきました。正直それまで、僕には歌と踊りがあったので、それ以外の方法で表現するなんてことは考えてもいなかったのですが、お芝居をやっていくうちに、ダンスや音楽では表現できない部分、お芝居でしか出せない自分があることに気づきました。音楽、ダンス、芝居それぞれに違う楽しさがあるので、今でも全部やらせていただいています。ただ時期によっては、音楽に傾いたり、お芝居に集中したりと、多少バラつきはあるのですが。
――お芝居でしか出せない自分とは、どのような部分なのでしょうか?
松下:僕にとって音楽は、“いかに自分の中にあるものを発信していくか”という側面が大きいのですが、お芝居は真逆なんですよね。お芝居は“自分じゃない誰かになれる”ということが、一番大きいと思います。自分のこうしたいという願望よりも、周りの方たちとの調和を大切にする感覚です。僕もその役になるべく寄っていきたいという想いがあるので、言い方は悪いですが、どこか他力本願なところがあります。お芝居は、内にあるものを発するのではなく、周りから引き出していただくことが多いです。
――『アシガール』でも、どなたかに引き出してもらっている部分はあるのでしょうか?
松下:引き出していただいてばかりです。台本を読んでセリフを覚えて、ある程度自分の中でイメージを固めてから現場に入っても、実際は想像していた立ち位置と全く違ったり、ほかの役者さんが思ってもいなかった動きをしたりすることも多いので。だから、セリフを覚える時点で、ここはこの場所でこういう風に言おうなどと、ガッチリ決めてしまうと、それに縛られすぎて、臨機応変に対応できなくなってしまいます。周りの雰囲気によって、僕も変化していくという意味で、他力本願なんですよ。あらかじめ自分が考えておいて貫き通すのは、この場面での成之の気持ちはどうか、という部分だけですね。
僕はあまり、監督や共演者に対して、僕はこう思います! とは言いたくないんです。たとえ役のことを想っていたとしても、それは僕個人の考えでしかないから。自分の思考に固執するのではなく、周りの意見に耳を傾けることで、僕自身も作品自体もより可能性が広がっていくのではないかと思っています。自分的には納得できないことでも、見方によっては正しいこともあるので、そこは頭を固くしたくないなと。でも正直なところ、僕は役者としてまだまだ未熟なので、周りの方たちに頼りたいと思っている部分もあるのかもしれません。
――周りの考えを受け入れる柔軟性が大切だと。松下さん自身の主張は最小限に抑え、流れに身を委ねているのですね。
松下:実際にお芝居をしていると、案外そっちの方が面白いんですよ。特に映像では。舞台は冒頭から結末まで、大抵は予想通りに進んでいきます。僕のお芝居に対して、その場で照明が当たり、音楽が流れ出し、お客さんからリアルな反応も返ってくる。舞台はリアルタイムで結果が出ますが、映像は完成して世に送り出されるまで、僕たち出演者もどう仕上がっているのかわかりません。撮影したシーンを、その都度モニターでチェックはしますが、まだ音も入っていない状態なので。すべてが繋がった完成品を観た時に初めて、狙いすぎても意味のないことがわかったり、自分が気付いていなかったよさを引き出していただいている部分があったり、逆にもっとこうやっておけばよかったと反省するシーンがあったりと、その場では見えなかったものが浮かび上がってくるんですよね。そのドキドキ感がたまらないです。
――最後に、松下さんは中学3年生の頃にソウルミュージックにみせられて、単身でニューヨークを訪問していますが、いずれ音楽でも役者でも海外に出たいという気持ちはあるのでしょうか?
松下:そうですね。実際に僕の音楽を、海外でも聴いてくださっている方がたくさんいらっしゃるので、嬉しいと思うと同時に面白いなと。今の時代だからこそなのか、僕が行ったことのない国でも、僕らの音楽を知っていただけていることにワクワクします。なぜか僕、タイですごく人気があるらしいんですよ。多分これまでに、アニメの主題歌などをやらせていただく機会が多かったからだとは思うのですが、それでも不思議やなと。活動の拠点が日本だけとは、特に自分自身も考えていないので、可能であれば世界にも進出していきたいなと思っています。それはもちろん、音楽やダンスに限らず、お芝居でも。
(取材・文・写真=戸塚安友奈)