2017年12月15日 11:42 弁護士ドットコム
名古屋市のホルモン焼肉屋で11月27日、店舗と隣の不動産会社の一部を焼く火事が起きた。報道によると、「ホルモンの焼き過ぎ」が原因の可能性もあるという。
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産経新聞は、店内にいた客の、ホルモンを大量に焼いたら、火がダクトに燃え移ったというコメントを紹介している。「食べ放題の時間内に食べきれるようにたくさん焼いた」のだという。
どのくらい「たくさん」だったのかは定かではないが、客からすれば、焼肉で火事になるなんて想像もしなかっただろう。とはいえ、もしも、「ホルモンの焼き過ぎ」が原因だったら、客の責任が問われることはあるのだろうか。池田誠弁護士に聞いた。
「過失で火事を起こしてしまった場合の損害賠償責任は、(1)債務不履行による場合と、(2)不法行為による場合とで、求められる過失の程度が大きく異なります」と池田弁護士。
「何らかの契約上の義務に違反して火事を起こした場合(債務不履行)には、軽い過失でも損害賠償義務を負いますが、そうでない場合(不法行為)には、重過失がない限り、責任は負いません(失火責任法)」
そもそも、焼肉屋で客にどんな契約上の義務(債務)があると考えられるのか。
「飲食客と店舗の間に飲食物の供給契約があり、それに付随する義務として、飲食客には、テーブルやコンロなどを用法に従って安全に使用するべき義務が課されていると考えられます」
もしもコンロを安全に使う義務に違反すれば、債務不履行責任を問われる可能性があるわけだ。
「もっとも、飲食客が安全な使用義務を負うのは、コンロなど貸与された機器そのものについてです。店舗や建物全体についてまで債務不履行責任を負わせることは酷であると言えます。
この点、1976年3月31日の東京地方裁判所判決は、他の店舗と簡易な壁で仕切られただけの一区画を店舗として賃借していた者が、失火によって建物全体に被害を及ぼした事件で、その者に債務不履行責任を問えるのは、当該一区画の損害の範囲であると判断しました。
この考えに沿って考えると、今回の件でも、もしも飲食客が債務不履行責任を負うとすれば、自分たちが使っていたコンロなどの賠償責任だけであると考えられます」
では、不法行為の方はどうだろうか。
「失火責任法が損害賠償責任の要件とする重過失とは、『通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態』(最高裁判所第三小法廷1957年7月9日判決)を指すとされています」
具体的な事例はないのだろうか。
「たとえば、飲酒の上、アルミ製鍋をガステーブルにかけて点火したまま寝入って出火させ、建物に延焼させた事例で、重過失なしとしたものがあります(東京高等裁判所2002年2月28日判決)。
今回の件では、飲食客が『ホルモンを焼き過ぎた』ことが延焼の一因と考えられているようです。しかし、『焼き過ぎた』としてもダクトに及ぶほどの炎が出ることは容易には予見されないと思います。
もしも、飲食客に火災による不法行為に基づく損害賠償責任が発生するとしたら、実際に炎が相当程度発生し、ダクトへの延焼の危険を確認しながら放置し、または更にホルモンを追加するなどの行為に出た例外的な場合に限られるでしょう」
どうやら、飲食客に責任が発生する可能性はかなり低そうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
池田 誠(いけだ・まこと)弁護士
証券会社、商品先物業者、銀行などが扱う先進的な投資商品による被害救済を含む消費者被害救済に注力している下町の弁護士です。
事務所名:にっぽり総合法律事務所