2017年12月15日 10:32 弁護士ドットコム
「有給休暇が取れない」と会社を提訴ーー。JR東海に勤務する新幹線の運転士ら2人が11月28日、有休を希望通りに取れなかったことを理由に、会社にそれぞれ65万円と30万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
【関連記事:「週休二日制」と「完全週休二日制」を勘違いして休めない日々…どう違うのか?】
原告はJR東海労働組合の組合員。組合の報道発表によると、JR東海では「この日に有休を取りたい」と申し込んでも、「実質的に一方的に拒否され、就労を強制されることが常態化している」という。
たとえば、訴えた運転士の1人は、2015年度に86回申し込みをして、認められたのが21日。2016年度は、67回中13日だった。認めないことについて、会社からは何の説明もなかったという。この結果、年20日(繰り越し除く)の有休があるところ、一部が失効し、疲労回復の機会を逸したなどと訴えている。
今回の裁判のポイントはどこなのか。寺岡幸吉弁護士に聞いた。
有給休暇を希望日に取れないことに、どんな問題があるのだろうか。
「有給休暇を取得する権利(年休権)を有する労働者が、有給休暇を取得しようとする場合、『時季指定権』を行使します。『時季』というのは、幅のある指定でもいいことを表す言葉ですが、通常は特定の日を指定します。『この日に休みたい』ということです。
この時季指定権は、使用者の承諾に関係なく、権利を行使すれば、当然に、その「時季」に有給休暇が取得できるという法的効果が発生すると考えられています」(寺岡弁護士)
ということは、会社は拒否することができないのだろうか。
「指定された『時季』に有給休暇を取得することが、『事業の正常な運営を妨げる』場合には、使用者は時季変更権を行使できるとされています(労基法39条)。
『事業の正常な運営を妨げる』か否かは、労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきであるとされています(此花電報電話局事件判決)。
原告は、JR東海においては、時季指定をしても、一方的に拒否をされ、就労を強制されることが常態化していると主張しています。そこで、JR東海における時季変更権の行使が適法と言えるか否かが、大きな争点になると思われます」
今回の訴訟にはそのほか、どんな論点があるのだろうか。
「今回の訴訟における請求額は、60万円や35万円という、いわゆる『切りのいい数字』になっています。
一般に、有給休暇を巡る訴訟や労働審判における請求は、有給休暇の時季指定をしたにもかかわらず、それが欠勤として扱われてしまったために、未払いとなっている有給休暇分の賃金を請求するという形が普通で、この場合には、切りのいい数字になることはほぼありません。
そのため、今回の訴訟は、有給休暇の取得が認められなかったことに対する慰謝料などの請求である可能性が考えられます。
この場合には、有給休暇の取得を妨害された場合に、慰謝料などの損害賠償請求が可能かということが争点になります。この点については、日能研関西事件判決が、損害賠償請求権を肯定しています。本件においてどのように判断されるかが注目されます」
提訴した運転士の1人は有給休暇の取得率が8割を超えているが、取得率の高さが判決に影響する可能性はないのだろうか。
「今年2月に発表された、就労状況総合調査(2016年)の結果によれば、有給休暇の取得率は、労働者全体の平均で48.7%となっています。今回の訴訟の原告らの取得率は、これを大きく上回っていますが、これが訴訟の結果に影響を及ぼすことはないと思います。
実際の取得率が50%に満たないものであっても、定められた日数の有給休暇を取得することは、労働者の権利だからです。平均取得率を上回って取得されているとしても、使用者による妨害行為は許されません。有給休暇の取得推進は、『働き方改革』においても主要な柱の一つです」
組合は、希望通りに年休が取れない理由として、要員不足があるとも主張している。同様の年休裁判を大阪でも起こし、今後東京での追加提訴も予定しているという。今後の有給休暇をめぐる議論にも影響しそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
寺岡 幸吉(てらおか・こうきち)弁護士
社会保険労務士を経て弁護士になった。社労士時代は、労働問題を専門分野として活動していた。弁護士になった後は、労働問題はもちろん、高齢者問題(成年後見や高齢者虐待など)などにも積極的に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人おおどおり総合法律事務所川崎オフィス
事務所URL:https://os-lawfirm-kawasaki.jp