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『コウノドリ』には愛しかないーー困難を乗り越える登場人物たちが教えてくれること

2017年12月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『コウノドリ』第9話では、登場するキャラクターたちが、それぞれが抱える困難や壁にぶつかるも、確実に一歩ずつ踏み越えていく様子が描かれていた。


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 何度かの流産を経験し悩んでいた篠原沙月(野波麻帆)は悲しみを夫婦の絆で乗り越え、光が見える状況になった。四宮春樹(星野源)は肺がんで倒れた父・晃志郎(塩見三省)に代わり、早期胎盤剥離の疑いのある妊婦の緊急帝王切開に踏み切って笑顔を見せ、救命に異動した下屋加江(松岡茉優)も救急で運ばれた妊婦を咄嗟の判断で救ったし、今までペルソナの絶対的守護神のような存在だった今橋貴之(大森南朋)でさえ、今後のキャリアについて発言する場面があった。


 『コウノドリ』は出産を巡る医療の現場を描いたドラマだが、決してその当事者たちだけが共感できるドラマにはなっていない。壁にぶち当たり挫折したときに、どう立ち上がるのか、悩みや不安を抱えながらどう前を向いていくか。誰もが経験するそうした普遍的な問題を、登場人物たちが地に足をつけて乗り越えていく姿に、本作の魅力は詰まっているのではないだろうか。


 登場するキャラクターについて改めて考えてみると、鴻鳥サクラ(綾野剛)、四宮、小松留美子(吉田羊)、下屋、白川領(坂口健太郎)、赤西吾郎(宮沢氷魚)……全員、とても優しい人たちだ。サクラのあの聖母のように患者に寄り添う姿はもちろん、四宮もあの不躾な態度の裏には赤ちゃんと妊婦を何があっても守りたいと思う強い気持ちが隠れている。下屋や白川も情熱のあまり時に暴走する場面もあるが、素直で努力家で一生懸命だ。


 サクラをはじめ、四宮も今橋も、上にいる立場のキャラクターは皆いい指導者でもある。第1話に登場した佐々木蔵之介演じる荻島も、四宮の父もそうだ。荻島は自らの強い意志を持って医療に向き合うことで、後輩であるサクラたちに命や仕事の尊さを伝え、今橋は白川が小児循環帰科に異動したいと希望を言った際、「白川先生の夢を応援してあげたい」と喜んで背中を押した。四宮の父も、自分の代わりに手術を執刀した息子に対してありがとうと握手を求めた。


 つまり、『コウノドリ』には愛しかないのだ。愛情こそが人を変え、支え、育み、繋いでいく。この人生におけるある種の答えを、それぞれのエピソードから伝えてくれているからこそ、誰にとっても響くドラマになったのではないだろうか。人生、成長、命ーー。すべての人にとって、身近で、最も尊いテーマである。


 コウノドリの魅力として追記したい点がもうひとつある。メインキャストはもちろんのこと、各話に登場するゲストのキャスティングが抜群にハマっていることだ。今回の篠原夫妻の夫役は、『下町ロケット』での演技が印象的だった高橋光臣。沙月を気遣うあまりいつも戸惑うような表情をしていた彼が、彼女を何とか笑顔にさせようとピアノを購入し、Baby(サクラ)の曲を練習しているシーンは非常に感動的だった。


 第5話に登場した西山瑞希を演じた篠原ゆき子も、お腹の中で赤ちゃんを亡くしてしまうという難しい役を見事に演じきった。悲しみだけではなく、子どもへの溢れる愛情を感じさせる演技は多くの視聴者を惹きつけた。第1話で登場した志田未来や高橋メアリージュンも、出産・子育てへの不安を抱えながらも、必死に健闘する母の姿を見せてくれた。愛情を表現するという点において、高い演技力を見せてくれる俳優が多く起用されているということも、視聴者の心を捉える大きな要因の一つだと感じている。


 今夜放送の第10話では、“出生前診断”について放送されるようだ。出産のポジティブな面だけではなく、過酷さや厳しさなどを通して本当の姿を描いてきた『コウノドリ』だからこそ、倫理観や出生に関わる問題であるこのテーマを扱えるのだと思う。命について、どういった問いと答えを見せてくれるのか。(橋本美波)