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LOUDNESS、“2つの時代”のライブ音源に見る進化の軌跡 『8186 Now and Then』徹底解説

2017年12月13日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 LOUDNESSがCD4枚組ライブアルバム『8186 Now and Then』を12月13日にリリースする。本作はそのタイトルのとおり、1986年11月に発表されたキャリア2作目のライブアルバム『8186 LIVE』に関連した作品で、『8186 LIVE』オリジナル盤をリマスタリングしたCD2枚と、今年4月13日にZepp Tokyoで行われた全国ツアー『LOUDNESS JAPAN Tour 2017 “LIGHTNING STRIKES” 30th Anniversary 8117』最終公演の本編を収めたCD2枚から構成されている。このZepp Tokyo公演で彼らは、ライブアルバム『8186 LIVE』を曲順どおりに再現。ドラマーこそオリジナルメンバーの樋口宗孝から2代目ドラマー鈴木政行に交代しているものの、このCD4枚組作品では『8186 LIVE』発表時から31年を経たLOUDNESSの変わらないもの、進化したものを同じ楽曲、同じ曲順で確認することができる。


 本作の魅力について語る前に、まず『8186 LIVE』リリース当時のLOUDNESSの状況について振り返ってみたい。1981年11月にアルバム『THE BIRTHDAY EVE ~誕生前夜~』でメジャーデビューを果たした彼らは、国内HR/HMバンドとしては異例の成功を収め、1983年には初の海外公演も実現。翌1984年には海外の老舗レーベル<Atlantic Records>と、「7年間にアルバム7枚」という日本人アーティストとしては過去前例のない契約を結ぶ。そして1985年全米デビューアルバム『THUNDER IN THE EAST』をリリースし、Billboard 200(アルバムチャート)で最高74位にランクインするという偉業を成し遂げた。同年春および夏には本格的な全米ツアーも実現し、その一環として8月にMotley Crueのオープニングアクトとしてマディソン・スクエア・ガーデンのステージに立った。ツアー終了後には再びアルバム制作に突入し、1986年3月に通算6枚目のスタジオアルバム『SHADOWS OF WAR』を発表(同作はリミックス&曲順変更して、『LIGHTNING STRIKES』と題し同年夏に全米リリース)。全米ツアー凱旋および『SHADOWS OF WAR』のリリースを記念して3月から6月にかけて行われたジャパンツアーのうち、4月3日&4日には代々木オリンピックプール(現在の国立代々木競技場第一体育館)で大規模なアリーナライブを開催。この4月4日の公演がライブレコーディングされ、同年11月にデビュー5周年を祝す形で『8186 LIVE』がリリースされたのだ。


 実は彼らが東京でアリーナ単独公演を行うのは、この時が初めて(意外にも、初の日本武道館公演はこれよりあとの1986年12月に実現)。日本のHR/HMバンドがこの規模感のステージを繰り広げることは1986年当時では異例の事態で、全米ツアーを経験した彼らならではの巨大なステージ&派手な照明が用いられたライブが展開された。このライブの模様は、当時発売されたライブビデオ『LIVE IN TOKYO LIGHTNING STRIKES』でも確認できる。同作品は今でこそDVD化され安価で入手できるが、初出時はVHSテープ、しかもビデオデッキがようやく一般家庭に普及し始めたタイミング、かつソフトも現在のように手軽に購入できるような価格でなかったため、当時中学生だった自分がこの映像を目にしたのはかなり時間が経ってからのことだった。


 DVDやBlu-rayがCDと同等の価格で購入できたり、YouTubeなどで手軽にライブ映像が楽しめたりする現在とは異なり、80年代の音楽ファンにとってライブアルバムは非常に価値のあるアイテムだった。特に地方在住でライブにも頻繁に足を運べない中高生にとって、ライブアルバムこそがロックバンドの“旬の音”を疑似体験できる、非常に重要な作品だったのだ。しかも、テクニック的にも非常にレベルの高いバンドの場合、スタジオアルバムでは聴くことのできないアドリブやコンビネーションプレイ、曲間のMCや楽器隊のソロコーナーなどを楽しめるのがライブアルバムの醍醐味。事実、筆者も中高生の頃に二井原実(Vo)のMCや高崎晃(Gt)のスタジオバージョンとは異なるギターソロを暗記して“口コピー”できるまでに、この『8186 LIVE』を聴きまくった。


 また、歴史的価値を語るうえでも『8186 LIVE』は非常に重要な作品と言える。同作がライブレコーディングされた当時、LOUDNESSのメンバーは20代半ばという、ミュージシャンとして脂が乗り始めた時期。しかも海外の強豪たちとツアーをすることで人間としても、ミュージシャンとしても成長し続けているタイミングという意味では、1983年に発表されたLOUDNESS初のライブアルバム『LIVE-LOUD-ALIVE LOUDNESS IN TOKYO』と比較しても興味深い成長が伺えるはずだ。


 今回、新たにリマスタリングが施された『8186 LIVE』を聴いて改めて驚いたのは、その音のクリアさ。1万人規模のアリーナクラスでのライブということで、その臨場感や音の繊細さという点は期待できないと思う方も多いかもしれないが、もともと『8186 LIVE』という作品は当時のHR/HMバンドのライブ作品としてはかなりサウンドもクリアで、ギターの繊細なタッチもそのまま封じ込まれていた印象が強かった。今回のリマスター音源を聴いてもその印象は変わらず、むしろ「これが31年前の音源なのか!」とビックリさせられた。


 その『8186 LIVE』と対になるのが、今回初出のZepp Tokyo公演のライブテイクだ。31年前の音源と比較するのは正直どうなんだろう? と最初は思ったのだが、前述のとおり『8186 LIVE』リマスター盤の仕上がりが素晴らしかっただけに、全体的な音像の質感や演奏のタッチ、各楽器のサウンドメイキングや二井原の歌声以外に両者にそこまで大きな落差を感じることはなかった。むしろ、1986年の音源からは海外に足を踏み出したミュージシャンのギラギラ感が強く感じられ、2017年の音源にはドッシリ構えた安定感と表現者としての深みがにじみ出ている。それこそが、31年という長い月日の流れを実感させられる大きなポイントだ。


 もちろん、ドラマーが交代していることで、楽曲のベースとなるリズムプレイが異なる部分も多々ある(樋口はワンバスプレイヤーだったのに対し、鈴木はツーバスプレイヤー)。山下昌良(Ba)のプレイもその当時のドラマーに合わせた多彩さが感じられるし、高崎のギタープレイからも単にテクニカルだけでは済まされない深みが最近のプレイには表出している。二井原にしても50代半ばを迎え、声域的にも厳しい部分がないわけではないが、原曲にあったハイトーンを再現しつつも独特の節回しで“2017年のLOUDNESS”ならではの解釈を加えている。そういった意味では“『8186 LIVE』の完全再現”ではなく、“『8186 LIVE』を今の布陣で表現する”と言ったほうが正しいのだろう。事実、2017年版の音源には1986年版には未収録だった「WHO KNOWS (TIME TO TAKE A STAND)」(アルバム『SHADOWS OF WAR』および『LIGHTNING STRIKES』収録)も含まれており、単なる再現では終わらせないという今のLOUDNESSの心意気が感じられる。


 ここまで長々と解説してきたが、まずは自身の耳で2つの時代のライブを聴き比べることで、現在進行形で成長を続けるLOUDNESSというバンドの魅力に触れていただけたらと思う。と同時に、こういった温故知新企画が、年明け1月26日に世界同時リリースを控えた4年ぶりのニューアルバム『RISE TO GLORY‎ -8118-』にどのような影響を及ぼしたのかにも期待しておきたい。ここ数年、全米進出作となった『THUNDER IN THE EAST』や『LIGHTNING STRIKES』を携え世界中を駆けめぐったことで、彼らはこの新作でキャリア何度目かのピークを迎えることになる……そう信じて止まない。(文=西廣智一)