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『HiGH&LOW THE MOVIE 3』脚本家・平沼紀久インタビュー【後編】 「LDH精神で一本筋の通った作品になった」

2017年12月13日 14:12  リアルサウンド

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 『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』脚本家・平沼紀久氏インタビューの後編。前編では、最終章を迎えて“大人対子ども”の戦いが象徴的に描かれた理由や、新たに生まれた謎、続編の可能性などについて話を聞いた。後編では、3年弱の期間の中で見えた俳優陣の成長や、ファンの間で話題となったセリフについて、そして企画プロデュースを務めたEXILE HIROが抱いていた構想まで、深く掘り下げた。聞き手は、ライターの藤谷千明氏。(リアルサウンド映画部)


前編はこちら:『HiGH&LOW THE MOVIE 3』脚本家・平沼紀久インタビュー【前編】「単に男の子たちが喧嘩をするだけじゃない」


■本人たちとともにキャラクターが成長している


ーー『HiGH&LOW』シリーズも3年弱、映像作品だけでドラマシリーズ2本、映画4本、スピンオフDVDや配信ドラマなど様々な展開をみせています。ここまで長期間、しかもタイムラグもさほどなく同じ作品、同じ役をやることって日本のドラマ、映画ではとても珍しいことだと思います。その中で成長したと感じるキャラクターはいますか?


平沼:もちろん全員成長していると思いますし、キャラクターだけでなく本人たちも成長しているんですよね。最初のドラマの時よりもやっぱりノブ(鈴木伸之)の引き出しは増えたし、もちろん岩ちゃん(岩田剛典)もそうですし、もちろん山田裕貴くんもそうなんですけど。そしてもともと引き出しの多かった林遣都くんとか窪田くんはさらに見せ方の妙を熟知して現場に来てくれる。本人たちとともにキャラクターが成長していると感じることが多かったですね。『2』『3』を同時進行で撮らなければいけない理由はそこにあって、本人たちがこれ以上成長すると「僕たちの知ってるコブラ」でなくなってしまうかもしれない。今じゃないと撮れないものを撮っておきたい、そういう理由もあって連続で撮影したのもあるんです。


――RUDE BOYSも、もちろん窪田正孝さんはもともとすごい俳優です。そこにさほど演技経験があったわけではない佐野玲於さんたちが感化されて、だんだん成長してきているのをシリーズを通して感じました。


平沼:良い俳優さんって一瞬の感情がすぐに出るんですよ。普通は感情を積み重ねてから爆発させるものだと思うんですが、窪田くんや、他にも例えば山田孝之さんっていきなり一瞬でテンションマックスから入ってくれるんです。その感情のコントロールの出し方がすごい上手で、玲於は最後の「みんなを頼む」っていう時の感情をポンって出してくれる窪田くんの演技を貰って、彼もその感情の解き放ち方っていうのを一瞬で学ぶことができたと思うんです。そこからの玲於の演技ってすごい上手くなったんですよね。人間どうしても頭で考えて演技をしてしまうけれど、そうじゃないんです。それはスモーキーからタケシに教える瞬間っていうか、「別にこういう風にやれ」と教えるわけじゃなくて、時間がない中で集中して気持ちの共有をしていかなきゃいけない。そういう意味で、玲於は今回で感情の出し方をすごく学んだんじゃないかな。


――White Rascalsも『END OF SKY』での死闘を経て、今回は助ける側に回っています。終盤にROCKYが「お前たちの喧嘩は何か熱い」と、理屈ではないところで動いていることから、本当にSWORDの人たちのことを仲間だと思うようになったことが伺えて、そこがひとつの成長なのかなと。


平沼:彼らの気持ちは一貫していて、「女を守る」ですよね。それと、この先も俺たちはこの仕事をしていくということ。でも、SWORDの喧嘩ってお金や女は関係なくて、仲間や何かを守ることに特化している。それを1番経験しているROCKYという人に、このセリフを言わせたかった。あのシーンはSWORDのメンバー全員のセリフに説得力を持たせたかった。それに、琥珀がROCKYを名字で呼ぶことからわかるように、彼らは同世代なんですよね。琥珀は「正しく生きたい」という言い方をして、ROCKYは「腐った色には染まらない」と表現していたことって、結局は同じことなんですよ。他のSWORDの頭よりもちょっと大人の、ひとつ違った考えを持っている世代感は出したかったんです。


■若い世代のバイブル的な存在でもありたい


――今回、印象的なセリフがこれまで以上に多いですよね。村山の匿名のネット批判的な発言は、ファンの間で波紋を呼んでいました。作中ではそんなにネットが出てこないじゃないですか。私自身もそこは少しびっくりしたのですが。


平沼:ここは絶対に言われるだろうなと、作家チームでも思っていたところです。今の世代の人は、一度は誹謗中傷を経験してるような気がするんです。その中でハイローはファッションや音楽など、若い世代のバイブル的な存在でもありたい。だからこそ、電話でも手紙でもない、面と向かって話すことが少なくなった昨今、そういうことをダイレクトに入れてもいいのかと、皆で決めました。言われることは覚悟で書きました。村山が憑依している山田くん本人にも話をして「俺も実はこういうこと思っていたんですよ」と言ってくれて。


――パンフレットの山田さんのインタビューにも、平沼さんへの感謝の言葉がありました。


平沼:もちろん、喧嘩は悪いんだけど痛みを知っているからこそ、これ以上やったらいけないっていうラインもわかるし、痛みが分からないと相手が死ぬまで攻撃してしまうような結果になるかもしれない。だからそういうのも少し感じてもらいたいなというメッセージを入れたんです。


――日向がROCKYから「お前、復讐はどうだったんだ」ってセリフで「え、何?」と復讐から解放されたことを表現するセリフがありました。そういう成長も見どころのひとつですよね。


平沼:「祭り」という言葉を彼らの中でどういう風に位置づけるのかはすごく悩みました。人それぞれいろんな祭りがあるじゃないですか。その本人たちに「俺たちの祭りだ」っていう意識がスッと出て来る状況にするにはどうしたらいいかは考えましたね。何度でも起き上がるというのも達磨一家がずっとテーマとしてきたことなので、今回言葉になったというか。


――山王連合会、コブラのセリフも青春の終わりを予感させます。


平沼:ヤマトが琥珀に対して言う「背中を見させていただきます」というセリフはEXILEの魂そのもので、先輩の背中を見ながら後輩が育っていくのが伝統なんです。あと、どれだけ熱く生きるかが、今後の自分の財産になるということをコブラに言ってほしかった。彼らは喧嘩しているんだけど、それもいずれ思い出になって、その時の熱かった気持ちは将来、何かに代用できるんじゃないかと思うんです。だからこそ、彼らは今を大切にしたいんですよね。「綺麗ごと言ってるんじゃねえよ」ってなるかもしれないけど、喧嘩じゃなくても誰しも何かに置き換えることができるんじゃないかな。


■『HiGH&LOW』は一本筋の通った作品になっている


――そして、SWORDの物語に一旦区切りはつきましたが、パンフレットのHIROさんのインタビューには、今後の展開としてクラブイベントやゲームなどもあるかもしれないという話が出ています。


平沼:色々な方向で動いてはいるんですけど。どういうものが喜ばれるのか、どうやったら盛り上がるのかと、今HIROさんや皆と考えている最中ですね。逆にどういう展開になるか聞いてみたいですね。


ーーSWORD地区からはある意味で独立している雨宮兄弟と琥珀さん九十九さんたち、あるいはMIGHTY WARRIORSたちがどうなっていくのかは気になりますね。


平沼:なかなかいい線を(笑)。今後に乞うご期待ですね。


――これだけ新しいファンが増えたっていうのは、すごいことだと思うんですよね。それこそ2年前まではEXILEという文化とは無縁だったひとたちも盛り上がっている。これは個人的に思うんですが、2010年代のカルチャーを振り返るときに絶対に『HiGH&LOW』というコンテンツは語られるものだと思うんです。


平沼:それは嬉しいです。


――それまで触れて来なかった人たちを振り向かせることができるパワーが『HiGH&LOW』、ひいてはLDHのグループにあったという。『HiGH&LOW』から入って、今はLDHの各グループのファンになったり、ライブに行ったりというケースもたくさんあるでしょうし。


平沼:本当にそうですよね。でも、それも実はHIROさんがもともと考えていたことで、そこがすげえなと思うんですよね。グループが大きくなると、「誰が誰だかわからない」と言われてしまうリスクもあるじゃないですか。そういう人たちに対して、キャラクターを通して、各グループの人間がより際立ってくるような仕掛けを施しています。そこにRUDE BOYSならGENERATIONS、橘ケンチが出て来るところならEXILE THE SECONDの曲という、その曲と本人たちで紐付けすることで伝えるという構想は、はじめからHIROさんの中にあったんです。それに劇団EXILEの町田(啓太)とか鈴木(伸之)とかもこの映画で認知されて、色んな作品からどんどんオファーが来るようになりました。それも当初から狙っていたのが、HIROさんの非凡なところです。


――たしかに。


平沼:“時代を創る”という表現がありますが、あの人、いったい何回時代創ってるんだって話ですよ。EXILEで時代創って、ハイローでも時代創って……。もともと面白いことに興味が強い人で、そういう人が上にいるってことで、僕らも自分の道を信じて行ける。あとはLDHって神話的な部分があるというか、うちらにしかないルールがすごくいっぱいあって、だからこそ、みんなひとつになれるんですね。そういうLDH精神みたいなものも落とし込んでいるからこそ、たとえ周りから「設定ガバガバ」とか言われても、『HiGH&LOW』は一本筋の通った作品になっているし、みんなが付いてきてくれたのだと思います。(藤谷千明)