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「保守速報」判決で差別認定 津田大介さんに聞く「ネットのヘイトや差別をなくす方法」

2017年12月13日 10:33  弁護士ドットコム

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ネットにあふれ、社会問題となっているヘイト(憎悪)や差別の表現に、一石を投じる判決が相次いで出ている。まとめサイト「保守速報」の記事で名誉を傷つけられたとして、在日朝鮮人のフリーライター李信恵さんが、サイトを運営する男性に2200万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は11月16日、男性に200万円の支払いを命じる判決を言い渡した。


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争われたのは、巨大掲示板「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)やTwitterなどに書き込まれた、李さんに対する投稿を転載、編集した45本もの記事。そこには、李さんに対して「朝鮮の工作員」「頭おかしい」「日本から叩き出せ」などの表現が使われ、2013年7月から約1年間にわたって「保守速報」に掲載されていた。


判決では、そのうち43本の記事の中で、「名誉毀損」「侮辱」「人種差別」「女性差別」があったことを認め、「複合差別に根ざした表現が繰り返された点も考慮すべきである」とした。また、「保守速報」側は、記事について情報を集約したもので、たとえ名誉毀損や人種差別、女性差別などがあったとしても、引用元の投稿によるものと主張していたが、これも一蹴。「新たな意味合いを有するに至った」として、憲法13条に由来する人格権を侵害したと結論づけた。


また、同様に李さんが「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠・前会長を相手取って起こした損害賠償請求訴訟も、最高裁小法廷が10月29日、在特会側の上告を退け、賠償を命じた一、二審判決が確定した。ここでも、女性差別や人種差別が認定されている。今回の判決が他のまとめサイトにどのような影響を与えるのか、また、どうしたらヘイトや差別をなくすことができるのか。ジャーナリスト・津田大介さんに聞いた。 (弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)


●一部の確信犯、膨大な拡散層、ビジネス目的のまとめサイトの利害が一致

――まず、基本的なことですが、「保守速報」とは、どのようなサイトなのでしょうか?


「まとめサイトとしては、最大手の一つですね。まとめサイトは、ブログブームの後、『2ちゃんねる』の投稿をかなり煽ったかたちで編集してブログ記事にする『痛いニュース』が2005年に開設され、人気を博したのが一般に広まるきっかけになりました。以来、こうしたまとめサイトは増えています。ここ10年ほどの日本のネット文化ですね」


――まとめサイトは、どのような人たちが作ったり、読んだりしているのでしょうか?


「まとめサイトを広めている人たちは、3種類いると思っています。


まず、政治的な目的がはっきりとしており、相手を攻撃する目的で炎上を起こす人たちです。『ネット炎上の研究』(田中辰雄・山口真一著、勁草書房)で、実際に炎上に絡んで書き込むのはネットユーザーの0.5%とされたデータがありますが、あの人たちはここに入るのでしょう。自分たちがやっていることは正しいと思っている確信犯で、ネットを使って自分の攻撃対象に社会的制裁を加えようとします。


もう1つが、彼らが先導する情報を『面白ければなんでもいいや』とその情報をよく読まずにTwitterやFacebookで拡散してしまう膨大な中間層です。去年、米コロンビア大学とフランスの国立情報学自動制御研究所の共同調査で、TwitterでニュースをRTした人のうち59%がリンク先をよく見ていなかったことがわかりました。


確かに昔から、車内の中刷り広告で雑誌の見出しを見て、雑誌を読まずに見出しだけの知識で周囲に語るような人たちはいました。でもリアルでは他人に話したとしてもせいぜい数人に話して終わりますよね。ところがTwitterやFacebookだとそれが100人規模、ときには1万人、10万人と拡散してしまう。知ったばかりの衝撃的な情報を他人と共有したいというのは人間の素朴な感情ですが、意識としては同じでも、伝わる人の数が大きく異なる。スマホとソーシャルメディアの拡散力が背景にある問題と言えます。


そして3つ目が、今回の『保守速報』のような、ビジネスのためにまとめサイトを運営している人たちです。彼らは実際に運営している人に保守的な思想があるというより、広告やアフィリエイトによる収益を得るため、アクセスを集めるビジネスとして運営しています。


11月13日に放送されたNHKの『クローズアップ現代+』で、大手まとめサイト『オレ的ゲーム速報@刃』の管理人が出演した際、サイトの収入が月間700万円に及ぶことが明らかにされました。同サイトは11名のスタッフと管理人で運営されているそうです。ブログ形式なので個人が運営しているように見えますが、実際にはスタッフを雇って日々情報が更新されている。完全にビジネスになっているわけですね。


確信犯、中間層、ビジネス目的のまとめサイト。この三者の利害が一致しているために、こうしたサイトがなくならないという構造的な問題があるのです」


●まとめサイト「情報を集約しただけ」という主張は通用せず

――訴訟の中で、「保守速報」側は、「たとえ内容に名誉毀損などがあっても、引用元の投稿によるもので、情報を集約しただけだ」という主張をしてきましたが、認められませんでした。


「『2ちゃんねるの投稿をまとめただけ』というのは、まとめサイト側の理屈であって、まとめたものに対する責任が生じるのは当然のことです。その意味では、ごくごく当たり前の判決が出たという話ですね。


また、原告が名誉毀損、侮辱、女性差別、人種差別、いじめ、脅迫、業務妨害の7つを訴えていた中、判決では名誉毀損や差別など4つの侵害を認め、200万円の賠償命令が出ました。これは民事訴訟の名誉毀損や侮辱の損害賠償としては、相当高額です。一方、保守速報側の主張はほぼ何も認められていません。つまり、人格権の侵害をしているような記事を1年にわたって掲載し、責任逃れをしてきた保守速報側の悪質性が判決で明らかになったということです。


このような訴訟を起こすことで、原告にはさらなる誹謗中傷が寄せられました。大変だったでしょうが、この判決を勝ち取ったことは、ネット上の権利侵害への対処という意味では大きな一歩になると思います」


――判決で、気になったポイントはありますか?


「今回の訴訟で『保守速報』側は『インターネット上の表現は、従来型のメディア上の表現と比較すると、一般の読者には信頼性の低い情報として受け取られる』と主張していましたが、判決ではこれを否定して、さらに『不特定多数の者が瞬時に閲覧可能であり、名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得る』としています。ネット上の書き込みの名誉毀損を巡る裁判では、これまで“情報の信憑性”を巡って、裁判所も事実認定などを巡ってケースバイケースで判断が揺れてきた歴史がありますが、今回はネットであってもマスメディアと同じように責任に問われうるというシンプルな判断が下されたのだと思います。


また、先ほども述べたように、『保守速報』は2ちゃんねるの投稿を転載しただけと主張してきましたが、情報を編集して、見出しをつけて、可読性を上げています。判決では『引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになった』とはっきり言って、その責任を明確に認めました。信憑性の低いネットの書き込みをしただけという。今までのような言い逃れが通らないことが、この判決で示されたのではないでしょうか。まだ訴訟は続くようですが、最高裁で確定してほしいです」


●今後、「まとめ主」と一緒にプラットフォーム事業者も訴訟になる?


――『保守速報』の判決は、他のサイトにも影響が出るのでしょうか?


「『保守速報』のようなサイトに、いわれなく攻撃を受けている人はたくさんいます。他にもヘイトや差別を行なっている大手まとめサイトはありますから、集団訴訟をするなどして、声を上げていくことで、少しでも変えていってほしいです。


また、トゥギャッターやNAVERまとめなども含めて、他人を攻撃するような記事を作っている『まとめ主』にも編集責任が負わされる可能性がありますから、当然、サービスを提供しているプラットフォーム事業者にも影響すると思います。もし、ヘイトや差別的な表現を放置していた場合は、社会的責任、法的責任が問われることもあるのかなと。


これまでは、プラットフォーム事業者はサービスの内容に責任を追わないと言っていましたが、出版で言えば、何かを問題のある本が出版された場合、出版社も著者と同時に訴えられます。それと同じく、まとめ記事の『まとめ主』とプラットフォーム事業者、双方を訴えることも可能になるという法律家もいます。


悪質なまとめを作っている人とともに、そのサービスを運営している事業者を訴える訴訟が出てくると、より変わってきます。そちらに発展するかどうか、今後に注目しています」


●広告業界やプラットフォーム事業者は外部の有識者と対策を

――どうやったらヘイトや差別をなくすことができるのでしょうか?


「僕は4つの方法を実行するしかないと思っています。


1つ目は、技術的な解決。たとえばそうした書き込みをAIで判別します。あとは、SNSのプロフィールに特定のヘイトワードのあるアカウントを発見し、事前に注意を払うこともできます。通報やアカウント凍結の精度も上げて行きます。今、プラットフォーム事業者の責任が問われていますから、対応は可能でしょう。


2つ目は、広告業界に対応を進めてもらう。僕は、今のヘイトスピーチの問題は、ネット広告の業界がそうした発信をしている人を放置していることに大きな原因があると思っています。もし、人権侵害やヘイトスピーチ、フェイクニュースを発信しているサイトがあった場合、規約違反として広告を出さないということが必要です。実際、昨年から今年にかけて、欧米では名だたる企業が差別扇動的な記事を掲載しているウェブメディアから広告を引き上げる動きが広がっています。


結局、まとめサイトも広告で利益を得るためにビジネスとして運営されています。他人の人権を侵害して、なんのリスクもコストもペナルティも払わず、利益を得ているわけです。そうしたお金儲けの仕組みを変えないといけません。銀行の信用情報のように、口座ごとに確認し、記録して、違反があった場合はブラックリストに入れて、新しいアカウントを作らせないといった対応が必要になるのではないでしょうか。


3つ目は、プロバイダ責任制限法の改正です。日本の場合、誰だかわからない匿名の人物やサイトに侵害を受けた人がプラットフォーム事業者に情報開示請求しても、本人に確認して開示していいかと確認し、OKが出なければ開示されません。刑事事件にならなければ、開示されることは少ない。


しかし、昨年6月にはヘイトスピーチ対策法が施行され、今年2月には法務省が「●●人は殺せ」「●●人を海に投げ入れろ」などの表現はヘイトスピーチにあたるという具体例を示しました。明らかに、こうした人権侵害をしている表現の発信者については、弁護士から請求があった場合は、きちんと情報を開示するようにした方が良いです。


加えて、ログが消えてしまうという問題もあります。最低でも1年間は事業者に接続ログの保存を義務付けるなどの改正も必要だと思います。表現の自由を行使する代わりに、責任はきちんと取りましょうね、という話です。


4つ目は、報道を頑張りましょうということですかね。こういう時代だからこそ報道の力が試されているのだと思います。


これら4つのことは、どれもすぐに現在の問題を解決する特効薬ではありません。しょせん対症療法です。ただ、どれもやらないよりは、やったほうがまし。だったら、やりましょうよと。これらの措置を実行していくことで、ある程度今回のような問題は抑えることができる。そうした社会的コンセンサスを作っていくためにも、今回の判決は良いきっかけになったと思います」


――判決を受けて、今後はどのような動きが出てくるでしょうか?


「今、EUでは、FacebookやGoogle、Twitter、Microsoftと4者でヘイトスピーチ対策をしています。差別表現があった場合は、24時間以内に調査し、必要に応じて削除などの措置が取られます。それも、独自にやるのではなく、人権問題で活動するNPOなど外部の有識者の力を借りながら行うことになっています。


日本のプラットフォーム事業者や広告業界でも、『自分たちで内容を判断できない』ということであれば、法務省の例示に照らし合わせながら、外部の有識者に判断してもらうスキームを作るべきではないでしょうか。欧米に蓄積がありますので、大手プラットフォーム事業者はそういうところに人材を派遣して、きちんと組織を作るべきです。僕は、ヘイトスピーチはなくすべきだと思いますが、表現の自由と関わる微妙な問題であることも確かで、拙速に法規制するのは避けるべきという立場です。まずはネット業界が自分たちの手で、取り組んでほしいと思います」




【2018年1月4日訂正】本文中、グロービートジャパン裁判について言及していた部分がありましたが、不正確な記述があったため、津田大介さんと編集部で協議の上、該当箇所を削除し、記事を訂正いたしました。


(弁護士ドットコムニュース)