常に人手不足が叫ばれる介護の現場。仕事の割に賃金が低いことがしばしば問題になる。政府が8日に閣議決定した2兆円規模の政策パッケージの1つには、「介護人材の処遇改善」があり、
「勤続年数 10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行う」
としている。
介護の現場で、この政策はどう受け止められているのか。12月8日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で取材していた。期待する声のある反面、手放しでは喜べない状況も垣間見えた。(文:okei)
若手は「勤続5年から欲しい」経営者も「10年は長すぎる」
認知症を患う高齢者が18人暮らす神奈川県のグループホーム、バナナ園では、職員21人に対して勤続年数10年の介護福祉士は2人だけ。彼らは期待感をこう語る。
「賃金が安いと言われてきたが、この仕事が好きでやってきたので、そういうもの(賃上げ)があると、家庭もあるので安心して続けられる」(入社11年目・男性45歳)
入社10年目・39歳の女性職員は「入居者様との信頼関係もすごく重要ですし、(中略)若い世代がこの業界に飛び込んできて欲しい」と語った。賃上げで長く勤める人が増えれば、介護の質の向上も期待できるという。
一方で、若手の職員(入社2年目・女性23歳)は、こう本音を明かす。
「5年目とかに、8万円まではいかなくても少し頂けたらなという思いはあります。やりがいだけで、この仕事を続けるのもなかなか大変なので」
そうした部分で若手を支える政策があれば、離職率の低下にも繋がるのではないかと思うと訴えた。
また、経営者からは、条件が厳しいという声が出ている。介護業界は異業種からの転身が多く、この園でも約半数が転職組だ。運営会社の社長は、
「業界に人が来ないといけない。転職した時点から10年は長すぎる」
と不満を漏らす。「経験年数ではない評価の尺度ができれば、もっと介護に携わる人が出てくると感じています」と語っていた。
30~40代で介護職に転職しようという人には、ずっとやってきた人と比べてかなりの賃金差になるだろう。それだけ経験に価値があることも確かだし、離職する歯止めになるかもしれないが、転職を考える人にとって魅力は薄いかもしれない。
専門家は「2兆円の争奪戦、人気取り政策になりかねないと指摘」
この政策の財源は、2019年10月からの消費税率10%へ引き上げによる増収5兆円のうち2兆円を教育・社会福祉の充実に充てるとしたものだ。
VTRを見たコメンテーターの市川眞一氏(クレディ・スイス証券 チーフ・マーケット・ストラテジスト)は、開口一番「非常に残念なのは…」と切り出し、最初に2兆円ありきで、その争奪戦になってしまった部分があると解説した。「学び直し」など、それまで予算をつけてやってきたこととの整合性がとれていない、「悪い言い方をすれば、人気取り政策ということになりかねない」と指摘している。