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『明日の約束』完成度高いシナリオに見る、関西テレビの方向性 課題はエンタメ性か?

2017年12月12日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 フジテレビ系火曜夜9時から放送されている『明日の約束』は、サスペンステイストの学園ドラマだ。自殺した男子高校生・吉岡圭吾(遠藤健慎)の死をきっかけに、教師、生徒、母親、マスコミ、弁護士らの思惑が絡み合い、今まで隠れていたそれぞれの過去の闇が吹き出していく。


参考:仲間由紀恵の次に浮上した真犯人・及川光博 『明日の約束』2つのパソコンに隠された真相


 主人公のスクールカウンセラー・藍沢日向を演じるのは久々のドラマ出演となる井上真央。大ヒットドラマ『花より男子』(TBS系)で女子高生の主人公を演じていた井上が、今作では生徒たちを見守る側になったかと思うと、感慨深いものがある。


 井上の演技は抑制されたもので、スクールカウンセラーとして次々と起こる事件や不安を抱えている生徒に対しても落ち着いた対応をしている。その一方で、自身の母親との間には深い溝を抱えており、結婚を間近に控えながら、母との関係はますます混乱を極めていく。


 物語の中心は吉岡の死因をめぐるサスペンスだが、見ていて気になるのは日向の母親・尚子(手塚理美)の存在だ。娘の日向に対していびつな執着心を持っている尚子は、普段は穏やかだが、日向が自分の意に反した行動をとろうとすると激しく反発する。タイトルにもなっている『明日の約束』は、尚子が子どもの頃の日向に向けて書いていたノートの名前だ。


 「ママがいいと言ったお友達以外とは遊ばない」「ママに口ごたえしない」「ママをイライラさせない」といった言葉の後で「ママは日向が大好きです」と締めくくられる言葉は、親の愛情を盾にした暴力そのもので、それが大人になった日向にとっての呪いの言葉になっているのが、見ていてゾッとする。


 やがて自殺した吉岡が学校のクラスや部活動でイジメにあっていたことが明らかになり、それがきっかけで生徒や教師はどんどん疑心暗鬼になっていく。そこにマスコミや弁護士が絡み、やがて吉岡の母親・真紀子(仲間由紀恵)が学校を訴えようとするのだが、実はその真紀子は息子の部屋を盗聴していたことが明らかになる。


 すでに結婚しているとはいえ、仲間由紀恵が母親役を演じているのは、井上真央がスクールカウンセラーを演じるのと同様に、時の流れを感じる。今作の仲間は『美しい隣人』や『サキ』(ともにフジテレビ系)で演じた病んだ女を母親にしたような不気味さを醸し出していて、彼女の怪しい行動を追うだけでも、ドラマとして楽しめる。


 『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)や『過保護のカホコ』(日本テレビ系)など、母子密着問題を通して娘の自主性を無自覚に奪い苦しめる母親、いわゆる、毒母は近年のテレビドラマでは多く描かれようになってきているが、本作もまた、二人の母親を通して毒親を描いている作品だと言えよう。


 また、生徒役を演じる若手女優を発掘する楽しさがあるのは、学園ドラマならではだろう。『べっぴんさん』で主人公の娘役を演じた井頭愛海、『ひよっこ』で主人公の友人役を演じた佐久間結衣といった朝ドラで注目された二人と、『アイムホーム』(テレビ朝日系)などの作品で注目されていた山口まゆは、実に安定した存在感を見せている。


 驚くべきは吉岡圭吾の妹・英美里を演じる竹内愛紗だ。今作がドラマ初主演とのことだが、兄にばかり執着して自分に関心を見せない母親に、愛憎を向ける影のある演技には目を見張るものがある。


 脚本は古家和尚。火曜9時枠では、『幽かな彼女』や『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』などを手がけている常連だ。一度、疑いだすと登場人物全員が怪しい奴に見えてくる展開は、『LIAR GAME』(フジテレビ系)を書いた古家らしい脚本だと言えるだろう。


 手塚理美と仲間由紀恵が演じる毒親を筆頭に、各キャラクターの味付けは若干濃い目になっているが、ストーリーの進め方は真面目なトーンで作られているので、じっくり楽しむことができる。


 しかし、人間の暗部を描き出そうという文芸性にドラマが寄っているためか、気軽に楽しむには敷居の高いムードが作品を覆ってしまっている。視聴率の面で苦戦しているのはそのためだろう。


 元々、カンテレ(関西テレビ)制作のドラマは、ハードなテーマを扱っていても、エンターテインメントに徹していた。草なぎ剛主演の『銭の戦争』と『嘘の戦争』がその筆頭で、この二作は陰惨な場面が多くても、ピカレスクヒーローものとしてのカタルシスがあったことが人気の秘訣だった。そんな、安心して楽しめる娯楽性こそが、カンテレ制作のドラマが、苦境にあえぐフジテレビのドラマの中で孤軍奮闘できていた勝因だったのだが、今年の『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』、『僕たちがやりました』そしてこの『明日の約束』は、作品の完成度と引き換えにわかりやすいカタルシスが減って重苦しいムードが出てしまい、敷居が上がってしまったように思う。


 個人的にはこの三作の方向性は支持したいのだが、できればカンテレらしい敷居の低い娯楽性も死守してほしい。しかし、このバランスを取るのは、中々難しいものである。(成馬零一)