ふるさと納税が活発になって久しい。総務省によれば、2014年に388億円規模だった受け入れ額は、2016年には2844億円と7倍ほどになった。受け入れ件数も191万件から1271万件へと急激に膨れ上がっている。
ふるさと納税を使うと、額に応じて居住地の住民税控除が受けられる。多くの自治体では返礼品として肉や魚、農産物を用意しているため、納税者にとっては税控除と特産品入手を一度に出来るお得な制度として知られているが、これに頭を悩ませている自治体もある。
杉並区は今年11月から、ふるさと納税への理解を求めてもらおうと「住民税が流出しています」と題したチラシを配布している。昨年度多くの区民がふるさと納税を利用したことで、今年度の住民税収入が大幅に減ったためだ。
「今のふるさと納税は通販のよう。見返りありきの実態には疑問」と杉並区担当者
ふるさと納税は「納税」と言えど、その実態は寄付。そして、実質的な負担者は寄付者が住む自治体である。その仕組みを、杉並区の担当者はこう説明する。
「たとえば、杉並区に住む住民が1万円、別の自治体にふるさと納税したとしましょう。収入にもよりますが、8000円分は居住地である杉並区の、次年度の住民税から控除されます。寄付額の3割相当の返礼品が貰えるとすると、寄付者は差し引き1000円の得になります。寄付先の自治体も、寄付金収入は純粋にプラスです」
割を食うのは杉並区だ。特別区は地方交付税の交付を受けていないため、住民税控除分の8000円はそのまま区の減収に繋がる。同区の今年の住民税収入は、当初の想定より14億円少なかった。減収幅は、世田谷区、港区に続き23区内で3位だ。
「寄付が悪いことだとは言いません。ただ、その延長上でこうした事態が起きていると、区民に伝える必要性を感じました。居住地域の行政に影響がある可能性を理解しないまま、ふるさと納税を使っている人も多いと思います」(同担当者)
チラシは2万5000部印刷し、イベントや回覧板で配布したほか、区内7か所の地域センターにも設置した。住民税の大幅な減収が、学校や保育園、清掃サービスや道路などのインフラ破綻をもたらす様子をイラストで説明している。チラシを見た区民からは「こんなに税収が減るとは知らなった」との声が多数届いたという。
「今のふるさと納税はまるで通販のようです。身銭を切って弱者や福祉に差し出すのが寄付なのに、『うちの市に寄付したらこれをあげます』と見返りありきになっている実態には疑問を持っています」
国は「健全な競争はあってしかるべき」と現在の制度を変える姿勢見せず
最も大きい31億円の減収になった世田谷区は、今年2月、「ふるさと納税対策本部」を立ち上げた。税収が減っている現状や、区民も世田谷区にふるさと納税ができることを啓発するパンフレットを作り、7月には区長自ら街頭で配布した。
23億円減収の港区は、来年4月から「港区版ふるさと納税制度」を始める。
「返礼品がないこと、寄付者が使用用途を選択できることの2つが特徴です。どちらも既に取り入れている自治体はありますが、港区版では、使用用途の選択肢が少なく選びやすいことや、『泳げる海お台場の実現』のように成果が目に見えて実感しやすいものであるのが違う点です。寄付の主旨に立ち返りました」(港区担当者)
ふるさと納税による減収に苦しむ東京23区だが、国の態度は渋い。菅官房長官は12月5日の記者会見で、「都市部の首長から税収減の懸念があるのは承知している」と前置きしつつ、
「地域の活性化に向けて切磋琢磨し、産業振興や雇用の創出を実現していくのが大事。健全な競争はあってしかるべき」
との考えを示していた。