厚生労働省は、生活保護費を引き下げることを検討し始めた。12月8日、共同通信などが報じた。一般の低所得世帯の消費支出より支給額が多いとの調査結果を受けて、支給額の見直しに着手したのだという。報道を受け、批判の声が相次いでいる。
生活保護の中には、アパートなどの家賃に対する「住宅扶助」や医療サービスの費用を賄う「医療扶助」などがある。今回、見直しの対象になるのは、日常生活に必要な費用に対する「生活扶助」だ。
「生活保護基準引き下げは誰も幸せにしない」
この「生活扶助」を最大1割程度引き下げる可能性があるという。報道によると、例えば、中学生と小学生の子ども2人を持つ40代夫婦は支給額が月約21万9000円から、約19万4000円に減る。65歳の高齢単身者も月約8万円から約7万3000円に減る。支給水準は5年に1度見直しており、前回2013年度にも一度引き下げられている。
これに対し、貧困対策に関わる人々や研究者からも批判の声があがっている。生活に困っている人やホームレスへの支援を行うNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表理事は、
「市民生活に甚大な影響が出るからやめろ」
「生活保護基準引き下げは誰も幸せにしない」
とツイッターで警鐘を鳴らした。ツイートに添付された画像によると、生活保護費の引き下げは「最低賃金が上がらない」など、他の制度にも悪影響を及ぼすという。
保育料無償化や給付型奨学金の対象世帯が減少
弁護士の篠田奈保子さんは、「各種の社会保障制度の減免や支給の基準となっている非課税基準にも影響します。生活保護受給者だけの話ではありません」と指摘。生活保護基準が下がると、住民税の非課税基準も下がるため、今まで無税だった人が課税される可能性が出てくる。
そうすると住民税が非課税のときは安くすんでいた保育料や介護保険の自己負担限度額が上がってしまうのだ。自民党が唱えていた保育料無償化や給付型奨学金も住民税の非課税世帯を対象に実施する予定だった。そのため篠田さんは、
「生活保護基準引き下げにより、非課税基準自体を下げて、対象者をより少なくする作戦に出るわけね。対策してますって言えるし、対象をどんどんと小さくして予算を少なくもできるという訳ね」
と批判していた。
東京大学の本田由紀教授も「一般の低所得世帯の消費支出が減少しているから生活保護費も削減するという負のスパイラル。いじめのような」とツイート。一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんは、「絶対に許されません」と怒りを露わにし、反対署名への呼びかけを行った。「生活保護制度の充実を求める緊急署名」は2018年1月末日まで募集しているという。
また、今回の引き下げ検討は、一般の低所得者の消費支出額を踏まえてのものだというが、ネットではむしろ低所得世帯への支援が必要なのではないかという声も相次いでいる。
「『低所得世帯やばいね賃金上げるねー!』じゃないあたり、なんとも寂れた国って感じ」
「生活保護費が高いんじゃなくて、それを下回るほどの低所得者層の給料がおかしいんだって」
厚労省の社会・援護局保護課の担当者は「生活保護基準部会で検討をしているが、まだ結論は出ていない。年内にも報告書をまとめる予定です」と話していた。