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アニメ『宝石の国』はすべてが宝石のように美しい 音楽と映像が織りなす緻密な世界

2017年12月05日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 市川春子の人気コミック原作アニメ『宝石の国』が、すごい。登場キャラが人間のような姿をした「宝石」たちという独創的な世界観や、3DCGを駆使した美しい映像を見ても、他のアニメ作品とは一線を画しているのが一目瞭然だ。さらに、音楽の繊細さが、第1話を見た時から何よりも印象的だった。OPやEDテーマ、劇伴、音響効果の細部にいたるまで、とにかくすべてが宝石のように美しい。


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 まず、YURiKAが歌うOPテーマ「鏡面の波」。作詞作曲を担当する照井順政は、ポストロック好きであれば既知であろうバンド・ハイスイノナサのメンバーとして知られるほか、アイドルグループ・sora tob sakanaのプロデュースなども手がけている。ハイスイノナサといえば、元メンバーの鎌野愛も、高橋國光(ex. the cabs)のソロプロジェクト・osterreichで、アニメ『東京喰種トーキョーグール√A』のOPテーマ「無能」のボーカルを担当していた。ハイスイノナサもthe cabsも、もともと同じ残響レコードのレーベルメイト。アニソンタイアップバンドに多い王道ロックではなく、むしろニッチで実験的な音を作る照井や高橋が、アニメの顔となるOP(EDならまだしも)に起用されたことには、相当驚いた音楽ファンも多いのでないだろうか。「鏡面の波」は、一度聴けば耳に残りやすいメロディラインでありながら、サウンドはやはりこれまでのアニソンにはなかなかなかったような、丁寧に作り込まれたポストロックテイストのアプローチとなっている。


 対して、EDテーマの「煌めく浜辺」は、ゲーム『MOTHER』などの音楽も手がけた鈴木慶一(ムーンライダーズ)が制作・プロデュースを担当。ボーカルの大原ゆい子は、この曲のレコーディングでは普段とは歌い方を変えていたそうで、なるべく人間臭さを出さないよう、あまり感情を込めずに淡々と歌うよう意識していたという。バックのシンフォニックな演奏に大原の無機的な歌唱が加わることで、OPとはだいぶ違うイメージではありながら、危ういバランスの神秘的な楽曲に仕上がっている。


 また、劇伴の藤澤慶昌と音響監督の長崎行男は、過去にも『ラブライブ!』や『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』で、本作の京極尚彦監督とタッグを組んでいる。こうした息の合った布陣があってこそ、緻密な世界観の表現が可能となったのだろう。


 劇伴は、単音中心でキラキラとした宝石のような粒感溢れる楽曲のほか、月人登場のシーンでは、アニメではあまり耳馴染みのないガムラン調の楽曲も使用されている。こうした、非現実性やノスタルジックな美しさを感じさせるような音楽は、藤澤が過去に担当した『有頂天家族』の劇伴にも通じるところがあるだろう。


 さらに、本作では劇伴の制作行程もやや特殊なものとなっている。通常、アニメ劇伴は監督からのイメージオーダー表を基に、映像が上がるより前から制作に取りかかる。そして、映像ができ上がってから、その尺に合わせて楽曲を編集するのが一般的だ。しかし、本作では、アニメの映像が仕上がってから、その尺に合わせて実際にオーケストラが演奏したのだという。そのため、より一層、映像と音楽の一体感を感じられるような仕上がりとなっているのだ。


 『宝石の国』は、文明が滅んだ世界という舞台設定のため、なるべくデジタルではなくアナログらしさが感じられるような音を使おうと、劇伴のみならず音響効果にもかなり注力したそうだ。たとえば、キャラクターが歩く時は、普通の足音ではなく、石がぶつかるようなコトコトとした音がするのだが、キャラクターごとにこの足音も変えられているのだとか。さらに、靴のヒール部分は木製という細かい設定も設けられており、それに基づいてあのコトコト音に至ったのだという。こうした話を聞いてしまうと、どうしても本編でその違いを確かめたくなってしまう。そして、気がつけば、すでに繰り返し作品を鑑賞している自分がいるのだ。


 もともと、本作は設定がやや難解なため、多少は集中していないとストーリーが頭に入ってきにくく、流し見には不向きな作品だ。その上、ついつい美しい映像に見入ってしまったり、細やかな音楽に聴き入ってしまい、キャラのセリフを聞き逃してしまったりすることもしばしば。もちろん、制作陣は一回の鑑賞でも内容を把握できるよう苦心しているに違いないのでなんだか申し訳ないのだが、これほど作り込まれた作品世界を堪能するには、むしろたった一度の視聴ではもったいなさすぎる。


 京極監督は、インタビューで「『タダで見るアニメじゃないよね』と思って貰えるような作品を目指している」(引用:『宝石の国』アニメはこうして作られている!京極尚彦監督が捉える「宝石」の世界とは)と語っていたが、音楽・音響的な面も含めて、まさに監督の狙い通りの作品に仕上がったのではないだろうか。


■まにょ
ライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。