2017-2018フォーミュラEの開幕戦、香港大会の2戦目を迎えた小林可夢偉(MS&ADアンドレッティ・フォーミュラE)は予選16番手からスタートし、18位フィニッシュ。リザルトだけを見ると厳しい結果だが、初めてのフォーミュラEでの2日間で手応えもあった。
第2戦の予選結果は、前日の第1戦の予選13番手より下がってしまったが、これには原因があった。
「予選はクルマを(前日とは異なる2台目に)代えたらダメになって。ちょっと悔しい結果になりました」と可夢偉。
そこには、2台のクルマを乗り継ぐフォーミュラEならではの難しさがある。同じものを使っていても、その使用頻度や程度などで個体差が出てくるのだ。
「個体差があって、まったく同じセッティングでも違うんですよね。そのちょっとの違いがタイムの違いになって、結果的に大きな順位の差になる。僕は今の2台それぞれの特性もわかっていないので、ずっとやっていたら『こっちのマシンはこういう傾向があるよね』『こっちはこうだよね』というのがわかった上で走れる。それがまったくわからない。それも経験ですよね。クルマのセットアップはずっと手探りだった感じです」と可夢偉。
2台のクルマを操るだけに、マシン特性の把握もセットアップも、他のカテゴリーよりも単純に2倍かかってしまう。それなのに、テストもなければレースウィーク中の走行時間も短い。ドライバーにとっては、フォーミュラEの隠れた難しさのひとつになっている。
香港2日目のレースは信号機の故障でセーフティカー・スタート。可夢偉は序盤で14番手に順位を上げるも、その後に順位を奪われ、16~17番手で周回。23周目にピットインし、マシンを交代するも、そこでアクシデントに見舞われてしまう。
「クルマの交換は2台(チームメイトのアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ)ともそうなんですけど、システムの問題で2台目に乗り込んだあとにスタートできなかった。30秒くらいロスしてしまいました」
これで周回遅れになったしまった可夢偉。さらにコース上でも、一時、アクセルを踏んでも加速しないというトラブルが出てしまい、ペースが上がらない。それでもトラブルがなおればペースを上げられ、レース終盤の2コーナーではジェローム・ダンブロジオ(ドラゴン・レーシング)のインを鋭く突いてブレーキングし、オーバーテイク。その場の観客を沸かせた。
そして、2日連続でトップで選ばれたファンブーストを使って、全体3位のファステストタイムをマーク。速さが健在なことをアピールできた。
「ピットで遅れたことで周回遅れになって、1周分のエネルギーが余ることになったのでエネルギーが使えるようになりました。そこでファンブーストを使ってファステストを出しましたが、あれでもまだ少しセーブをして走っている状態。無線のトラブルもなく、エネルギーマネジメントは、昨日よりは上手くできていましたね」と可夢偉。
この第2戦で目立ったのが、単独スピンだ。ポールポジションのF.ローゼンクビスト(マヒンドラ・レーシング)が1コーナーで単独スピンし、残り2周となったところでは独走トップのE.モルタラ(ベンチュリ・フォーミュラEチーム)も2コーナーで単独スピン。フォーミュラEのマシンのコントロールは非常に難しい印象を受けるが、可夢偉はフォーミュラEのマシンのドライビングをどう感じているのか。
「マシンはリゲイン(回生システム)がなくなると、ホント、クルマが止まらないです。恐ろしいくらい止まらないですよ」と可夢偉。
もともとフォーミュラEのマシンはバッテリーが重くてリヤヘビーで、リヤのコントロールが難しい。そして、その巨大なバッテリーから発生する熱を冷却しきれなくなると、走行中にリヤブレーキの回生システムがシャットアウトするような状態になってしまうという。エネルギー回生ブレーキの抵抗がなくなれば、ドライバーはブレーキに異常が起きたと感じてしまう。
「なので、そうなったときにブレーキバランスをドライバーが変えるのですが、経験があるドライバーなら対応ができるかもしれないけど、エンジニアの指示がないと自分ではできない。『あれ!? ブレーキがなくなったかな』と思うくらい、恐ろしいくらい突然、ブレーキが効かなくなります」と可夢偉。
「それでコーナーを行きすぎて、壁にぶつからないよう、とりあえず止めるのにスピンをするんじゃないですかね」と、他のドライバーのスピンの傾向を解説。その説明からも、フォーミュラEのマシンの難しさ、経験の差の大きさが伺い知れる。
結局、2日目の可夢偉の決勝順位は18位(優勝したダニエル・アプト/アウディスポーツ・アプト・シェフラーが失格で順位繰り上げの可能性あり)。可夢偉は、この2日間の初めてのフォーミュラEを、どのように振り返るのか。
「2日間、なかなかのチャレンジで結果は悔しいです。やっぱり全然乗り慣れないクルマ、全然練習できないでレースになると、こういう結果になるんだなと実感できた部分と、他のドライバーがこの開幕戦に向けて10日間とかテストして来ているのに、なかなか合わせるのが難しいというレースなので、そこで2日間、クルマを壊さずに終われてよかったなと。まずは経験を積むことが大事なので、途中でクラッシュして経験が積めなくなるというのは避けたかったので、そういう意味では走り切れてよかった」
可夢偉は、今回のフォーミュラE参戦に向けて、自身のドライビングスタイルの拡張を目標のひとつに挙げていたが、その手応えはどうか。
「ドライビングのスキルとしては、リフト&コーストをしながらのクルマのバランスはやはり違うので、それに合わせたクルマの作り方ができることが分かりました。燃費走行の部分でも、この経験は他のレースでも活かせるかなと思います」
可夢偉の参戦もあり、日本でも近い存在になりつつあるフォーミュラE。可夢偉の次のフォーミュラEでの参戦、そしてフォーミュラEの日本開催など、期待したい部分が多々あるが、なかなか一筋縄ではいかないこともまた、今回の可夢偉の参戦によって明かになった。