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Vulfpeck、OverDoz.、Stars……高橋芳朗が選ぶ“ラジオ連動”の新作5選

2017年12月03日 11:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今回もわたくしが選曲を手掛けているTBSラジオ『都市型生活情報ラジオ 興味R』(毎週月曜18時)でオンエアした新譜から5曲ほど。


(参考:高橋芳朗が注目するディスコ/ファンクの新譜たち


 まずは日本でも人気急上昇中のロサンゼルスに拠点を置くファンク/ソウルバンド、Vulfpeckのニューアルバム『Mr. Finish Line』から「Business Casual」。バンドの創設メンバーであるジャック・ストラットンはもともとThe Funk BrothersやThe Swampers/The Muscle Shoals Rhythm Sectionなどを手本にしてVulfpeckのコンセプトを固めていったようですが、ゲストにデイヴィッド・T・ウォーカー、ジェームス・ガッドソン、ブーツィー・コリンズ、マイケル・ブランド(The New Power Generation)といった百戦錬磨の名プレイヤーを迎えた今回の新作は、そんなバンドの理想像に大きく近づく会心の出来といえるのではないでしょうか(なお、バンドは2016年にBernard Purdieとたびたびライブセッションを行なっていた模様。YouTubeではスティーリー・ダン「Kid Charlemagne」やThe Beatles「Something」の演奏を見ることができます)。Hiサウンドを意識したと思われる「Running Away」を筆頭に前作『The Beautiful Game』(2016年)よりも格段に渋い内容ながら、一曲一曲の練度では断然こちら。番組で紹介した「Business Casual」はJackson 5やフォスター・シルバーズをモチーフにしたようなバブルガムソウルで、あの「Animal Spirits」に続くヒットが期待できそうです。キュートなボーカルを披露しているのはThe Internet「Ode to a Dream」やタイラー・ザ・クリエイター 「Keep Da O’s」などの客演でおなじみ、QuadronのCoco O.。


 続いては同じロサンゼルスのヒップホップグループ、OverDoz.の満を持してのメジャーデビューアルバム『2008』から「Backstage」を。アルバムからの先行シングルとして「F**k Yo DJ」と「Last Kiss」がリリースされてから実に2年半、ほぼ飼い殺し状態になっていた状況に歯がゆさを感じていたファンも少なくないと思いますが、これが待たされた甲斐のあった充実ぶり。過去のミックステープ作品と同様THC(ケンドリック・ラマー 「Cartoon & Cereal」やスクールボーイ・Q「Collard Greens」などTop Dawg、<TDE>関連作品で名高い)がメインのプロデューサーを務めるなか、ファレル・ウィリアムス、ヒット・ボーイ、テラス・マーティン、Pop & Oak、1500 or Nothin、Organized Noizeなど、メジャー第一弾ということで実現したヒットメーカーとのコラボレーションが総じてグループのポテンシャルを押し広げる意欲作になっているのがうれしいところ。特にミゲルをフィーチャーした1500 or Nothin制作の「Backstage」はメンバー自ら影響源として認めているOutkast/Andre 3000のお株を奪うファンクとロックのマッシュアップで、インディーロックのリスナーを巻き込んでのシングルヒットも十分狙えそう。ファレル・ウィリアムス流のParliament/Funkadelicオマージュといった趣きの「Last Kiss」、テラス・マーティンによるG-Funkマナーのメロウなクルージングチューン「House Party」「ULetTheHomieHit」なども含め、Digital Underground~The Pharcyde~(ファーギー加入以前の)The Black Eyed Peasがつないできた西海岸オルタナティブヒップホップの系譜を強く感じさせる一枚です。


 そのOverDoz.の『2008』と同じ感覚で楽しめそうなのが、やはりロサンゼルスの出身でOutkastやThe Neptunesからの影響を自認しているラッパー/シンガー、DUCKWRTHの新しいミックステープ『an XTRA UUGLY Mixtape』。これはタイトルからもうかがえる通り、サブリナ・クラウディオやジョージア・アン・マルドロウが参加していた昨年リリースの1stアルバム『I’M UUGLY』の続編にしてメジャーデビュー作になります。リック・スミスのモダンソウル名作「Love Came Today」を使った番組オンエア済みの「THROWYOASSOUT」をはじめ、Southside Movementの定番ブレイク「Save The World」(2Pac「Trapped」やベック「Sweet Sunshine」などを参照)を引用した「MAN IN THE SKY」、電子音楽家クレイグ・カップカの「Electric Piano, Percussion and Rain」からのサンプリングもドープな「BOY」など、Anderson .Paakが北米ツアーでオープニングアクトに抜擢したのも納得の才気ほとばしる全13曲。随所で垣間見せる、The Neptune/ファレル・ウィリアムスへの真っ直ぐな憧憬も実に微笑ましい。ゲストアーティストは、<Stones Throw>との契約が話題を集めた女性バイオリニストのスーダン・アーカイブズ、<Def Jam>に所属する黒人女性ロッカーのトロイ・アイアンズら。収録曲にはその名も「TAMAGOTCHI」なんてナンバーがあったりします。


 以降はガラリと変わって、おすすめのインディーポップを2曲。まずはトーキル・キャンベルとエイミー・ミランの男女ツイン・ボーカルをフィーチャーしたカナダのべテラン、Starsの通算8枚目のアルバム『There Is No Love in Fluorescent Light』から「Real Thing」。前々作『The North』(2012年)~前作『No One Is Lost』(2014年)で打ち出したダンサブルなエレポップサウンドと、出世作『Set Yourself On Fire』(2004年)のころの甘酸っぱいギターポップ路線との間を取ったような作風で、キラキラ度では「Elevator Love Letter」(2003年作『Heart』収録)と双璧、エイミー・ミランのコケティッシュな魅力が炸裂しているという点でも「My Favourite Book」(2007年作『In Our Bedroom After The War』収録)と互角の名曲だと思います。プロデュースを務めるのは、The National『Boxer』(2007年)やInterpol『Turn On The Bright Lights』(2002年)などの仕事で知られるピーター・カティス。


 最後はこちらも紅一点のボーカリスト、ジャッキー・メンドーサを軸にしたブルックリン出身の5人組、Gingerlysのデビューアルバム『Gingerlys』から「Turtledoves」を。その筋のファンのあいだでは2014年のデビューEP『Jumprope』の時点ですでに高い評価を獲得していたようですが、なるほどこれは超強力。オープニングを飾る「Turtledoves」から「Playgrounds」~「See You Cry」を経て4曲目の「Elsewhere」に至るまで、アルバム冒頭から一気に駆け抜けていくナイーブな疾走感はギターポップ・ファン悶絶必至。今後、同郷のThe DrumsやThe Pains of Being Pure at Heartのライバルとして手強い存在になっていくのではないでしょうか。とりわけ、実質キップ・バーマンのソロプロジェクトとなった現在のThe Pains of Being Pure at Heartに不満を抱いているファンは必聴かと。プロデュースは、その両バンドともゆかりの深いコナー・ハンウィック(元The Drums)が担当しています。ネオアコ~シューゲイズ好きも一聴の価値あり。


 以上、ここ1カ月の『興味R』オンエア曲から5曲。本放送もぜひチェックしてみてください!(高橋芳朗)