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BUGY CRAXONE、“リベンジ”のQUATTRO公演で見せた「強い意志と確固たる自信」

2017年12月03日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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<シング シング シング ユアライフ コングラッチュレイション キス キス ハレルヤ!!>


 それはまるでハッピーになれる魔法であるかのように、すずきゆきこ(Vo)と一緒にフロアも全力で歌った。SEに合わせて、高まるフロアからのクラップに迎えられ登場したメンバーが、軽快なリズムを受け継ぎながらはじまったのは「ハレルヤ」だった。後方まで埋まった会場を隅々まで見渡し、満面の笑みを浮かべながら歌うすずき。


 今から遡ること、約17年前ーー。


 <曖昧は嫌だ 価値が欲しい 替えのきく僕はいらない……>


 2000年2月、同会場での初ワンマンライブは真っ暗なステージで、もがくように歌う「夜明け」で始まった。個人的な話だが、私はこのときはじめて生で観たBUGY CRAXONEというバンドに、完全にやられてしまった。本人たちは当時を振り返り“辛酸をなめた”という表現を用いてはいるが、あのライブがバンドの方向性を決定づけ、いろんな意味で原動力になったことは間違いないだろう。(参考記事:BUGY CRAXONE すずきゆきこが明かす、新作での挑戦とクアトロ公演リベンジへの思い


 2017年11月19日。17年越しの渋谷CLUB QUATTRO公演『20周年ワンマン“100パーセントナイス!”』は、とても彼ららしいライブだった。20年走り続けてきたバンドに対し、この言葉が合うのかわからないが、ものすごく等身大だった。長く続けることの意味、良いことも悪いことも受け入れたありのまますべてを音で表し、フロアいっぱいの“ナイスちゃん(=ファンの総称)”たちはそれを全力で受けとめ、全力で讃えた。それをまたバンドは音で返していく……その光景がなんだか特別なものに見えた。


 「20年より、この1年がとにかく長げぇかった」この日、すずきがそう何度も口にしていたように、1年前の開催発表からこの日のために全力で駆け抜けてきた。そうした中でのメジャーレーべルへの移籍、ベストアルバム含めた2枚のアルバムリリース、なにより2000年の初ワンマンへのリベンジの意味合いが強い。


 オフィシャルYouTubeチャンネルの番組『いいかげんなTV』で「バンド歴20年のなかで、とくに印象に残っている出来事は?」の問いに対し、すずきが「クアトロやるって決めたのがいちばんかもな。あんまりそういうことをしようというのを避けてたバンドだから」と答えていたのが印象的であった。それだけこのライブに賭けてきたという表れである。


 本公演の約1カ月前の10月5日、彼らの故郷である北海道、札幌Bessie Hallで『COUNTERBLOW 030』を観た。BUGY CRAXONEの歴史の中で欠かすことのできない主催イベントであり、この節目にふさわしく、大先輩バンド・怒髪天を迎え入れての2マン。地元愛に囲まれ、クアトロワンマンに向けての壮行会のようでもあった。飴と鞭を使い分けるような東京では絶対に見られない怒髪天の愛情たっぷりのステージを受け、BUGY CRAXONEは故郷に錦を飾った。潔くアンコールをやらなかったことも、クアトロへつなげるための決意だったはずだ。


 クアトロ公演は“20周年ワンマン”と銘打った通り、オールタイムの新旧織り交ぜたセットリストだったが、なぜだか集大成という感じはしなかった。10年の歳月を並べてもまったく違和感を感じなかった今年1月リリースのベストアルバム『ミラクル』で見せた、バンドの芯の強さを目の当たりにした気分だった。過去も現在の曲もBUGY CRAXONEのものであることに間違いはないし、どちらも同じスピードでこれからへ向かっている曲ばかりだ。


 もちろん、初期曲に対する思いはある。すずきの感情とバンドサウンドが怒涛のように襲ってきた「悲しみの果て」(2002年『This is NEW SUNRISE』収録)、淡々としながらじっと希望を待つ強さ「YOUR SUNRISE」(2002年『NORTHERN HYMNS』収録)など、当時に思いを馳せてみることもあったが、それは聴き手としての感情であり、サウンド面や音楽性としてみれば、懐古なところなどはない。


 BUGY CRAXONEが奏でる音は不思議だ。開演前に流れていた結成年である1997年にリリースされた楽曲のBGM、Radiohead、Oasis、Blurなどのブリティッシュロックの流れを汲んだ、広義の意味でのオルタナティブロックであり、サウンドはソリッドでエッジが効いているはずのにまったく耳に痛くない。むしろ、すべてを包み込んでくれるようなあたたかさがある。そして、力強く図太い。ヤマダヨウイチ(Dr)と旭司(Ba)の紡ぐ大きくうなるグルーヴや、笈川司(Gt)のギターは歪んでいないのに分厚い。シンプルなサウンドながら、抑揚と情緒を巧みに操るアンサンブルで魅了していく。クリーンからディストーションに切り替えるといったロックバンドの常套句はBUGY CRAXONEになく、オーケストラのようなダイナミックレンジを生み出しながら、昂揚感をいざなっていく。その様相に「これぞ、バンド!」なんて声がフロアから上がっていたが、まさにその通りである。


 そして、やはりすずきの歌だろう。「花冷え」「なんとなく Be Happy」の軽快にリズムに歌を置いていく様、「ベリナイス」「いみがないから きこえない」のどこか飄々とした様。かと思えば、「WATCH YOUR STEP」「Come on」では吐き捨てるように歌う。どんな楽曲でも圧倒的な存在感を放つ歌声。デビューシングル曲「ピストルと天使」(1999年リリース)で見せた、高音で細かく震える声、顎が外れそうなくらい大口でがなるような姿は、あのときのままだった。昔の曲では人を寄せ付けない緊張感を張り巡らし、最新曲ではすべてを受け入れていくようなおおらかさを見せる。そんな惹き込みを自在に操るすずきのボーカリスト、表現者としての力量にあらためて驚いた。


 BUGY CRAXONEの20年を振り返ると、すずきゆきこの変化が大きい。自身の名前をひらがな表記にしたように、歌詞もひらがなが増え、初期に見せていた負の感情を叩きつけるような歌詞はなくなった。その変化についていけなくなった人も少なくはないかもしれない。実際、私自身がそうだった。『Joyful Joyful』(2012年)を最初に聴いたとき、受け入れられなかったというのが正直なところだった。


 変化を否定するわけではないが、自分が好きだったBUGY CRAXONEではなくなってしまった……勝手なファン心理である。しかしながら数年後、『ナポリタン・レモネード・ウィー アー ハッピー』(2014年)を聴いたとき、なんだかこみ上げてくるものがあった。どこか達観したような世界観は、もがきながらも止まらずにずっと突っ走ってきたバンドだからこそ、たどり着けたものなのではないかと。


 結成20周年と、ニューアルバム『ぼくたち わたしたち』のリリースに際し、彼らを応援する地元メディア関係者の取材をさせていただく機会があった。「尖っていたものが丸くなったというんじゃなくて、表現の方法が変わったということだと思うんです」とは、札幌テレビ放送の制作ディレクターの言葉だ。まさにそういうことだと思う。


 先述の『いいかげんなTV』にて旭がすずきのことを「いろんなことを糧にして成長している。この1年それをすごく感じる」と言っていた。それは彼女が書く歌詞自体にも顕著に表れている。〈窓を開けて顔を上げる そこには空があるだけ 生きることは暮らすこと だから今日も精一杯(シャララ)〉〈あっけらかんに生きるのだ(ぼくたち わたしたち)〉そんな普通のことを普通に歌えるようになった。数年前までは、柔らかい言葉を使いながらもここまでストレートな表現はしていなかったように思う。むしろ、どこか生き急いでいたような20代の頃のほうが、表現の方法は違えど、感情に対しては直球だった気もする。「日常に寄り添うーー」近年、自身の音楽に対して、すずきはそう説明する。もしかして20年前からそのスタンスの根幹は変わってなかったのかもしれない。


 アンコールで、「New sunrise」(『This is NEW SUNRISE』)が演奏された。<この希望が軽薄なら 今ここで死んだほうがマシなくらいさ>Aメロ終わりのここで声を荒げるのはあの頃とまったく一緒だった。中盤に演奏された「NORTHERN ROCK」(『NORTHERN HYMNS』)もそうだ。〈焦燥感で死にそうだ/劣等感でてっぺんへ走れ〉と獲物に噛み付いていくように歌う姿は“すずきゆきこ”ではなく、紛れもなく“鈴木由紀子”だった。ただ、その言葉の持つ意味と我々の心に訴えかけてくる“もの”自体はあの頃と少し違う気がした。もちろん良い意味でだ。


 クアトロワンマンが集大成という感じがしなかったのは、セットリストの構成にもあったと思う。デビューシングル「ピストルと天使」からの「シャララ」、2ndシングル「罪としずく」からの「ぼくたち わたしたち」。かき立てた焦燥感をすぐに払拭するような初期曲からの最新曲への流れが、ものすごく現在の彼ららしかった。古くからのファンの感傷を引きずらせずにあっけらかんとぶっ飛ばしてきた。


 来年4月にツアーを行うことも発表された。『ぼくたち わたしたちのツアー “すずき、今月で40だってよ”』、先輩バンドの良い影響を受けているようなツアータイトルも、日曜は12時半、平日は20時スタートという大人に優しい時間帯も、日常に寄り添う肩肘張らないスタンスがよく現れている。


「強いし、弱いし、真面目だし、ときどき疑うし、でもやっぱり強いんだぁーーっ!!」


 「ブルーでイージー、そんでつよいよ」の最後ですずきが叫んだ言葉。飾らない姿勢と柔らかい物腰、その中に秘めた強い意志と確固たる自信。これが現在のBUGY CRAXONEなのだ。(冬将軍)