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山本彩、特別な場所・NHKホールで見せたシンガーソングライターとしての成長

2017年12月03日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「CDが完成じゃなくて、それをライブでみなさんと共有して、初めてアルバムは完成するものだと思っています」ーー11月19日、NHKホールで開催されたライブで山本彩はこう話していた。


 山本は、昨年10月リリースの1stアルバム『Rainbow』で、かねてからの夢であったシンガーソングライターとしての夢を叶えた。その後、全国のZeppを巡るソロツアーを行った彼女は、今年10月、2ndアルバム『identity』を完成させた。前作から引き続き、亀田誠治がサウンドプロデュースを手がけ、水野良樹(いきものがかり)、阿部真央、いしわたり淳治、Carlos K.、ヒロイズムといった面々が制作に参加。今年行われた『AKB48選抜総選挙』への不出馬を選び、NMB48としての活動の合間を縫って、山本は前作を超える13曲中7曲の作詞作曲を担当した。今年のアルバムリリースからツアーの流れは、Zeppツアーからホールツアーへとスケールアップしている。先述した山本の言葉にあるように、今回の『山本彩 LIVE TOUR 2017~identity~』は、ファンとの共有がアルバムには不可欠だったことを強く感じさせるライブであった。


 まず、今回のツアーを観て驚いたのが、セットリストにAKB48グループ名義の楽曲が1曲もなかったこと。前回、筆者が観たZepp Tokyo公演( http://realsound.jp/2016/11/post-10166.html )では、NMB48の「抱きしめたいけど」「僕らのユリイカ」「初めての星」、山本がAKB48でセンターを務めた「365日の紙飛行機」の4曲が披露されていた。ソロとしての持ち曲が増えたのはもちろん理由にあるだろう。しかし、前回のツアーで大きな盛り上がりを見せていた「僕らのユリイカ」やAKB48の代表曲でもある「365日の紙飛行機」をセットリストから外したのは、シンガーソングライターの山本彩としてライブに臨む一つの決意の表れようにも思える。Zeppツアーの頃と比べて、格段に成長したシンガーソングライターとしての“山本彩”がいたのも事実だ。


 そのシンガーソングライターとしての山本彩を感じさせたのは、1曲目の「JOKER」。レコーディングのご褒美として番組で購入したギター、グレッチのホワイトファルコンを堂々と携え、自信に溢れた表情で弾く彼女の姿は、昨年のツアーで観た時よりも、よりオーラを纏っているように思えた。「Wings」ではハンドマイクで妖艶な雰囲気を漂わせ、阿部真央が手がけたロックチューン「喝采」では、右足をステージ前にあるスピーカーに足をかけ、ギターをかき鳴らす。山本はMCで「みなさんと作ることのできるライブが大好きなんだということに気づきました」と話していたが、本編ラストの「スマイル」「Let’s go crazy」「何度でも」の流れでの、会場の熱気は凄まじいものがあった。それぞれ1stアルバム、2ndアルバム、DREAMS COME TRUEのカバーと、もともと収録されている盤は違うものの、こうしてセットリストとして連なることでより一層の一体感を生む。会場にタオルが舞った「スマイル」、「オイ!」とファンのコールが入る「Let’s go crazy」、「何度でも」では「1」の人差し指とファンの叫びが会場に響いた。


 前回のツアーで山本は、自分の存在をファンに向けて「目標にしていることに突き進んでいける活力になれるよう」と話していたが、そのスタンスが一貫していることを証明したのが「何度でも」。ファンが一斉に叫ぶのを嬉しそうに受け止める彼女の姿は、まさにその姿を体現していた。“彩コール”が起き、感動のあまり声を詰まらせる山本は、「声が降ってくる感じで……言葉にできないからここに来てみてほしい」とファンに語りかける。NHKホールのステージは、昨年放送の『第67回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)にて行われた企画「AKB48 夢の紅白選抜」で山本が1位に輝いた場所でもある。NHKホールを「特別な場所」と話す彼女は、ファンの声を誰よりも一身に受け止めている。だからこそ、自分自身だけで作品を完結させるのではなく、ファンとの共有、声を聞くことでアルバムをさらに思い入れの強い作品にしたいと考えたのだろう。


 その気持ちが表されているのが、本編ラストに歌われた「サードマン」。タイトルには、辛い時に誰かを支えたり、力になったりする存在という意味が込められているが、まさにファンと彼女の関係を象徴した楽曲だ。「サードマン」は、アルバムリリース前のライブ『AbemaTV 1st ANNIVERSARY LIVE』でもいち早く披露されていた。優しく歌いかける山本の歌声を一身に受ける会場の空気も印象的だった。アイドルのキャリアを踏襲しながら、山本はシンガーソングライターとして歩みを進めている。


 ライブでは、「レインボーローズ」「雪恋」といった1stアルバムからの楽曲が8曲披露された。大胆なアレンジこそないが、各曲毎にイントロが少し編曲されていることに気づく。前回のツアーに引き続き、アンコールラストは「メロディ」。ゲストメンバーAtsuki(FIRE HORNS)を迎え、トランペットの音色が新たに加わった。<いまここにいる君へ/大好きなあの人へ/私のメロディを/もっと届けたい>と締めくくられる歌詞に、山本の心情が透けて見える。最後に山本は、「みなさんの力になれるような音楽を作って、みなさんを幸せにしたい」と挨拶をしていた。NMB48とシンガーソングライターの両立は並大抵のことではない。しかし、1年という短いインターバルで『identity』という“山本彩の成分が存分に詰め込まれた”アルバムを完成させた彼女には、どうしてもさらなる期待をしてしまう。ファンを思う山本とその気持ちを声にして返す彼らの関係性を経て、山本はまた、愛の込もった作品を届けてくれるだろう。(渡辺彰浩)