2017年12月03日 10:22 弁護士ドットコム
政府・与党は、2018年度税制改正の軸となる会社員の「給与所得控除」の見直しについて、年収800万ー900万円を超えると増税となる方向で調整していることが報じられている。
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給与所得控除は、スーツの購入代など会社員にとって必要な支出を経費として認めるため、収入の一定額を経費とみなして、税額を少なくことができる仕組みだ。
報道によると、政府・与党は、自営業のフリーランスが増えるなど、働き方の多様化で、会社員だけが恩恵を受けることが時代にあっていないとして、見直しを進めている。一方で、会社員も自営業も適用される基礎控除については増やす方向だ。
これまでの給与所得控除は、年収1000万円以上で上限額の220万円になっていたが、今後は、800万ー900万円を超えると上限に達する方向で、これらの年収層にとっては、増税になる可能性がある。
今回の政府・与党の意図をどうとらえればいいのか。働き方の多様化ということであれば、会社員を前提とした仕組みである給与所得控除は全廃して、全員が確定申告をすればいいのではないか。柴田篤税理士に聞いた。
現在の見直しの方向とはそもそもどのようなものか。
「わが国では基幹税を所得税と消費税に据え、法人税の税率を下げ、外国投資を呼び込もうとしています。基幹税である所得税の抜本的改革を進めなければならないと叫ばれていますが、その方向性については、国民のコンセンサスが得られているとは言えないでしょう。
そんな中、政府は現在の個人所得税は終身雇用制を前提として組み立てられ、諸外国の例を挙げ、我が国の給与所得者は恩恵を受け過ぎているとして、給与所得控除の削減を提案してきました。
年収に応じて65万から220万までの給与所得控除のうち、高所得者の給与所得控除を縮小し、経済を牽引している中間層の増税感をおさえようとしています。また、基礎控除38万を増加し、給与所得者から他の所得者への流動を促そうとしています。もっともな話のように見えますが、税収不足の折、業界団体のない給与所得者=一番とりやすいところから徴収しようというもくろみも垣間見えます」
本当に給与所得者だけが恩恵を受けることが時代にあっていないのであれば、給与所得者の所得控除を縮小ではなく、全廃したらいいのではないか。
「現在の給与所得者は、源泉徴収・年末調整・申告不要の制度を有していて、すべて会社が代行してくれます。税制についてほとんど知らずに、人生を終えることも可能です。これが自分で確定申告することになると、給与所得者の手間は相当なものになります。自分で申告をすると、いろいろ議論も生じるでしょう。それをいちいち受ける税務署職員もとても足りません。
個人所得は給与所得だけではありません。終身雇用制だったから給与所得だけであった人がほとんどです。いろんな仕事をし、所得税法上の10種類の所得に則って課税額を計算します。
『なぜこれは費用に落ちないのだ』『なんでこんなに税金が高いのか』といった税務職員との軋轢も生じるでしょう。面倒くさいから申告しない人もたくさん出るでしょう。それを追いかける税務署も大変です。徴税コストも増します。それもまた税金です。
アメリカやフランスは給与所得者も確定申告するそうです。そのバックには、きちんと納税教育をし、仕事を早く終わって確定申告書を作成する時間もあります。求人者、求職者に対する流動性が確保され市場もあり、簡素な税制が存在します。
日本もその方向性を目指すべきかもしれませんが、今急に制度を変えても、バックにそのような基盤がないわが国は無用の超混乱を生じるだけでしょう。目指すのであれば、何年かに渡る計画を立てて、バックグランドを整えながら移行すべきです」
【取材協力税理士】
柴田 篤 (しばた・あつし)税理士
貿易通商・物流を中心とする国際税務会計事務所。貿易、国際税務会計・国内税務、国際投資国際法務、IT IoTの4部門からなり、システムエンジニアを3名抱える。
事務所名 :TradeTax国際税務会計事務所(東京・大阪・バンコク・欧米提携事務所)
事務所URL:http://www.japan-jil.com/
(弁護士ドットコムニュース)