小林可夢偉(MS&ADアンドレッティ・フォーミュラE)にとって、初めてのフォーミュラEの初日は、さまざまな意味で驚きの連続となった。本人のコメントとともに、可夢偉の香港大会1日目を振り返る。
「朝、走り出したときは『えらいオファーを受けてしまった』と(笑)。ブレーキバランスが10パーセントくらいおかしくて『これは難しいな』と思っていたら、バランスを戻したら普通に走るようになった。レーシングカーで10パーセントはえらい違いですからね」
朝の7時(!)から始まったフリー走行1回目は全19台中で可夢偉は18番手。まさに、先行きの不安になるスタートだった。だが、トラブルの原因が明らかな分、解決も早い。フリー走行2回目では14番手まで順位を上げ、予選では4グループに分かれた2グループ目でアタックし、ターン4で左リヤをウォールに接触させてしまうも13番手のタイムをマーク。セッションごとに、着実にステップアップしていった。
しかし、決勝ではスタートで順位を下げてしまう。奇数グリッドで、最終コーナーの立ち上がりから少し先だったグリッド位置が災いした。
「左側(イン側)のグリッドは路面のラバーがなくて滑るので遅かった。右側がレコードラインなのですごくグリップする。ラインを外れると、全然、グリップしなかった」と可夢偉。順位をふたつ下げて16番手となると、そこでアンドレ・ロッテラー(テチーター・フォーミュラE)のターン4の立ち往生で赤旗中断。その後にレースが再開するも、可夢偉のペースは上がらない。そこにも大きな原因があった。
「スタート前から無線がおかしくなって『走ったら聞こえる』と言われたんですけど、走ったらたまに聞こえるんですけど、ほぼ聞こえませんでした」と可夢偉。
フォーミュラEは、バッテリーの限られたエネルギーをいつ、どのように使うのかがレースの勝負の分かれ目となる。テスト走行もできず、いきなりワンデー開催の走行初日の決勝でチームの指示なしにペース配分を考えることは、ルーキーの可夢偉には不可能なことだった。
「リメイニング(残りの周回に合わせた出力設定)を変えないといけないんですけど、その情報もチームから届かなくて、ずっと違うターゲットで走っていました。他の人より2周くらい多いレースの設定で走っていた」
「最後、バッテリーがたくさん余って、残り5周くらいでチームから『全開で行っていいよ』と。そのときにベストタイムをマークしましたが、それでも最後はバッテリーが余っていました。結局、どれだけの周回行けたんだというレベルの話です。実際、そこらへんはもう少し経験があると対処できたと思うんですけど、モニターに表示されている指示どおりに走ったらバッテリーが腐るほど余ってしまいました」
そのため、せっかく全体の29パーセントというぶっちぎりの投票数(2位が13パーセント)で獲得したファンブーストも、残念ながら可夢偉は使うことがなかった。
「ファンブーストに選ばれたこともレース中は知らなかった。あの展開なら使う場面もなかったのですけど、ファンブーストの前に、きちんとエネルギーを使えという話ですよね。経験がなくて初めて走るのに無線が壊れて動いていないと、こういう結果になるのは仕方ないですね」
コース上での苦労だけでなく、フォーミュラEならではのワンデー開催、そしてドライバーイベントの多さも、可夢偉を驚かせることになった。フォーミュラE開幕戦のセッション開始は朝7時で、その後も、2回目の練習走行、そして予選、ドライバーズパレード、スタート進行、決勝とコース上でのセッションだけでも、かなりの数になる。
「朝ご飯もそうですけど、お昼もご飯を食べれませんでした。(7時からの走行のため)朝、5時に起きて6時集合ですからね。ミーティングがあって、エモーション(フォーミュラEのファンクラブ)に行って、そのあとオートグラフ・セッションとか行っていたら『あと10分でクルマに乗り込まないと』と言われて、もうヤバイですよ」
翌日も同じワンデー開催となる大会2日目があるにもかかわらず、決勝後も21時までスポンサーとの会食が予定されているという。
「何かよく分からないですけど、(ドライバーが)上手く使われているなという感じはします。明日のスケジュールまで頭が回っていないです。そんなに余裕ないです。ヤバイっす。ホンマにヤバイっすよ。ナメていましたね。ホント。ちょっと働き過ぎじゃないかなと思います。こんなにドライバーを働かせるイベント、ないですよ」と、正直な言葉を吐露する可夢偉。
コース上だけでなく、フォーミュラEという未知のカテゴリーで、可夢偉がもがき続けている。2日目は果たして、どんな境遇が可夢偉を待ち受けているのか──