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京町家を"暮らすように泊まる宿"に、皆川明と中村好文が描く「京の温所」

2017年12月02日 11:53  Fashionsnap.com

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(左から)ワコールの西村良則 未来事業推進企画室室長、中村好文、皆川明 Image by: FASHIONSNAP
ワコールホールディングス初の宿泊事業となる施設「京の温所」の開業に先立ち、同施設のディレクションを手掛ける「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」デザイナーの皆川明と建築家 中村好文によるトークイベントが都内で開催された。建物や調度品がラグジュアリーであるという選択肢ではなく上質なアイデアや視点にこだわり、宿泊者自らがどのように過ごすかを選んで楽しむ"暮らすような宿"をキーワードにした構想プランを明かした。

 「京の温所」では、ワコールが京都・岡崎エリアにある町家と定期借家契約を結び、皆川明と中村好文によるディレクションのもとリノベーション。宿泊施設として10~20年ほど活用した後に持ち主に無償で返却するというスキームで、費用はすべて同社が負担する。同事業を通じて、観光客の増加に伴う宿泊施設不足を解消するとともに、空き家問題が取り沙汰されている京町家の再生と景観維持への貢献を目指す。
 皆川明と中村好文はもともと旅仲間だといい、今回のプロジェクトではお互いの実体験に基づき構想。家具や道具、食器などのセレクトやサービスといったアイデアの提案を皆川、設計部分を中村が主に担当し、表層的なラグジュアリー感にとらわれず"部屋そのものの空間が宿泊者をもてなす"という視点でリノベーションを計画しているという。
 その中でも特に重視するのはキッチン。「旅が長くなると食事に飽きる」と話す中村は7~8年前から"住む感覚"でアパートメントホテルに泊まるようにしているといい、皆川も「関東と京都の野菜は違う。普段使っているお味噌を持っていって、京都のかぶで味噌汁を作るなんていうのは、ハレという旅の中にケが含まれる楽しさがあると思う。食材の買い出しや食事を作ることも旅の楽しみの一つにしたい」と料理をしながら楽しく暮らすような宿を提案。また、「宿泊者自らが花を生けて飾ってみたり、能動的にやりたくなることが旅の始まりになったら素敵。部屋を整えていくことも泊まる人がしてみる。その方が旅の記憶が鮮明になると思う」(中村)とし、アメニティは必要以上の華美はなくすなど"おもてなしをし過ぎないこと"が大事な要素としている。
 客室には、皆川がデザインしたファブリックがあしらわれたソファなど自身が手掛けたものや、京都特有の素材を使ったものも配置する予定だが、基本的には土地柄や国内外問わず日本の暮らしにあったものを採用する考え。建物の規模は物件によって異なり、また住宅として返却することが前提となっているため「ひとつの視点をぶれないようにして、それぞれの物件の良さを活かすことが大事」(皆川)。住宅と宿泊施設をミックスさせた「京の温所」ならではのプランになりそうだ。
 京都市は5~6年前から京町家の再生に取り組んでいるが、「宿泊施設では中大規模の町家に誰も手を出せていないのが実態。飲食店として活用されているところもあるが息が短く、壁や柱を取っ払ってしまうので住居として使うことができない」(ワコールの未来事業推進企画室の西村良則室長)という現状がある。京町家を再生する事業としては後発となるが、「原型を残したい方の物件を活用するという意味で本格的に参入するのは弊社が初めてでは」と述べる。価格帯は、場所、大きさ、物件によって異なるが5~6万円以上を想定。3年後に20軒、5年後に50軒の展開を目指す。