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BiSH アイナ・ジ・エンド×渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、大胆な施策の裏側とグループの成長

2017年12月01日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 BiSHのメジャー2ndアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』が大きな反響を呼んでいる。


参考:BiSHのライブが生み出す、新たな熱狂の形 幕張メッセイベントホール公演を観て


 正式な発売日である11月29日よりも前に無告知で「ゲリラ販売」されたことも話題を呼んだが、何より注目を集めているのは動員とセールスをどんどん増しているグループ自体の勢い、そしてそれを支える楽曲自体のクオリティだろう。アルバムはリード曲「My landscape」を筆頭にスケール感の大きな楽曲が印象的な一枚。「SHARR」や「spare of despair」や「ALLS」などパンキッシュな棘のあるナンバーも存在感を示す。6人のメンバーの歌声の表現力の向上も伝わってくる。


 今回リアルサウンドでは、メンバーを代表してアイナ・ジ・エンド、マネージャー渡辺淳之介、楽曲を手掛ける松隈ケンタの三者へのインタビューが実現。アルバムの制作の裏側とともに、「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーがもたらした変化や、ほぼ全ての振り付けをアイナ・ジ・エンドが手掛ける由来など、貴重なエピソードも語ってもらった。(柴那典)


■渡辺「音楽って聴いてもらわないと意味がない」


ーーアルバム『THE GUERRiLLA BiSH』の正式な発売日は11月29日ですが、それよりも1カ月近く前に全国のタワーレコードで、無告知のまま299円でゲリラ販売されました。まず「流石だな」と思ったんですけど。


渡辺淳之介(以下、渡辺):ありがとうございます。僕と松隈ケンタ以外だとあの値段で出せないと思うんで。儲けはあんまり考えてないです。


松隈ケンタ(以下、松隈):ヤバいよね、普通だったらね。


渡辺:一緒にエイベックスと遊ばせてもらってます(笑)。


ーーそもそもあれはどういうところからの発案だったんでしょうか。


渡辺:やっぱり音楽って聴いてもらわないと意味がないので。前にも300円でiTunesで先に配信したり、インディーズ時代はフリーダウンロードをやったりしてたんです。ただ、今回は実は僕じゃなくエイベックスのディレクターからの発案ですね。今まではネット上だけで行ってたことを実店舗でやりたい、と。それを聞いてほんとに面白いと思ったし、じゃあやっちゃおうというのが始まりです。


ーー反響はどうでした?


渡辺:一番嬉しかったのは、店舗がお祭りみたいになってたことですね。「どこにある?」「八王子にあるらしい」「じゃあ行こう!」みたいなやりとりがあったり。配信だと「あ、新譜出たんだ」ってポチって買うみたいな感じだけど、「なんだ、みんなCD欲しいんじゃん」っていう。


ーーアルバムの内容に関しての感想も届いているんじゃないかと思いますが、そのあたりはどうでしょう。


渡辺:アルバムに関しては、僕たちは毎回自信を持っていい曲を出してると思ってるんで。反響は怖くてあんまり見れてないんだけど(笑)。


アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ):成長してるって書かれたりしてますね。声色の幅が広がってるとか、楽曲の幅も広がってるとか。昔のBiSHからずっと見てきてる人の意見はそういう見方の人が多いかもしれない。


ーー僕もまさにそう思います。成長したし、いろんな面でやれることも多くなったし、クオリティが高くなった。それを踏まえて松隈さんに訊きたいんですが、今回のアルバムの楽曲はどういうところから作り始めたんでしょうか。


松隈:スタートとしては、やっぱり「プロミスザスター」かな。その次に『GiANT KiLLERS』が出て。最近のBiSHは早めに曲が出来上がるので、「My landscape」は『GiANT KiLLERS』の時にはあったんです。だから「こういうものを作りましょう」というよりは、「プロミスザスター」以降のBiSHのライブとか世の中の反響を見て「こっちにいったほうがいいんじゃないか」っていうのがまとまったのが今回のアルバムなのかなっていうのは思います。


ーー「プロミスザスター」は振り返ってどういう曲になったと位置付けていますか? 


松隈:「プロミスザスター」はいい歌だなと思いましたね。自分で作って感動しちゃった曲は初めてかもしれない。ちょうど『情熱大陸』を見てて、『キングダム』の作者の原(泰久)先生が「自分で漫画を描いて泣いたことがあるんです」って言ってたのを聞いて、俺もそんな曲作ってみてえって思って隣の部屋に行って作ったのが「プロミスザスター」なんですよ。


ーーアイナさんはどうですか? どういう思い入れがありますか?


アイナ:喉の手術をした後の一発目に出した曲なんですけど、レコーディングしたのは手術前で。松隈さんが「アイナが帰ってきたぞー!」っていう風に歌ってほしいって言ってもらえて。その時は正直手術が怖かったんですよ。渡辺さんも「声が出なくなるかもな」とか言ってくるし(笑)。


渡辺:そんなこと言った? 俺。


松隈:この人は意地悪だから(笑)。


アイナ:「プロミスザスター」って、地声で今まで出したことのないキーだったんですよ。その時に松隈さんが「手術した後のアイナをイメージして」って言ってくれた時に、すごくイメージできたんです。だからレコーディングの思い出が大きいです。気持ちで歌った曲みたいな。


ーー先ほど松隈さんは「世の中の反響を踏まえて楽曲を作っていった」と言ってましたが、2017年のBiSHの動きについてはどう振り返ってらっしゃいますか?


松隈:やっぱり僕とか渡辺くんはライブハウス規模の人間だったから、今までライブハウスで映えるような曲をかなり意識してたんですけど、ステージも幕張メッセになったから。どんどんアイナたちのスケールが大きくなってきたんで、そこにも似合う曲を作りたいなって。それで「My landscape」を作ったところはあるんですよね。曲もアレンジもさらにもう一つ上のスケールというか。おそらくPVも予算をかけてくれるんだろうなって思ったんで、かけ甲斐のあるような曲がいいかなって(笑)。でも『KiLLER BiSH』の続編っていうところなので、全体としては凶悪にいきたいというのは意識しました。


ーーアルバムを聴いての印象ですけれど、いわゆる“名盤感”みたいな聴き応えがすごくあると思いました。


松隈:おお、嬉しいですね。それ。


ーーBiSHは仕掛けとか話題性じゃなくて曲で勝負してるグループだということがメジャーデビュー以降のタイミングで伝わってきて、それで人気が上がってきたところがあると思うんです。そういう一つの流れの集大成のようなものを今回のアルバムに感じるというか。渡辺さんはここ1年のBiSHをどう振り返っていますか?


渡辺:僕はもう、早く「My landscape」が出したかったんですよ。なので、とにかくずっとうずうずしてる感じだったんですよね。曲がどんどん生まれてきてるので。「My landscape」は、もう圧倒的なものにしたかったんです。普通に聴いただけだと何を歌ってるかほとんどわかんないというのもわざとやっていて。「なんなんだろう? なんかヤバい! 格好いい!」って雰囲気にしたくて。それが最大限できると思ったのが「My landscape」だったんですよ。今まで積み重ねてきたものの集大成なんですけど、結局わけがわからないっていうところに持っていきたいという。「BiSHってこんなだよね」って形容されることはもちろんあると思うんですけど、「得体が知れない」って言われたいというのが今年の目標だったんですよね。「どこまで行っちゃうんだろう?」みたいに、客を置いてきぼりにしたいっていうか。まあ、幕張が売り切れたのがラッキーだったんで、そこからやっぱりうまく軌道に乗れた感じはありますね。


ーー幕張メッセのワンマンはどういう体験でしたか?


渡辺:うーん、すごく不思議な気持ちでした。もちろんよく頑張ったって思ったし、メンバーが帰ってきた時もみんなヘトヘトで「大変だったね」と思ってたんですけど、松隈も僕もお客さんと同じような目線だったんです。「やってやったぞ!」って言うよりは自分の手を離れていったんだなと思って。だから寂しい気持ちだったんですよ。「寂しいね」っていう話を松隈ともしたんですけど。


松隈:意外だと思うけど、いつもああいう時だと二人で泣いて抱き合ってるんだよね(笑)。でも、幕張はそういうのはなかった。 「BiSHすごい!」って。


ーーアイナさんはどうでした?


アイナ:大きかったですね。売り切れると思ってなかった。でも、大きければ大きいほど緊張するのかと思ってたんですけど、それよりも私にとってはBiSHをずっと最初から作ってきてくれてる人たちとか、携わってくれてる人、お世話になった人たちが全員集結してるっていうことのほうが大きくて。それでずっと緊張してました(笑)。


ーーライブレポートでも書いたんですけど、幕張メッセのライブですごく印象的だったのは、いわゆるアイドルグループのライブと客席の関係性がちょっと違ったんですよね。ファンとアイドルって基本的には「推し」と「推され」の関係性じゃないですか。でも、あのライブではお客さんとメンバーが同じ振り付けを踊って、同じように汗だくになってる。一体になっている。そういう意味ではパンクバンドのライブと似た空気になっていて。


松隈:まさに。パンクバンドですね。


ーーそれで、BiSHのキャッチコピーの「楽器を持たないパンクバンド」っていうのはこういうことなんだって思ったんです。なので、改めて訊きたいんですが、あのキャッチコピーはどういうきっかけで生まれたものだったんですか?


渡辺:何だっけ? メジャーデビューのタイミングですね。それまでの「新生クソアイドル」っていうのが、エイベックスにさすがに失礼だからっていうので。部長さんと喋ってて「クソ?」みたいな感じになって、これはやめたほうがいいんだなって空気を読んで(笑)。


一同:(笑)。


渡辺:でも、何かあったほうがいいなって思ったんですよ。Perfumeは「テクノポップユニット」だし、ももクロは「週末ヒロイン」だし、でんぱ組は「秋葉原から世界へお届け」だし、何かしらそういうキャッチフレーズが欲しいなと思った時に、パッと浮かんだんです。ジャンルどうこうというよりは「楽器を持たないパンクバンド」って言い続けたらどうなるんだろうっていうのが一番にあって。だって、(Sex Pistolsの)シド・ヴィシャスだって(マネージャーの)マルコム・マクラーレンにケーブル抜かれたりしてたから、まあいいよねって。言葉遊びみたいな感じですね。


■ 松隈「ほんとにアイナの振り付けすげえいいなと思う」


ーーただ、最初にそのキャッチコピーを考えた時には、幕張メッセのホールのああいう空気を作りたくて考えた言葉じゃなかったと思うんです。


渡辺:そうですね。ほんとに。


ーーだから瓢箪から駒というか、キャッチコピーってひとり歩きして現実を作っちゃうんだな、みたいに思ったんですよ。


渡辺:それに関してはまさにそう思いますね。でも「楽器を持たないパンクバンド」であるのが面白いというか。あと、よく「BiSHっていうジャンルを作りたい」みたいなことを言う人がいるじゃないですか。なんかあの感じはダサいなって。


松隈:わかる。ダサい(笑)。


ーーあははは!


渡辺:それよりは「楽器を持たないパンクバンドでーす」みたいな、それくらいでいいのかなっていう気はしてるんですよね。


ーー松隈さんはどうですか?


松隈:僕はBiSHもそうだけど、初めて会う人に「どんな音楽を作ってるんですか?」と訊かれたら「J-POP」って言いますね。J-POPの枠の中でパンクやったりアイドルやったりメタルやってるという。そこが大事なんですよね。


ーーバンドマンとしてはどうでしょう? 今年には「鬼バンド」としてBiSHのステージに立ってますが。


松隈:やっぱりあれはすごく楽しかったです。やっぱりバンドでやれる風に曲を作ってるし。それを生でやるっていうのは単純に自分が楽しい。オケの上で歌う彼女たちもすごく魅力的でいいですけど、それはもう個人的には「つまんねえな」って思います(笑)。


一同:(笑)。


ーーアイナさんとしてはどうですか?


アイナ:私も鬼バンドとやってる時が一番楽しかったです。今までのツアーで一番楽しかった。私としてはメンバーが増えたみたいな感覚で、しかもそのメンバーたちがすごい凶悪な人たちで(笑)。リハーサルからすごい楽しくて。だって、Zepp Tokyoの時なんて、リハなのにドラムのタクヤさんが立ち上がってドラムを叩いてて。そういうのを見て「あ、こういうのが生感なのかな」と思って。


松隈:実際、その後のレコーディングは、アイナも他のメンバーも楽器の音を聴けるようになったんですよ。たとえば「この曲はここでこう盛り上がるから、このドラムのフィルに合わせて盛り上がって歌ってくれ」って言ったとしたら、その絵が浮かぶようになったみたいで。だから今回のアルバムは、歌が全員上手くなったと思いますね。


ーー歌も上手くなったと思いますし、ハモリも増えていると思うんです。そういうことも曲を作っている中では意識してましたか。


松隈:ああ、もう、すごくしてます。今までだったら難しくて歌えないようなメロディを少し減らしたりとかしてたんですけど、そういうのもなくなって。だから複雑化してるのかもね。


ーーたとえば5曲目の「spare of despair」はアイナさんのハモリのパートが印象に残る曲ですが、どうでした?


松隈:あの曲はデモを作った時にハモってたんですよね。主線は下のメロディだったんですけど、そこがちょっと格好いいなと思って、上ハモのメロディをミックスで上げめにしてたんですよ。それをみんなにキーチェックのために歌ってみてって送ったら、アユニ・Dとか他のメンバーは下をちゃんと歌ってるのに、アイナだけなぜか高いところを歌ってきたんで。そっちはハモリだぞって(笑)。


アイナ:私、普通の主線メロディが聴きとれなかったんですよ。なんかそれが耳に残ったっぽくて。


松隈:それがすごくよかったんですよね。だから偶然の産物というか。


渡辺:なかなか上ハモは入らないですよね。


松隈:僕、下ばっかりなんですよ。やっぱり上ハモをやるとかわいらしく、アイドルっぽくなるようなイメージがあって。特にアイナは上でハモらせると存在感が出てきちゃうので、ほとんどないんですけど。でもこの曲はツインボーカルっぽい感じにしたいなと思って、それがハマった感じですね。


ーー振り付けについても訊きたいんですけれども。BiSHの振り付けはアイナさんがほぼ全て担当していますよね。これはどういう由来でこうなったんでしょう?


渡辺:最初はお金がなかったからですね。インディーズ時代は特にそうで。やっぱり振付師さんに頼むとお金がかかるんですよ。で、メンバーに相談して「どうする? 稼ぎたい? それとも赤字を垂れ流す?」って言ったら「自分たちでやります」って言ったんで。「じゃあアイナ、やってたんでしょ? よろしく」っていう。それだけの話です(笑)。でも、最近ちゃんと清算しました。2、3年ぶんの振り付け代を別途お支払いしました。


松隈:そうなんだ。すごいじゃん。プロじゃん(笑)。


アイナ:初めてもらいました(笑)。


ーーいい話ですね(笑)。アイナさんは最初に振り付けをすることになったときはどういう気持ちだったんでしょうか。


アイナ:オーディションに受かってから少し経ってその話があったんですけど。その前に「俺と松隈さんは別にアイナのことをとるつもりなかった」みたいなことを言われてて(笑)。それで「お前、振り付けできる?」って言われたんで、「あ、私、振り付けで入れられるんだ」って。


松隈:そう思ってたんだ(笑)。


アイナ:そうなんですよ。オーディションでもだいぶ変な踊りをしたんですけど、もしかしたらそれがいいって思われたのかも! みたいな(笑)。


ーーただ、それは本当に初期の話ですよね。ある程度経ったら、プロの振付師に振り付けをつけてもらうっていう選択肢もあったと思うんです。でも、BiSHにおいてはそれは選ばなかった。これはどういう判断だったんですか?


渡辺:僕、もともと振付師さんの振り付けがあんまり好きじゃなくて。格好よく見えるんですけど、あんまりお客さんのことを考えてない感じがするんですよね。なんで、アイナにも初期からずっと「サビでは基本的に頭の上に手があるようにしよう」と言い続けてたんです。そうしたらお客さんのみんなの手も上がるし、それを後ろから見たら「あ、盛り上がってるバンドなんだな」って思うんだ、と。だからサビでは絶対手を上げろって徹底して言ってたんですけど、振付師さんだと、格好よく見せるために、いろいろやるじゃないですか。


ーーニュアンスのある動きにしますよね。


渡辺:それがダメなのと、あと振付師のだいたいの人の性格が僕、苦手なんですよ(笑)。


ーーあはははは。


渡辺:なんか語り始めるんですよ。「ダンスというのは、そもそもどういうものか、わかる?」みたいに。


松隈:ははは、俺がボイトレの先生を嫌いなのと一緒だね(笑)。


渡辺:あははは! で、振付師さんにもストーリーがあるから「これはこういう時にこういう気持ちで作った振り付けで、こう感じてもらいたい」とか語り始める。それもあんまり好きじゃなくて(笑)。で、アイナがつけた振り付けもおもしろかったんで、基本的にはずっとアイナにやってほしいなと思ったんですね。


ーーアイナさんはどうでしょう? 最初は大変だったと思うんですが、ずっとやってきて、振り付けに対しての自信みたいなものも増えてきてるんじゃないでしょうか。


アイナ:自信と言っていいのかな……。振付師さんがつける振りだったら、渡辺さんが言ってる通りめっちゃ格好よくて、いいフォーメーションでいい振り付けができるんだと思うんです。でもそういう人にはBiSHをちゃんと知らない人もいて。でも私はBiSHの子と毎日イヤっていうほど一緒にいるから、必然的にその子の仕草とか、その子の手癖とかもよく知ってるから、そういうのを振り付けにしたら、一番自然体に見えたりするんです。私はメンバーのことが好きだし、私がやるほうが、格好よくはないかもしれないんですけど、メンバーが踊りやすいものができるなって最近気付けて。だからちょっとずつ楽しくなってきました。


ーーそうやってメンバーで作っているというスタンスがお客さんにも伝わっていて、だからライブで一緒に踊るということに一体感が生まれている感じがするんです。渡辺さんとしては、そのあたりは狙っていました?


渡辺:そうですね。やっぱりBiSHはメンバー自身が最初から作詞もしてますし、振り付けも自分たちで作ってるので。全部が用意されてるわけではないという。「こういう思いがあって、こういうことを書きました」というのを自分の言葉で語れるようになってほしかったし。人から貰った曲でも、自分の曲として、大事なものとして扱ってほしいとは思っていて。そういう意味で言うと、最初から狙ってると言えば狙ってるんですよね。


ーー松隈さんはそういうBiSHのあり方をどう見ていますか?


松隈:すごくいいですよね。俺、ほんとにアイナの振り付けすげえいいなと思うし。曲を作る側の目線で言うと、「ここでお客さんの手がバーっと上がるような感じで歌ってくれ」とか「ここは幕張だ」とか「グランドキャニオンだ」とか、絵が浮かんでくれているので。振り付けとか歌詞にも全部のストーリーが繋がっていくのがいいのかもしれないですよね。僕の想像してたのとは全然違う踊りになりますし、全然違う歌詞になるんですけど、ただ曲を提供しているというより、バンドとして一緒にやってる感じがするんです。


■松隈「今のBiSHだからできたアルバム」


ーーアルバムの楽曲についてもお話を聞ければと思いますが。みなさんそれぞれ思い入れのある曲はどれでしょう?


アイナ:私は2曲目の「SHARR」です。これはレコーディングの時に松隈さんが今まで一番テンション上がってたんですよ。


松隈:だって、こんなおもしろい曲はないと思ったもん(笑)


渡辺:あの曲、ほんとに意味わかんないよね(笑)。


松隈:ほんとに意味わかんない。だってモモコでさえ「シャー!!」って言いだして(笑)。今までもBiS時代からああいう激しいデスボイスというか、シャウト系の曲を何回もやってるんですけど、今回は想像を越えてくれたんですよ。これはライブで培ったものの集大成かなと思った。普通に「好きに歌って」って言ったって、あれは出てこないでしょ。


アイナ:はい(笑)。


渡辺:リンリンの力はデカいですよね。90年代のグランジの女性バンドみたいな感じですもんね。俺も聴いてて「うぇ~!?」みたいになった(笑)。


松隈:もちろんリンリンもすごいんだけど、あの曲はアイナとかモモコのいい声が入ってるんですよ。


アイナ:あれ、松隈さんの仮歌は赤ちゃんを抱きながら歌ってたらしいんですけど、赤ちゃんを起こさないように「シャー!」って言ってたらしくて。


ーーはははは!


松隈:そうなんですよ。そうしたら小さい声で出すシャウトが上手くなって。それをアイナたちに言ったら、みんながそれを習得してきて。意外とみんな、ちっちゃい声で歌ってるんですよね(笑)。


アイナ:仮歌を聴いてから1週間ぐらい毎日お風呂場とかで、シャワーの音にも負けるぐらいちっちゃい声で「シャー!!」って(笑)。そしたらレコーディングの日に、「あ、これだ」っていう声が何回も出て。松隈さんに「安定してるよ。習得したね」って言われて、よっしゃ~!!って(笑)。


ーー(笑)。松隈さんはどうですか?


松隈:僕はやっぱり「My landscape」ですね。普段は完成形をあんまりイメージしないで作るんですけど、あれはアイナの独壇場の曲にしたくて。渡辺くんの言うように意味わかんない感じも出せてるし。けど、素通りしちゃう感じもない。それが今僕ができる中では一番面白いバランスでできたのかなと思ってますね。


ーーなるほど、わかりました。渡辺さんはどうでしょうか?


渡辺:僕はやっぱり自分の歌詞がすごくうまくいったという意味で、「FOR HiM」かな。〈言いたい事全部サビに託す予定なんだ そうだからサビの前のメロは地味にして〉っていう、岡崎体育的なことも書けて松隈さんの要望にも応えられたなって(笑)。


松隈:また家庭の話で申し訳ないんですけど、この曲を作ってるときに嫁に「早くららぽーとに連れてけ」とせっつかれて(笑)。だから仮歌は“もうすぐ僕は~出かけなきゃならねえから~”っていう歌詞だったんですよ。それを本物のいい歌詞にしてくれたという(笑)。


渡辺:感動的な歌になりました。


ーーすごくいいアルバムができたと思います。これまでとは違った深さというか、味わい方もある。


松隈:やっぱり、今のBiSHだからできたアルバムかなとは思ってます。やっぱりスケールが大きくなっているので。前作の時に「My landscape」があっても、入らないような気がする。全部、今のBiSHのタイミングだから出せたような感じがありますね。(柴那典)