熊本市議会の緒方夕佳氏(42)が、生後7か月の子どもを連れて議会に参加しようとしてから1週間が過ぎた。11月29日には、市議会の各会派の代表者らで作る議会運営委員会で緒方市議に対し「厳重注意」の処分が下された。
緒方市議の行動には、国内外から多数の反応が上がった。行動の背景や経緯は何だったのか。また、厳重注意の処分を受け、今後どうしていくつもりなのか。キャリコネニュースは本人に取材した。
親子傍聴室の設置を提案するも「子育て世代は傍聴したいと思っていない」と言われ愕然
結論から言えば緒方氏は、ほかにやり方は無かったとの立場を取っている。子育て世代のために提案してきた政策はこれまで一つも通らず、子育てが個人の問題と矮小化されてしまう現状に、「自分と赤ちゃんがそこに座っている姿を見てもらうことで分かってもらえるんじゃないか」と考えたのが今回の行動背景だ。
「実現可能性の高そうなものから提案してきました。熊本市の住民説明会は平日19時から21時頃に開かれることが多いんですが、これに子どもの面倒を見ている人たちも参加できるよう、説明会の間に使える無料託児所の設置を要望しました。他にも、子どもを連れて議会傍聴ができるよう、導入済みの自治体もある親子傍聴室の設置も提案しました。医療費を上げないで欲しいとも言ってきました」
しかし、傍聴室の件では他の議員から「子育て世代は傍聴したいと思っていないんじゃないか」「家でネット中継を見ていた方がいいんじゃないか」などの反応があり、「現代の子育てに関する理解が無い」と愕然としたと語る。
自身が妊娠してからの事務局の対応にも、強い疑問を持った。緒方市議は、現状の市議会環境は子育て世代の議員やスタッフが安心して働けないと思い、託児所の設置を求めた。議会内にいる各議員のスタッフは女性が多いため、彼女らの働きやすさ向上も念頭にあったという。しかし、事務局からの答えは一貫して「個人でどうにかしてください」との答えだった。
個人でベビーシッターを雇うことも可能だったが、この「個人で」という対応に、子育て世代が直面している難しさが表れていると感じたという。
「子育てはみんなでするものなのに、親だけの責任と思われてしまう。子どもを育てているのに、まるで育てていないかのような働き方を要求される。こういうことが親の負担になって虐待などの社会問題に繋がったり、少子化を進めているというのに、個人の問題として扱われてしまう現状に、おかしい、と心に湧いてくるものがありました。たくさん寄せられる子育て世代の悲痛な声を、いい加減聞いてほしいと思いました」
働く目的は「幸せに生きるため」だと思っています
ただ、強制退出は予想外だった。議会初日の当日は、議長が15分程度説明して終わるのが通例のため、その程度の時間なら子どもも同席できると踏んでいた。また、子どもは傍聴人ではないため、何の規則にも違反しないと考えていたという。
結果として国内外から数々の賛否を受けることになった。女性議員の反応も芳しくない。6人のうち2人はテレビ等で厳しい意見を述べ、他の人達も「公には言わないけれど、まずかったと見ているんじゃないかな」と予想する。
処分も想定していなかったという。当初は「子どもを連れたことへの処分」になる予定だったが、世論の声を受けて、議会開始を遅らせたことへの処分に変更されたようだと緒方市議は言う。
「事務局宛に全国から約500件の意見が届いたそうです。うち半数以上が行動への賛成・応援でした。議場に子どもを連れていったことが処分対象にならなかったのは、みなさんのおかげです」
遅らせる意図はなかったものの、「結果的に他の議員の方々の時間を奪う形になって申し訳なかった」と思っているという。
今後は、引き続き支援者らと協力し、子育てと仕事を両立できる環境作りに邁進したいと話す。待機児童ゼロの熊本市でも、陰には300人以上の保留児童がいる。
「数字上はそんなに問題が無いように見えてしまいますが、困っている人はいっぱいいます」
一度預けても結局仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれる人は多く、緒方市議は、こうした状況を変えていきたいと話す。
「今回の行動で良かったのは、子どもを預けるありきじゃない育て方を望む声があると表面化できたことです。北欧では、子どもがいる人はひと月一定時間まで家で仕事をしても良かったり、一緒にいて仕事をする環境が整っています。一見作業効率が落ちるように見えますが、実は柔軟な働き方が出来るところのほうが、効率が良かったりしますよね。私は、働く目的は『幸せに生きるため』だと思っています。幸せを犠牲にしないという点を大事にして、答えを出していくことが大事だと思います」
批判や他議員らの冷たい視線の中、これまでと同じように進めるのはかなりのストレスになりそうだが、
「議長から『両立の仕組みを考えていきます。環境作りを行っていきます』と公言してもらっただけでも前進でした。批判があっても、現実的にこういう話が出来るってなったので、前に進むしかないと思っています」
と意思は固いようだ。