売り手市場が続く昨今の就職活動では、一人の学生が複数の内定をもらうのも珍しくない。その中からより労働環境や条件が良い「ホワイト企業」に入社しようとするのが就活生の心理だろう。
こうした中、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は11月30日放送の「モーニングCROSS」(TOKYO MX)で、このホワイト企業という呼び名に疑問を呈した。「悪い労働環境が改善されればホワイト企業と言える訳では無い」というのだ。
「不満があっても、達成感を得られると成長の可能性を見出せるように人はなっている」
同番組MCの堀潤氏を例に挙げると、朝4時から夜10時まで働く生活を毎日送るなど、労働環境は良くはない。それでも堀氏が「ブラックだ」と訴えたりしないのは、「動機付け要因」があるからだと若新氏は言う。
働きがいの研究で知られる米心理学者、フレデリック・ハーズバーグの理論では、人が働く際には「衛生要因」と「動機付け要因」が必要とされている。
衛生要因は、勤務時間や給与など、労働環境に関するものを指し、社会が成熟するまではここを整備し、労働者の不満を減らすことが働きやすさに繋がるとして重視される。ただ、衛生要因は不満を減らすだけに過ぎないため、社会が成熟すれば動機付け要因の整備が必要になる、というのだ。
労働環境が良くないとすぐ「ブラックだ!」と言われやすい日本の現状について、若新氏は「不満をなくそうという方向に行き過ぎている」と感じているといい、
「それだけで人は頑張れるかっていうとそうではない。不満が残っていても、褒められたり達成感を得られるとそこから成長の可能性を見出せるように人はなっている」
と、動機付け要因の重要さを語る。いくらマイナスを埋め合わせてゼロにしてもプラスにはならない、ということだろう。
今後は労働条件に問題が残っていても「成長実感を作り出せる企業が勝ち残っていく」
しかし、ブラック企業を扱うニュースなどでは衛生要因である労働環境が主要テーマになりがちだ。そして、ブラック企業との対比として労働環境の整った企業がホワイト企業として評価される傾向がある。
若新氏はこうしたことから、今後は「職場の改善を考えるよりも、成長する機会をどう作っていくかが大事になると思う」と自論を述べた。「長時間だったり賃金はそこまで高くなくても、ひとりひとりの成長実感をうまく作り出せる企業が勝ち残っていくし人も集めていける」時代なのに、やりがいを生み出す方向での努力があまりに進んでいないというのだ。
「日本の社会は(衛生要因の)問題解決ばかりより、満足度を高める、成長の場を作るようになっていく必要があるんじゃないかなと思っています。ホワイト企業という言葉には注意してほしい」
ネットでは若新氏の意見に賛成する声もある一方で、「やりがい搾取とのバランスまで含めて聞きたかったなぁ」という声も出ていた。