2017年11月30日 10:42 弁護士ドットコム
ネット炎上やネットリンチの問題がきわめて深刻だ。東名高速道路で夫婦が死亡した事故をめぐっては、ネット上で「容疑者の勤務先」とされた企業に1日100件を超える嫌がらせの電話が殺到するなど、無関係の人にまで被害が広がった。こうした状況について、5年にわたりネットリンチのターゲットにされている唐澤貴洋弁護士は、新たな法制度の必要性を説く。
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唐澤弁護士はこれまで、ネット上に膨大な数の殺害予告が書き込まれているほか、職場に嫌がらせの電話やカッターナイフが届いたりする被害にあっている。11月13日放送のNHK「クローズアップ現代+」に被害者の1人として出演し、現行法を変えるべきだと訴えかけた。メディアにほとんど顔出ししていなかった彼が伝えたかったことは何か。唐澤弁護士にインタビューした。
――どうしてテレビに出演するようになったのか?
昨年出演した「ニュースウオッチ9」では、この問題について非常に理解があり、深刻であるという認識を共有してくれている方が関わっていました。単発の企画でなく、しっかりと社会に訴えていきたいという考えを持っていました。今回の「クローズアップ現代+」も、その方に関与していただきました。
顔を出すことを決断したのは、顔をさらすというリスクがあったとしても、それ以上に社会に認知されて、ネット炎上の現状と解決策について考えてもらうきっかけになったらいいと思ったからです。
――テレビ出演で変化はあったか?
ネット上では、相変わらず誹謗中傷がつづいています。私の問題も含めて、まだまだ知っている人は多くありません。1回、2回の放送で、大きく変わるわけではないと考えています。
――番組で伝えたかったことは?
大きく3つあります。1つは、ネット炎上やネットリンチが野放し状態で、悲惨な被害を生んでいること。そして、その被害を生んでいる現状に対して、今の法制度が対応できていないこと。最後は、ネット炎上やネットリンチに加担している人のほとんどが「ふつうの人」であることです。
――ネット炎上やネットリンチの現状とは?
ネット上の投稿や、現実の事件・事故をきっかけにして、ネット上で誹謗中傷・プライバシー侵害等の権利侵害がおこなわれています。たとえば、ツイッターの投稿が気に入らないから誹謗中傷する。さらに、どこに住んでいるか、どこの学校に通っているか、親族関係はどうなっているか――その人のプライバシーを暴露していく。
また、事件・事故が起きると、かならずトレンドブログやまとめサイトが作られて、デマも含んだ情報が集約されます。その情報をもとにしながら、ネット上でコミュニケーションがされつづけている。さらに、新しい「ネタ」を求めて、学校や会社に電話したり、自宅と思われる場所の周囲をうろついてみたりする。インターネットにとどまらない「つきまとい・嫌がらせ」行為をはじめるのです。
――そんなネットリンチの現状を変えたいと。
加害者に会うなどして、いろいろと考えてきた中で、やはりネット利用者側の問題があると思っています。ほとんど罪の意識もなく、ときには歪んだ「正義感」を暴走させながら、誹謗中傷・プライバシー侵害をしています。
――法制度の問題点は?
被害者側がすべて負担するかたちで権利侵害を是正しないといけないことです。たとえば、ネット上で誹謗中傷されたとき、加害者の責任を追及しようとしても、発信者特定の負担は、被害者にあります。プロバイダ責任制限法に基づいて特定しようとしても、プロバイダ側は裁判手続きを踏むことを求めてくる。被害者側は、弁護士費用、時間、労力、精神的不安を負担することになります。
また、損害賠償で認められる金額の水準も低い。結局、被害者が泣き寝入りするになっています。加害者を特定するのにハードルがあり、さらに加害者を特定しても、損害を埋められるような十分な賠償金を得られないのです。
誹謗中傷やプライバシー侵害の記事削除の請求を、被害者がしないといけないことも大変な負担です。検索エンジンの会社に対応を求めることもありますが、どんな場合に対応されるのか不透明で、とても被害者の救済に役立っているとはいえません。
――刑事事件にならないのか?
警察の立件もハードルが高いです。数年前にくらべれば、警察の対応も格段に良くなってきていますが。
――法律をどう変えればいいのか?
発信者情報開示については、プロバイダが裁判外(ADRのような機関を利用して)でおこなえるようにすべきだと思います。今よりも、加害者(発信者情報)を容易に特定できるようにしたいです。
また、プロバイダ責任制限法では、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に発信者情報を開示できるとされています。「権利侵害の明白性」というのですが、この文言だけではよくわからない。だから、ガイドラインをつくったり、もしくは条文で具体的な権利侵害を列挙すべきだと思います。
さらに、プロバイダ側の通信ログの管理について、一切規制されていません。どう保存するのか、どれくらいの期間保存するのか、プロバイダによって対応がまちまちです。「うちはもう消していますよ」と言われたら、被害者は泣き寝入りしかない。だから、発信者情報の開示を前提に、通信ログの管理方法を規定すべきでしょう。検索エンジンに対する削除請求権も法律上明確に認めるべきだと思います。
――刑罰については?
刑法上、個人のプライバシー侵害行為、たとえばインターネット上に個人の情報をばらまく行為も、刑罰が科される対象とすべきと思います。具体的には、個人の住所、電話番号、同意を得ないで盗撮した写真などをばらまく行為です。マスコミも含めて議論があるところだと思いますが、こういった行為が生活の平穏を害している事実は看過されるべきではなく、刑罰の対象にすべきだと思っています。
いずれにせよ、現実的には、刑法や検索エンジンへの法的規制はハードルが高いと思いますので、一番に発信者情報開示のところで法改正されるべきだと思っています。
――プロバイダ制限責任法がつくられてから16年をむかえる。
もはや「古い法律」といえます。インターネットは技術的な進歩が早い分野です。それなのに、プロバイダ責任制限法は、基本的なところがほとんど変わらず、現実の問題に対応できていない部分が出てきている。おかしいと思いませんか。国が制度を大きく変えない限り、法的な対応が不十分にしかとれず、一生解決しないと思います。
――ネットリンチに加担している人が「ふつうの人」というのは?
これまで、ネットリンチの加害者と話をする機会がありました。「ふつうの人」でした。そのことについても世の中に知ってもらいたいと思います。ネット炎上・ネットリンチの加害者に「ふつうの人」がなってしまうのです。つまり、誰もが加害者になりうるということです。
――どう伝えていくか?
学校教育の一環で、ネットリテラシーを教えられるようになればいいと思っています。「あなたはネットリンチの加害者になりますよ」という授業があってもいい。そういう犯罪に陥らないように、教育の面でも、ネットの危険性が伝えられるようにしていきたいと思います。
(弁護士ドットコムニュース)