最終戦アブダビGPは、一見すればメルセデスAMG同士の静かで地味な優勝争いだったように見えたかもしれない。しかし実際には両タイトルが確定し自由なレースが可能になって以来初めての直接対決であり、息詰まる駆け引きが繰り広げられていた。
ルイス・ハミルトン(以下、HAM)「すごく風が強いね」
メルセデス(以下、MGP)「ターン2が向かい風で、ターン8は昨日よりも追い風が強い」
HAM「温度は下がってきている?」
MGP「グランドスタンドの陰になったから、これから下がってくると思う」
ヤスマリーナは海と砂漠のど真ん中にあるため風が強く、なおかつグランドスタンドやホテルの建物の影響で場所によって風向きが異なる。さらに夕陽が沈み路面温度も刻々と下がって変化していく。コースオフやスピンが随所で見られるのは、そんなコンディション変化に対する繊細なドライビングが求められるからだ。
レースはバルテリ・ボッタスのリードで始まったが、ルイス・ハミルトンも2秒以内の差で追走し逆転のチャンスを窺う。
MGP「ターン9では2速ギヤを使ってくれ。ターボのバイブレーションを防ぐためだ。残りは44周だ」
2人ともにクルージングではなく、全身全霊の走り。その結果がギャップ1秒台の攻防だった。16周目、ハミルトンは集中するために無線交信も拒絶するほどだった。
MGP「ブレーキバランスを前にしてみてくれ。デフも使ってタイヤを守るんだ」
HAM「しばらく会話は最小限にしてくれないか?」
21周目、ダニエル・リカルドのマシンがコース脇に止まり、セーフティカーやVSCの可能性もあったためボッタスがピットイン。前を走るドライバーがピットストップの優先権を持つため、ハミルトンはピットインできずステイアウトした。
いつもならこれでボッタスの首位キープは決まったようなものだったが、今回は違った。モナコGPがそうであったように、タイヤのデグラデーションが小さいがために“オーバーカット”ができる可能性もあったからだ。
しかしハミルトンは24周目にピットインし、ボッタスの後方でコースに戻った。そこから猛プッシュでボッタスとのギャップを急激に縮めていった。
MGP「一応気にしておいてくれ、HAMがプッシュしているよ」
両者の差は見る間に縮まり、1秒以下にまでなった。しかし31周目にはハミルトンがターン17でタイヤをロックさせコースオフしギャップは再び広がる。
MGP「HAMがターン17でロックアップした。これでギャップは1.4秒になった」
ボッタス(以下、BOT)「大きなロックだった?」
MGP「いや、それほど大きなものではなかった」
周回遅れをかわしながら、2台は一進一退の攻防を繰り広げる。
HAM「このサーキットはフォローして走れない! XXX!」
ボッタスに近付けそうで近付けないハミルトンは苛立ち、逆にボッタスは41周目、42周目、51周目、52周目とファステストラップを記録していく。49周目にはボッタスもターン4でタイヤをロックさせてトラフィックで0.9秒のロスを喫する場面もあったが、ハミルトンもまたトラフィックでタイムロスをしてしまい差は縮まらなかった。
「僕は逆転するためにやれるだけのことはやって、君がミスを犯すのを待っていた。でも君は一度もミスを犯さなかった」
レース後、テクニカルミーティングでハミルトンはボッタスにそう打ち明け勝利を祝福した。今季3勝目にして、初めてハミルトンとの直接対決を制した。ボッタスにとっては極めて大きな1勝だったと言えるだろう。
MGP「これ以上なくブリリアントなドライビングだった! とても素晴らしいマネージメントだったよ、本当によくやった」
BOT「イエ~ス!! みんなありがとう、こんなに素晴らしいクルマを用意してくれてありがとう。こんなかたちでシーズンを終えることができて最高だ」
トップチームに急きょ加入し、学習の1年は終わった。来年は大きな飛躍の年にしなければならない。それに向けて、ボッタスは最終戦で最高のレースをやってみせたと言えるだろう。