2017年F1第20戦アブダビGP、バルテリ・ボッタスが前戦の雪辱を晴らすポールトゥウィンを達成。ルノーのニコ・ヒュルケンベルグも6位に入賞しコンストラクターズランキング6位の座をトロロッソから奪い取った。今宮純氏がアブダビGPを振り返り、その深層に迫る──。
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初めて決めた“ハットトリック・ウイン”、コース新記録PPスタートから4冠王に追走されながら最速ラップも出し切ったボッタス。完全優勝の閉幕戦、ロシアGPともオーストリアGPとも違う3勝目だ。あのときハミルトンは4位、1秒前後の対決展開ではなかった。
中盤27周目あたりがつらかったと思う。DRS圏内1秒差に迫るルイス・ハミルトンを意識しないわけはない。だが彼はあまりミラー・チェック動作をせず、前だけを見つめて(集中し)、自分を鼓舞していた。ここをどう切り抜けるかが『レースの焦点1』。
しかしハミルトンが“バイスロイ・ホテル”前の16コーナーでオーバーラン。オーバースピードだった。このわずかなミスによって30周目に1.495秒に広がり、31周目には1.700秒、32周目には1.802秒差に。
たったこれだけの差でもいままで背中に感じていた気配(殺気)が薄まった。ボッタスは持ちこたえた。今年後半そうできずにいたのにこの日ボッタスは耐えきった。先にミスしたのは4冠王のほうだった――。
もう一つ『レースの焦点2』、最終盤51周目にボッタスは1分40秒750、52周目に1分40秒650。これが最速ラップとなった。PU状況がプッシュ・ランを許したにせよ、出し切るボッタスにいままでと違うアグレッシブさを見た。
感情をむき出しにしないフィンランド人気質の彼が52周目に、この1年のありったけの気概をぶつけたのではないか。チームへのアピールでもハミルトンへの対抗意識でもなく、18年の自分のために――。
あえて言うと、舞台装置が派手なアブダビGPの表彰台“閉会式セレモニー”は地味だった。夜空にドドンと打ち上がる花火、テラスでシャンパン片手のVIPセレブたち、対照的に勝ったボッタスはさほどはしゃがない。きっと彼はかみしめていたのだろう、突然このチャンピオン・チームに入って過ごした長いシーズンのことを。
トップ3は予選と同じまま、ボッタス~ハミルトン~セバスチャン・ベッテル。彼らだけではなく、4位ダニエル・リカルドがハイドロ系トラブルによりリタイアを喫したために、以下キミ・ライコネン~マックス・フェルスタッペン~ヒュルケンベルグ~セルジオ・ペレス~エステバン・オコンまで1位から8位が全く同じ順列だった。
だからこそ目立ち光るのが、11位グリッドから10位フェリペ・マッサを抜き9位を得たフェルナンド・アロンソ。ピット側と最終盤に最速ラップを狙おうとPU状況などを逐一確認、最終周に自己ベストラップ。ボッタス、ベッテル、ハミルトンに次ぐ“4位相当”だがセクター3では、ハミルトン以上のセクタータイム(!)。
15年からマクラーレン・ホンダは60戦。アロンソは体調問題で2戦を欠場、今年はインディ500に参戦し“57戦目”。その最後3戦を10位、8位、9位、3レース連続入賞は最初で最後の戦果である。ここにアロンソがホンダ(現場スタッフ達)と共有したスピリットを受けとめたい。
オーバーテイクは少なかったが『レースの焦点3』はルノー。ヒュルケンベルグ4度目の6位入賞によってランク6位奪還成功。金曜フリー走行から闘争心がほとばしり、きわどいプレーもあったけれどこれがレースというものだ。ハース対トロロッソ対ザウバーの真剣バトルにもそれは言えると思う。中団チーム勢も全力を注いだ閉幕戦であった。