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『監獄のお姫さま』クドカン脚本の特徴とは? 物語の鍵は“キャラクターの中毒性”にあり

2017年11月28日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 TBS系「火曜ドラマ」枠で現在放送中の『監獄のお姫さま』。初回視聴率は9.6%という数字からスタートし、第3話で日本シリーズの放送延長により、ドラマスタートが1時間半以上遅れたことも影響して、やや数字を下げたものの、それからは徐々に上昇気配を見せ、ネット上でも話題にのぼることが多くなった。もともと、宮藤官九郎のオリジナル脚本で、主演の小泉今日子をはじめ、豪華キャストが出演と注目度は高かったが、ドラマがスタートし、回を重ねるごとに、癖になる面白さに魅了される人が増えてきた。そこには宮藤脚本ならではの、キャラクターへの中毒性が垣間見える。


(参考:小泉今日子たちは生まれ変わることができるのか? 『監獄のお姫さま』が描く言葉の大切さ


 これまで数々の作品で脚本、ときには監督を務めてきた宮藤。その多くの作品で特徴的なことは、登場人物の一挙手一投足から目が離せなくなってしまう中毒性ではないだろうか。本作でも、女子刑務所で出会った、小泉今日子演じる馬場カヨをはじめ、若井ふたば(満島ひかり)、大門洋子(坂井真紀)、勝田千夏(菅野美穂)、足立明美(森下愛子)、江戸川しのぶ(夏帆)らの登場人物は、非常に特徴がつかみやすく小気味がいい。劇中使われているあだ名や通称も、キャラクターを形作るうえでは重要な役割を担っており、本作でも馬場カヨは馬場カヨだが、ふたばは“先生”、しのぶは“姫”、洋子は“女優”、千夏は“財テク”、明美は“姉御”という通称が使用され、名前だけでどんなキャラクターかが一発でわかる。


 これは宮藤の代表作の一つでもある『木更津キャッツアイ』(TBS系)にも当てはまる。岡田准一演じる田渕公平は劇中“ぶっさん”と呼ばれ、櫻井翔演じる中込フトシは“バンビ”、塚本高史演じる佐々木兆は“アニ”、岡田義徳演じる内山はじめは“うっちー”、佐藤隆太演じる岡林シンゴは“マスター”というあだ名で呼ばれ、ファンから愛された。放送が終わってからも、キャスト自身が、それぞれのあだ名で呼ばれることも多かったという。こういった手法は、『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)などでも見られるが、通常の名前で認識するよりも、スッと入ってきやすい。


 物語には、ストーリーありきでキャラクターが配置されるものもあるが、宮藤脚本の場合、圧倒的にキャラクターの特徴が際立っており、こうした登場人物たちが、その個性に従って行動することによってストーリーが積み重なっていくことが多い。つまり、ストーリー展開の妙で魅せるのではなく、キャラクターの魅力によって物語を成立させていくのだ。


 また、こうしたキャラクターを描くうえで絶妙なのが、視聴者にがっつり感情移入や共感させる人物を作り上げるのではなく、ダメな部分や、人にはあまり触れられたくない部分を、ほんのりとデフォルメすることにより、キャラクターに親近感を覚えさせているという点だ。


 さらに、そんな欠点がある人物が、目的のために懸命に挑んだり、もがいたりする姿は、滑稽でもあり、センチメンタルでもある。この笑いとセンチメンタルが融合されたキャラクターのバランス感覚も宮藤の特徴かつ魅力の一つだろう。作品によってこのさじ加減は変わってくる。『監獄のお姫さま』は、センチメンタル度がやや高い気がするが、個人的には、9もしくは8の笑いと1もしくは2のセンチメンタルという図式が非常に心地良い。


 キャラクター造形のほかに、もう一つ注目したいのは、出演俳優の崩しだ。本作でも、小泉は、出だしから息子に「老けたね」と言われると、その後も「おばさん」を連発される。すでに小泉の秀逸なコメディエンヌぶりは他作品でも実証済みだが、やはり見ていて爽快感がある。さかのぼれば『木更津キャッツアイ』の薬師丸ひろ子(美礼先生役)や、『僕の魔法使い』(日本テレビ系)の井川遥(劇中でも井川遥役)、『タイガー&ドラゴン』(TBS系)の伊東美咲(メグミ役)や蒼井優(リサ役)なども、それまでのイメージからは想像できないような崩され方をしている。


 現在、第6話まで放送され、それぞれのキャラクターのバックボーンも描かれてきており、今後、ますます躍動しそうな予感がある。また、物語が進んでいくなかで、改めてもう一度最初から見直すと、キャラクターの見え方が大きく変わるのも宮藤脚本の大きな魅力の一つだ。そんな見方も楽しんでもらいたい。


(磯部正和)