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『民衆の敵』草ヶ谷Pが挑む“月9”の変革 「社会に一石を投じるドラマを」

2017年11月27日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 篠原涼子が主演を務める『民衆の敵~世の中、おかしくないですか~!?』(フジテレビ系)。篠原演じる平凡な主婦が市議会議員となり、市民の声に向き合いながら、社会で起きている問題をぶった斬っていく“市政エンタテインメント”だ。これまでラブストーリーが多かったフジテレビの“月9”ドラマとしては新たな挑戦となった本作について、プロデューサーの草ヶ谷大輔氏に話を聞いた。


■「今なら社会に一石を投じるドラマを作れる」


ーー昨年、「保育園落ちた、日本死ね」という言葉が話題になりましたが、このドラマの企画はそこから始まったとか?


草ヶ谷大輔(以下、草ヶ谷):その言葉の影響も多少はありましたが、それがきっかけというよりも、ここ最近、政治の世界がいろんな意味で注目されているのが大きいと思います。すこし前までは、政治といっても何をやっているのかわからない、すごく遠い世界に感じている人も多かったと思うのですが、今ではワイドショーなどでも盛んに取り上げられていて、政治が身近なものになってきていると思うんですよね。かつ、女性政治家の方々の活躍が目立ってきているので、今なら社会に一石を投じるドラマを作れるのではないかと思い、この企画をスタートさせました。


ーー篠原涼子さん演じる主人公・佐藤智子は、普通の主婦から市議会議員になる女性です。彼女のキャラクターを通して、どういったことを描きたいと思っていますか?


草ヶ谷:智子は決してスーパーマンでも、ヒーローではなく、本当に普通の一般庶民です。旦那さんと結婚し、子供もできて、贅沢をしなければある程度の幸せは手にしているけれど、時給950円の最低賃金で働いていたパートもクビになってしまい、40代、高校中退、資格なしの彼女はなかなか次の職が見つかりません。そんなときに市区町村議員の当選確率が80%だと知り、議員年俸目当てで立候補するわけですが、智子自身はお金が無くてもそれなりに幸せを感じていたと思います。でも、これは我々にも同じことが言えるのですが、「本当にこれで幸せなのか?」と思う瞬間があるんですよね。智子も「もっと上の幸せを目指してもいいんじゃないのか」と思って市議会議員になるわけですが、最初は“自分の幸せ・家族の幸せ”という利己主義だった彼女が、政治の世界に入り、様々な社会の問題やおかしな政治システムを知ることで、自分だけでなく市民の幸せ、さらには世の中の幸せを目指すように変わっていく。そういった智子のキャラクターとしての成長と同時に、自分の思っていることを素直に口にできる彼女の言動が市民や社会に影響を与えていく様子を描きたいと思いました。


――篠原さんと智子を結びつけた理由を教えてください。


草ヶ谷:クランクインする前に、一度、篠原さんとお話させていただいたんですが、すでにそのときから智子がいた気がしました。というのも、篠原さん自身がすごくピュアな方で、わからないことはわからないと素直におっしゃるし、このドラマに対しても「政治はあまり詳しくない」とおっしゃっていました。でも、智子も政治からかけ離れたところにいた人間なので、僕らは逆にそれがいいと思いました。もちろん、智子は篠原さんに当て書きしたキャラクターなのですが、それでもオンとオフがわからないぐらい智子になっていただいていると思います。


■「昔ながらの固定概念を覆していきたい」


――今回のドラマはオリジナルストーリーです。脚本を手掛けている黒沢久子さんは、『キャラピラー』(2010)、『きいろいゾウ』(2012)、『お父さんと伊藤さん』(2016)など映画で活躍している方ですが、なぜ連続ドラマの脚本をお願いしようと思ったのでしょうか?


草ヶ谷:“月9”の枠で政治を扱うのは、わりとチャレンジングな企画だと思うんですよね。だからこそ、新しい切り口が必要だと思い、すでに連続ドラマを書かれている方ではなく、映画界で活躍されている黒沢さんに脚本をお願いしました。それと、黒沢さんが手掛けられたAmazonプライム・ビデオの『東京女子図鑑』(2016)という作品を拝見したときに、男女限らずその人間の心の中にあるものを表現するのが上手な方だと思いました。なので、この方ならば視聴者の心に刺さる物語やセリフを書いてくださるんじゃないかという期待もありました。それでオファーさせていただいたのですが、黒沢さんも一度、篠原さんとお仕事をしてみたいと思われていたようで、「ぜひやらせてください」と言っていただきました。


――脚本で“黒沢さんならでは”と感じたところはありますか?


草ヶ谷:まずは第1話ですね。智子が選挙演説しているときの言葉やメッセージがとても心に刺さりましたし、黒沢さんらしいなと感じました。あと、キャラクター設定に関しても「ああいう人がいてもいいんじゃないの」と思わせるものになっていると思います。それは黒沢さんが視聴者の心の中にあるものを拾い上げているからだと思いますし、ああいう政治家がいてほしいと思わせる智子のキャラクター設定も黒沢さんならではだと思います。


――田中圭さん演じる智子の夫・公平を専業主夫にしたのも黒沢さんからの提案でしょうか?


草ヶ谷:そうですね。黒沢さんの意図が大きいです。とはいえ、最近では専業主夫の方はわりといて。このドラマでは“男が外で働いて、女が家を守る”という昔ながらの固定概念を覆していきたいという思いもあるので、“専業主夫でもいいじゃないか”というメッセージを込めたつもりです。


――智子を支える公平の姿が“理想の夫”だと話題を集めていますね。


草ヶ谷:公平は専業主夫に向いているんだと思います。むしろ外で働くよりも、家でご飯を作ったり、子供の世話をする方が得意なんだろうなと。でも、それは彼が特別なわけではなく、公平のような方が実際にもいると思うんですよね。あと、第1話でもありましたが、子育てがあるから仕事ができない、自分の思う仕事に就けないという女性は、今の社会に少なからずいらっしゃると思います。そういう女性たちが産休後、ちゃんと社会復帰できる世の中になってほしいという思いも込めて、智子と公平の夫婦像を作るようにしました。


■「藤堂役は高橋一生さんしかない」


――智子と同じ新人議員であり、代々続く政治家一族の次男でもある藤堂誠を演じるのは、高橋一生さん。今、大ブレイクしている高橋さんですが、彼を起用した理由を教えてください。


草ヶ谷:藤堂は二世議員であり、これまで政治のレールにしかれて帝王学を学んで生きてきた人です。でも、自分はこのままでいいのだろうかと思い、隠しマンションを借りている。たぶん、その隠しマンションが唯一本当の自分になれる場所だと思うんですよね。あと、智子という自分の考え方にはまったくなかった人間と関わることで、彼の本当の姿が見えてくるのですが、そういった二面性のあるキャラクターをうまく演じられる俳優さんを考えたときに、高橋一生さんしかないなと。今、改めて高橋さんが評価されている部分は、もちろんルックスや声もあるのでしょうが、いろんな引き出しを持たれている俳優さんですし、圧倒的な表現力を持っている方なので、高橋さんにお願いしようと思いました。


――藤堂はある意味、闇を抱えているキャラクターだと思いますが、藤堂の二面性を出すために、現場で高橋さんと演出の方とのやりとりはあったのでしょうか?


草ヶ谷:現場でのやり取りで印象に残っているのは、“笑顔”を使い分けるということですね。というのも、政治家はある意味で、市民に笑顔を振りまいて、支持を集めるのが仕事。でも、藤堂は実際のところでは智子と、隠れマンションで一緒に時間を過ごしている莉子ちゃん(今田美桜)にしか心からの笑顔を見せていないんです。なので、現場ではその差を出すための工夫をされていましたし、ドラマでも2話以降、智子から「その笑顔、むかつく。バカにしているの?」と言われたり、莉子からも「その笑顔、嫌い」と言われたりしていたと思います。それこそ2話で高橋さんがわかりやすく笑顔を変えてくださったので、藤堂の笑顔から彼の二面性を顕著に感じていただけるのではないかと思います。


――智子の政治参謀ともいえる平田和美を演じられているのは、篠原さんと同じぐらい女性からの支持が高い石田ゆり子さん。『逃げるは恥だが役に立つ』(2016・TBS系)でもキャリアウーマンを演じていましたが、今回はシングルマザーの政治記者ということで、また少し印象が違いますね。


草ヶ谷:石田さん演じる和美は、女性として先を進んでいるカッコいい人でありたいと思っている人です。彼女はシングルマザーで、そうなったのにも大きな意味があるんですよね。それは物語の後半に明らかになるんですけど、すごく強い女性だと思います。そんな和美が智子と出会ったのをきっかけに、もう一度、自分が本当にやりたかった仕事に突っ走っていく姿は応援したくなりますし、視聴者からも支持を得られるのではないかと思いました。そして、それを演じられるのは、同姓からの支持が高い石田さんだと思いました。それに和美は智子との出会いをきっかけに、自分の幸せとは何かに改めて気づき、自分がやりたいと思う仕事の道で頑張ろうとする女性なので、今の時代的にはすごく共感を得られる役柄なのではないかと思います。


■「このドラマをやる意味があると思っています」


――フジテレビの“月9”枠といえば、一時代を築いたブランドでもあったと思います。先ほどラブストーリーの多かった“月9”で政治ものをやるのはチャレンジングな企画だったと言いましたが、プロデューサーである草ヶ谷さんとして、そしてフジテレビという会社として変わっていかなければという思いがあるのでしょうか?


草ヶ谷:何か新しい風を吹かせたいと思いましたし、視聴者の方に「フジテレビ、変わってきたよね」と思っていただける企画をやりたいと思いました。今、政治というのは本当にタイムリーで、我々に近い存在になってきたからこそ、このドラマをやる意味があると思っています。このドラマを観て“民衆の敵”とはいったい何のことなのか、今の社会や生活を考えるきっかけにしていただけるとうれしいです。


――すでに4話まで放送されていますが、今後の展開はどうなっていくのでしょうか。


草ヶ谷:このドラマは大きく分けて三部構成になっています。智子が市議会議員になるまでの第1話が第一部、智子が市議会議員なってからの第2話~第5話が第二部、それ以降が第三部となっています。ネタバレになってしまうので、詳しくはお話しできませんが、第5話で物語は急展開を迎えます。その第5話からは新レギュラーも増えますし、右も左もわからない新人議員だった智子がどう成長し、どうキャリアップを図っていくのか、ぜひご注目ください。


(馬場英美)