2017年11月26日 11:13 弁護士ドットコム
離婚に伴ってもめるのが「財産分与」だ。一方は浪費家、もう一方は倹約家。そんな夫婦の場合、とくに泥沼化しそうだが、法的にはどう分与することになるのか。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた質問をもとに考えてみたい。
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離婚を現在考えているある相談者(女性)は結婚後、倹約を心がけてきた。しかし夫は浪費家で、月給の額を超える30~40万円を生活費以外の使途不明金として使っており、婚姻中に預金はほとんど増えなかった。しかし夫は離婚にともない、相談者の預金を財産分与の対象として狙っているという。
夫の散財により、夫側の預金額が大幅に減った場合であっても、財産分与の原則に忠実に、婚姻中お互い増えた預金額の半分を分与しないといけないのか。法的には「浪費家勝ち」となってしまうのか。加藤泰弁護士に聞いた。
「実務においても、本当に難しいなと思うテーマですね」
加藤弁護士は開口一番、そんなリアクションだった。どうやら、よくある話らしい。
「財産分与というのは、夫婦二人で結婚後に築き上げたプラスの財産からマイナスの財産を差し引きして、プラスの部分を半分に分ける制度なんです。マイナスが多ければ、当然、分与するものはありません。
今回のように、夫名義の財産はほとんど増えない一方で、妻名義の財産が増えたとなれば、一般的には離婚の際には妻名義の財産を半分に分けるということになってしまいます」
やはり、浪費家の勝ちとなってしまうのか。
「いえ、そうとは限らないんですよ。財産分与の原則は、2分の1ルールであるとは言え、例外もあります」
どういうことか。法律では、半分に分けると決まっているのではないか。
「実は話し合いでまとまらない場合、どのように財産分与の額や方法を決めるかについて、民法はとてもアバウトです。『家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を決める』と書いてあるだけ。つまり、諸々の事情を考慮して決めてね、としか書いていません」
「その他一切の事情を考慮」としか書いていないとは驚きだ。
「そこが、この問題の難しさなんです。先ほどの2分の1ルールというのは、当事者の寄与度を平等なものと考えた方がよいだろうという家庭裁判所で定着した考えですが、必ずしも絶対的なものではありません。諸々の事情を考慮する中で、特段の事情が認められれば半分にする必要はないし、実際に寄与度を2分の1としなかった例もあります」
では、倹約家の妻が勝てる可能性もあるのか。
「その可能性はあります。妻名義の財産について、倹約家の妻の寄与度が大きいと家庭裁判所が判断し、妻名義の預貯金の全部または大部分を妻に取得させる可能性はあると思います。
しかし実際には、簡単には決まらないでしょうね。2分の1ルールを崩すのは容易ではありません。倹約家の妻がそのように頑張れたのには、どこかで浪費家の夫の存在が支えになっていた部分があったのかもしれないですよね。
夫婦の関係は様々です。お金のことだけで成り立っているわけではありません。浪費の概念だって人によって様々ですし、よくよく聞いてみれば浪費ではなく、妻が財産を作る上で役立った出費だってあるかもしれません。妻からみれば浪費なのだとしても、その立証は簡単ではありません」
結論としては「浪費家がややリード」といったところか。では、このような夫婦はどうしたらいいのだろうか。
「話し合っても浪費が治らず、一緒にいるのが本当に辛いと感じるのであれば、離婚するのが一番でしょう。離婚に合意してもらえないようであれば、実家に戻ったり、友人を頼ったり、アパートを借りるなどして早急に別居に踏み切るべきです。
財産分与の対象となる財産は、通常、別居時が基準となります。別居後に倹約して貯めたお金は二人で築き上げた財産ではありませんから、財産分与の対象から外れます。倹約家でも別居費用は倹約しない方が良いということですね」
別居した場合には、財産分与とは別に、婚姻費用請求の問題が発生する可能性があるが、こと財産分与対策に限って言えば、財産に差のある倹約家の妻は「急いで別居した方がいい」というのが結論となるようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
加藤 泰(かとう・やすし)弁護士
早稲田大学法学部卒業、広島弁護士会所属
広島弁護士会広報室室長代理、広島商工会議所青年部会員
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事務所名:山下江法律事務所
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