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Kool & The Gang、Rhye、フジファブリック……早見沙織が明かす“影響”を受けた楽曲

2017年11月25日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 当サイトの連載企画「新譜キュレーション」の特別編「アーティストキュレーション」では、様々な世代・ジャンルのアーティストたちが登場し、彼らが最近聴いている音楽やお気に入りの音楽を5作品セレクトして紹介。リアルなリスニング体験からは、自身の作品とは違った角度から、ルーツや趣向などが浮かび上がってくる。それらが、アーティストに対する理解や関心を深める一つのきっかけとなれば幸いだ。


 今回は様々な作品で活躍する声優でありながら、シンガーとしても高い評価を得ている早見沙織がキュレーターとして登場。彼女は幼少期から母親の影響で海外のジャズ・ファンク・ソウルミュージックを聴き、自身もジャズボーカルを会得。現在は先述のジャンルに加え、J-POPから海外インディーまで幅広くキャッチアップし、アーティストの来日公演には積極的に足を運ぶなど、音楽的偏差値の高いリスナーだ。そんな早見はジャンルや世代を縦横無尽に駆け巡りながら、自身の音楽観やライブ活動、歌に影響を与えた音楽たちをピックアップしてくれた。(リアルサウンド編集部)


(参考:早見沙織が語る、竹内まりや提供『劇場版 はいからさんが通る』主題歌での成長


・Kool & The Gang『Wild & Peaceful』


 まずはいまだに聴いている、自分のルーツといえる音楽からご紹介します。母がソウル・ファンクミュージックが好きということもあり、家では常にこれらの楽曲が掛かっていました。ほかにもサム・ムーアやイヴリン・キング、レイ・パーカー・ジュニア、ラリー・グラハム……挙げるとキリがないくらい。そのなかでも私が好きだったのが、Kool & The Gangの『Wild & Peaceful』です。曲単位だと「Celebration」「Get Down on It」なんかも好きで、中高生のころにはビルボードへ来日公演も見に行きました。こういうベースがしっかり効いた音楽が好きで、ZappやCon Funk Shunも母から教えてもらってずっと聴いているアーティストです。正直、ファンク・ミュージックって、若い女性が歌うには難しいところもあると思うんですけど、リズムやベースがズンズン響くような楽曲は好きなので、自分の声も活かしたアレンジや楽曲にしつつ、そういう要素を音楽やライブにはどんどん取り入れていきたいです。


・Nouvelle Vague『Nouvelle Vague』


 ライブに取り入れているといえば、先日東京キネマ倶楽部で開催したコンベンションライブでは「やさしい希望」をボサノヴァ風のアレンジにしたんです。そのときは増田武史さんがミニー・リパートンの「Lovin’ You」を挙げてくださって、その曲を踏まえてアレンジしていただいたんですけど、私自身も元々、カフェミュージックやボサノヴァが好きで。母と一緒に行ったビーズのお店でかかっていたのをきっかけに、Nouvelle Vagueの『Nouvelle Vague』を好きになりました。そのころは音声検索のアプリなんて知らなかったので、耳コピして必死に覚えて、家に帰ってから調べたりして(笑)。


 Nouvelle Vagueは色んな名曲をボサノヴァ風にカバーする音楽プロジェクトなんですけど、リードシンガーのメラニー・ペインの持つ声の空気感が素敵なんです。前回ツアーの開場SEでは、私が選んだ40分から45分のくらいの音源を流していたんですが、その時は「Love Will Tear Us Apart」(New Orderのカバー)を掛けました。コンベンションライブでは、「ESCORT」がベース一本から始まるという展開を組み込んだんですが、この時のパフォーマンスは、小さい時に母と通っていたジャズ教室がルーツになっています。発表会で、小さいライブハウスを使ってピアノ・トリオ編成で演奏されたフランク・シナトラの「You’d Be So Nice To Come Home To」がすごく印象に残っていて。それがベース1本から始まる展開だったので、その時に録った動画を渡して黒須克彦さんにアレンジしてもらいました。こうやって、ライブで楽曲をアレンジすることが、どんどん好きになっている自分がいます。


・Rhye「Please」


 同じくライブの演出に影響を与えたアーティストが、LAのソウルユニット・Rhyeです。前作の『Woman』から大好きで。ある日、彼らがステージを真っ暗にして、蝋燭の灯りだけでライブをしている映像を見てすごく衝撃を受けたので、前回ツアー時には「雨の水平線」を歌う際、照明をなるべくカットしてもらいました。


 私、歌い方は曲に合わせていることが多くて、曲の雰囲気に引っ張られちゃうタイプなんです。でも、共通した特徴もあって、エッジが効いてマイクにカツンと当たる声じゃなくて、空気感というか、スカスカしている成分が多いので、Nouvelle VagueやRhye、The XXのような「空気に溶けていく歌声」は聴いていても気持ちいいし、歌い手としてもすごく参考になりました。「私の声には、こういうメロディや音との親和性があるんだ」という気付きにもなったりして。自分ではわからなかったんですけど、ディレクターや楽曲に携わってくれる方から「早見さんの曲は音を引き算したほうがいい」と言われていて。そこからずっと、いろんな楽器を詰め込むというよりは、声を引き立たせつつ親和性のあるものを意識するようになりました。


 海外アーティストで現行の方の音楽を聴くときは、気分に合わせてプレイリストを作ってみることも多いです。雨のときなんかは、気分がまろやかになる音楽が聴きたくなって、デヴェンドラ・バンハートの「Für Hildegard von Bingen」やAbsofactoの「Dissolve」、The XX、Balmorheaの『Clear Language』を聴いてみたり。晴れてて体力が有り余っているときは、EDMも聴いたりするんです。みんなからは意外と言われるんですが(笑)。それこそZEDDやPoter Robinson、Madeon、Diploのように、どこかムーディーな感じもあるアーティストも好きですし、なかでもお気に入りはHaywyreですね。クラシックやジャズを嗜んでいるトラックメイカーなので、打ち込みだけどジャジーに聴こえるんです。


・フジファブリック「銀河」


 自分で作詞・作曲を行なっていくなかで、最近影響を受けたものも紹介しようと思います。つい先日、昔使っていたiPod Classicを見つけたので、フジファブリックの『TEENAGER』や『FAB FOX』を聴いたんです。この間は一日「銀河」しか聴いていない日もあって。「銀河」、すごくないですか? Bメロで突然、めちゃくちゃ転調して2個キーが上がるんですよ。「今ですか!?」というタイミングの“こんなところで転調”がお気に入りで、現在製作中の曲も、元々あった展開からさらに転調させちゃいました。


 日本のバンドでかなり聴いているものだと、やはりキリンジは欠かせません。インタビューでお話したように、今回のシングルのカップリング曲「SIDE SEAT TRAVEL」は「まぶしがりや」とか「代官山エレジー」みたいな楽曲を目指していたところもあったり、リスナーとしては『3』や『Fine』が大好きで。曲は「ここでこうなるのー!?」という展開も多いですし、歌詞も“余白がある”感じというか、独特の雰囲気を持っていますよね。先日、新体制でKIRINJIとしてバンド編成になってからのライブにも足を運んで、ブラスも入ったオーケストラのような編成で楽曲を披露されていて、すごく充実した時間を過ごせました。


<美容室で髪を切ってもらうように>


 私は、いまだに自分の音楽を模索中で。影響を受けたあの作品をというよりは「この曲のここが好き」ということが多いので、どう取り入れて活かしていこうかという判断が難しくて、最近ようやくできるようになってきました。自分のスキル的にできないとか、どの段階で提案すればいいのかわからないとか、「この曲みたいにしてください」とお願いしていいのかどうかもわからなかったので。


 それって、美容室で髪を切ってもらうときと似ていますよね。写真を持って行って、「この写真のどこが良いと思ったのか」を訊かれて的確に答える術が必要だし、なんだったら自分でしっかり髪を切って、好きな髪型を作れるようになったら理想じゃないですか。これから作る音楽には、そうやって段階的に自分の色をより濃く出していこうと思います。