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アマゾン、競合するLINEの「AIスピーカー」販売禁止…独占禁止法違反なのか?

2017年11月23日 09:32  弁護士ドットコム

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ネット通販大手アマゾンのマーケットプレイスで、LINEのAI(人工知能)スピーカーが購入できなくなっている。LINE社によると、予告なく商品削除されたという。11月22日現在も購入できない状況が続いている。


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この背景には、AIスピーカーをめぐる熾烈な競争があるようだ。アマゾンジャパンは11月上旬、AIスピーカー「Amazon Echo(アマゾンエコー)」の国内販売を発表した。それ以降、競合するLINEのAIスピーカー「Clova WAVE(クローバウェーブ)」が商品一覧から削除されたという。


LINE社がアマゾンに問い合わせたところ、出品禁止商品に指定されているので取り消しになった、という説明があったそうだ。LINE社は弁護士ドットコムニュースの取材に「アマゾンでの販売は、私どものお客様にとって重要な販売チャネルだと考えている」とコメントした。


一方、アマゾンジャパンは「さまざまな状況を考慮し、常々商品の品揃えを判断している。なお、LINEのAIスピーカーは、LINEによりAmazonマーケットプレイスに出品・販売されていたが、現在は購入できないことは事実だ」としつつも、詳細についてコメントを控えた。


産経ニュースでは「独占禁止法違反の可能性もある」という専門家の見解もある。はたして、今回のケースは、独占禁止法違反にあたるのだろうか。公正取引委員会での勤務経験がある籔内俊輔弁護士に聞いた。


●不公正な取引方法に該当する可能性も

アマゾンのマーケットプレイスは、商品を販売したいと考えている人が、マーケットプレイスに出品して、その商品の情報を見た購入希望者が、購入できるという仕組みです。つまり、売り手と買い手をつなげる「機会」や「場所」を提供しているといえます。


こうした売り手と買い手を結びつける「機会」や「場所」は、プラットホームと呼ばれたりしています。また、アマゾンのようなプラットホームを提供している企業をプラットホーム事業者といったりします。


プラットホーム事業者は、有名だったり、多くの買い手に利用されていたりする場合には、売り手としても、そのプラットホームを通じて販売をすることが、重要な販売の「機会」になる場合があります。


過去には、農家が農作物を出荷する有力な農作物直売所を運営する農協が、競合する直売所にも出荷している農家に対して、競合への出荷をやめるように圧力をかけて競合向けには出荷しないようにさせた行為が、独占禁止法で禁止されている<不公正な取引方法>の中の「拘束条件付き取引」とされた事例があります。


今回のケースは、LINEが出品していた商品を削除したことから、アマゾンがマーケットプレイスを通じた販売というサービス提供の継続を拒否したといえます。同じく<不公正な取引方法>の1つである「単独の直接取引拒絶」に該当する可能性が考えられます。単独の直接取引拒絶は、取引を申し込んできた相手方に対して取引を拒んだり、これまで続けてきた取引を打ち切ったりすることによって、競争に悪影響を与える場合に問題になります。


●「独占禁止法違反」となるのは例外的ケース

しかし、企業が誰と取引するかしないかは、特に相手方に理由を説明することを要することなく、自社の判断で自由に決めることができるのが原則です(取引自由の原則)。


もちろん、民事法上、一度契約条件を決めて取引を開始すれば、取引の当事者が一方的に契約内容を変更することは通常できませんが、アマゾンとLINEの取引条件のなかでアマゾンに契約内容の変更権等が定められていれている等の事情があれば、民事法上も有効に契約内容を変更できる余地はあります。


取引自由の原則があるため「単独の直接取引拒絶」が独占禁止法違反となる場合は、例外的であると考えられています。


たとえば、公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」というガイドラインによれば、「競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として」取引拒絶をすることで、「取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合」には、<不公正な取引方法>にあたるとされています。


今回の問題でも、LINEは、アマゾンのマーケットプレイスを通じた販売ができないことによって、LINEによる通常の商品販売が困難となるおそれがある、といえるかどうかが問題になります。


仮に、アマゾン以外のオンラインマーケットプレイスでの販売が可能であるとか、オンラインマーケットプレイス以外での販売も可能であると考えられることから、そのような手段で十分な販売経路を確保でき対抗できるのであれば、独占禁止法上問題だというのは、難しいということになりそうです。


●アマゾンのマーケットプレイスの有力さをどう評価するか

なお、独占禁止法違反の事実については、だれでも公正取引委員会に報告して、調査などを求めることができます(独占禁止法45条1項)。商品が削除されたLINEも、公正取引委員会に調査を求めることはできますが、公正取引委員会が調査をしているか否かは現時点では不明です。(編集部注:弁護士ドットコムニュースの取材に対して、公正取引委員会側は調査について公表しないとコメントした)


また、LINEは、アマゾンの行為が<不公正な取引方法>であると考える場合には、民事訴訟において違反行為の差止めを求めることもできます(独占禁止法24条)。


AIスピーカーにおいてライバルであるLINEの商品を自社のマーケットプレイスから削除するのを独占禁止法違反とするのは、ライバル商品の販売・取扱いを義務付けることになります。それは、いささかアマゾンにとって酷かなという印象はあります。したがって、販売手段として、アマゾンのマーケットプレイスの有力さをどのように評価するかがポイントになるかと思います。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
籔内 俊輔(やぶうち・しゅんすけ)弁護士
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06~09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16年~神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp