2017年11月22日 18:13 弁護士ドットコム
埼玉労働局春日部労働基準監督署は11月9日、「夢湖観光バス」(埼玉県久喜市)の観光バス運転手(44)が長時間労働が原因で精神疾患を発症したとして、労災認定した。男性は11月22日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで会見を行い、「バス運転手の過重労働は、乗客のみなさんの命の安全を脅かすことに繋がりかねない」と訴えた。
【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】
代理人の白根心平弁護士によると、同社は関東地方を主な営業地域とし、ツアー会社からバスの運行だけを委託されている。スキーツアーや中国人旅行客を連れてまわるインバウンド旅行(訪日外国人旅行)などが多く、男性は交代の運転手もいない中で7~10日間連続で東京や名古屋、大阪や京都などを巡ったこともあった。
男性は2015年1月、正社員として同社に入社し、ツアーバスの運転を行っていた。しかし、その年の3~4月には月130時間を超える時間外労働があり、5月には181時間にまで膨らんだ。男性は5月ごろに精神疾患を発症。精神的な不安に加え、食べたものを嘔吐するようになり7月から休職した。
運行記録によると、午前5時前に出勤し、仕事が終わるのが午後11時過ぎという日も多数あり、男性は会見で「事故を起こすのではないかというような不安がありました」と振り返った。
男性は未払い残業代の請求で会社側と訴訟で争っており、会社側は、「30分以上運転していなければ休憩時間」として、精神疾患発症前3ヶ月の時間外労働時間を36~52時間と主張してきた。
しかし、今回の労災認定では、春日部労基署はアルコールチェック表や運転日報などから、待機時間も実労働時間と捉え、男性が主張したほぼそのままの時間外労働時間を認定した。
代理人の尾林芳匡弁護士は、「こういった運転手の働き方は、バス会社だけの責任ではない。十分な労務単価を確保していれば採算が取りにくい中で、ツアー会社が安値で委託、発注しているという問題が根っこにある」と指摘。
ツアー会社とバス会社間の契約について、「自由に安さを競い合うのではなく、運転手の健康管理を考えられる水準で委託できるよう料金の規制をかけていかなければいけない」と訴えた。
同社はこれまでにも乗務員の健康状態を把握していなかったとして、国交省から少なくとも過去に3回行政処分を受けている他、16年1月20日には同社のバスが日帰りツアー後に東京都大田区蒲田の電信柱に激突する事故も起こしている。
男性は、「蒲田の事故は同僚が起こしたもの。あのバスは私が休職する前に乗っていたバスで、もしかしたら自分もあの立場になっていたかもしれない」と話した。
(弁護士ドットコムニュース)