F1シーズンを転戦していると、いろいろな人との出会いがある。そんな人たちに、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねる連載企画。今回は、ホンダF1の2、3期でメカニックを務めていた木村真也さんだ。
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ブラジルGPのパドックで、ホンダのホスピタリテイハウスに、何度か出入りしていた日本人がいた。マクラーレン・ホンダのユニホーム姿ではない私服姿の人間が、ホンダのスタッフと親しそうに話をしているその方は、元ホンダF1のスタッフの木村真也さんだ。
木村さんはホンダの第2期からメカニックとしてF1活動に関わっていた数少ないスタッフのひとりで、ホンダがF1復帰を準備を開始した99年にはテストカーであるRA99を走らせた。もちろん2000年からの第3期活動のスタート時のメカニックのひとりだった。
だが、木村さんのレース人生は、2008年のF1撤退後に大きく転換する。第2期後の休止期間中は、ホンダのインディやル・マンでのレース活動をサポートしていたが、ホンダがF1から撤退した第3期後は、レースではなく、市販車部門に転属された。
その後、新車の営業マンにも転身。13年の11月に再び栃木工場に復帰するが、17年からはブラジルへの転勤を命じられた。
木村さんにとって今回のブラジルGPは、ホンダの第3期F1活動最後のレースとなった2008年のブラジルGP以来だった。
今回、ブラジルに赴任している木村さんに連絡を入れ、サーキットに招待したのは第2期と第3期で一緒に仕事をした経験がある電装系担当エンジニアの岡田研だった。じつは岡田以外にも、現在のホンダF1の現場スタッフには、第3期で活躍していたスタッフが数多くおり、木村さんとは旧知の仲。
特に現在メカニックとして活躍している中野健二は、第3期活動時にレースメカニックとしての基礎を木村さんから教えてもらっており、「木村さんに教わったことは、いまも役立っている」と感謝する。
2008年以来、久しぶりにF1をサーキットで見た木村さんに、いまのF1、そして現在のホンダはどう映っていたのだろうか。
「ピットもきれいになったし、マシンはまったく異なって、すごく変わりましたね。今年は成績が振るわずホンダのメンバーは大変だと思います。でも、私もかつてF1をやっていたときは、もうやりたくないと思うことが何度かありましたよ」
「でもつらい経験を経たほうが、得られる達成感も格段に大きい。私は2002年の鈴鹿(佐藤琢磨が5位入賞)で、それを味わいました。彼らも、近い将来必ずや私の経験した達成感以上のものを感じてくれると信じています」