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ホンダNSX GT3のアジアデビューは完走ならずも「その速さをみなさんに見ていただけたと思う」

2017年11月21日 19:52  AUTOSPORT web

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マカオのギア・サーキットを走るホンダNSX GT3。完走こそならなかったが、非常に鮮烈なデビューレースを戦った。
第64回マカオグランプリは11月19日(日)、ギア・サーキットでFIA GTワールドカップの決勝レースが行われた。このレースがホンダブランドとしての、そしてアジアでのデビュー戦となったホンダNSX GT3は、レース中のアクシデントに巻き込まれリタイアとなったが、非常に印象的な活躍をみせた。

 2017年に、アメリカのIMSAスポーツカー・チャンピオンシップやピレリ・ワールドチャレンジで“アキュラ”ブランドでひと足先に実戦デビューしていたNSX GT3は、今季ヨーロッパのGT3レース最高峰であるスパ24時間の会場で『ホンダNSX GT3』として初めてお披露目された後、今回マカオグランプリのなかで行われた“GT3世界一決定戦”FIA GTワールドカップに参戦し、ホンダブランドとして、そしてアジアでのデビュー戦を戦っていた。

 ホンダのワークスカラーに彩られ、1995年のル・マン24時間GT2クラスを制したチーム国光のNSXと同じゼッケン『84』をつけたNSX GT3は、パドック側に設けられたGTワールドカップのガレージのなかでも、ひときわ目を引く存在だった。当然、他メーカー/チームのスタッフもしばしば偵察に訪れるほどで、その雰囲気は満点。走行初日の11月16日(木)には、マカオのハーバービュー・ホテルのロビーを借り、アジア向けにお披露目会も行った。

■活きたバン・デル・ザンデの経験
 そんな走行初日、ランガー・バン・デル・ザンデがドライブしたNSX GT3は、マカオの特殊な路面のなかでやや跳ねが目立っているように感じられた。当然タイムも伸びず、4秒遅れの19番手。ただ、ホンダNSX GT3にとって、実戦も初めてな上にマカオも初。データなどない状態からのスタートだったのだ。

「今年1年アメリカで、HPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント)がレースをやってきましたが、当然市街地コースはアメリカにもあります」というのは、ホンダの嶋村馨グローバルGT3プログラムマネージャー。

「ただやはり、マカオは路面もうねりも、コース幅も最小のコーナー半径も違う、スペシャルなサーキットなんです。初日もシェイクダウンレベルの走行だけしかできず、実質予選までに走らせられたのは30分くらいです」

 しかし、ここからはドライバーであるバン・デル・ザンデの経験が活きた。マカオではF3、GTともに豊富な経験をもつドライバーだが、エンジニアとセッティングを大幅に振り直し、フリープラクティス2ではトップとのタイム差は縮まり、予選では1.7秒差ほどまで縮め、12番手グリッドを得たのだ。

「セッティングもどんどん進めていきましたが、すべてがいい方向にいきましたね」と嶋村マネージャーは言う。

 また今回、現地でバン・デル・ザンデの走りを見たホンダの山本雅史モータースポーツ部長は「初日のプラクティスからなかなか厳しい状況だとは思いましたが、ドライバーの開発能力が素晴らしかった。走るごとにセットアップも良くなりましたからね。非常にいいドライバーにNSX GT3に乗ってもらったと思っています」とバン・デル・ザンデを賞賛した。

■徹夜の作業もふたたびアクシデントに
 ただ、迎えた11月28日(土)の予選レースでは、バン・デル・ザンデは思わぬアクシデントに巻き込まれた。スタート直後からポジションを上げ8番手につけていたものの、ポリス・ベンドでダニエル・ジュンカデラが駆るメルセデスAMG GT3がクラッシュしたのを引き金に、12台が玉突き衝突。これにバン・デル・ザンデも巻き込まれてしまったのだ。

 ピットにNSX GT3が戻るまでの間、山本部長も嶋村マネージャーも非常に険しい表情を浮かべていたのが印象的だった。そして、追い打ちをかけるように直後に行われたWTCC世界ツーリングカー選手権のオープニングレースでも、隣のピットだったノルベルト・ミケリスとエステバン・グエリエリのシビックが同様にクラッシュに巻き込まれ、ホンダ陣営は3台の傷ついたマシンを直さなければならなくなったのだ。

 3台の修復作業は徹夜となり、早朝6時半頃まで続いたという。「クルマを修復してくれたメカニックに助けられた。感謝しています」と山本部長。

 迎えた決勝では、ややカラーリングはスッキリしてしまったものの、バン・デル・ザンデが強力な走りをみせ、6番手を争っていたものの、ジュンカデラとダリル・オーヤン(ポルシェ911 GT3 R)が目の前で接触したのに巻き込まれ、ラジエターを破損。リタイアとなってしまった。

 当然ながら、FIA GT3カテゴリーのレースは性能調整が施されるため、バン・デル・ザンデが好走をみせれば、上位に行くのは可能なことだ。しかし初挑戦のマカオで、しかも各メーカーが世界屈指と言えるワークス格のドライバー&チームを送り込んでいたこのGTワールドカップで、バン・デル・ザンデとホンダNSX GT3がみせたパフォーマンスは、筆者も思わず応援してしまう活躍だった。

■「その速さを皆さんに見ていただけたと思う」
「ヨーロッパのメーカーさんも『おっ』と思ったのではないでしょうか」と嶋村マネージャーはレース後、デビュー戦を振り返った。

「クルマはたくさん壊しましたが(苦笑)、得るものが多い週末でした。決勝でも期待してはいけないのですが、うまくいけば5番手以内にいけたと思います。クラッシュは残念ではありますが、いろいろなことを学ぶ週末でしたし、マカオを走らせることで、今後カスタマーに対しても何が必要かなど、また新しい経験を得ることができました」

 また、山本モータースポーツ部長も「レースも見ていただいたと思いますが、メルセデスやアウディに対して、思いきりビハインドがあるとは思わなかったです」と自信を深めた。

「ホンダの人間が言うと手前味噌になってしまうかもしれませんが、アジアのデビュー戦としては、結果こそリタイアとなりましたが、途中まではその速さをみなさんに見て頂けたと思っています」

「こうしてホンダのトップブランドであるNSXがレースで戦うことはすごく喜ばしいですし、ファンの皆さんに向けても、またいろいろなレースのプログラムを組んでいきますので、ぜひ応援よろしくお願いします」

 GT3カーの世界で大切なことは、勝利などの結果を残すことはもちろん、いかにカスタマーチームの心をつかみGT3カーを買ってもらい、レースで活躍してもらうかだ。その点では、地を這うように走るNSX GT3の姿は、エキゾチックなヨーロッパのGT3カーとはひと味異なる、日本の誇るスーパースポーツならではのカッコ良さがあった。GT3チームへの印象を残すという点では、今回のGTワールドカップへの実戦投入は“成功”と言えるのではないだろうか。