11月20日の情報番組「あさイチ」(NHK)で特集された「ネットで特技を売り買い」が話題だ。個人のスキルを売買するC2Cサービスを紹介した中で、主婦の描くイラストを「プロに頼めば3万円のイラストが2500円でコストダウン」と表現したことに疑問が上がっている。
番組では、薬局を営む店主がC2Cサービスを通じてイラストを頼む様子を紹介。請け負ったのはイラスト制作が得意な子育て中の主婦で、価格は、薬局店主と子ども2人の似顔絵を1カット描いて2500円。過去にイラストレーターに頼んだ時は3万円だったため、番組ではこれを「コストダウンに成功」したと表現し、依頼主も依頼された側も得をするとの論調で紹介していた。
現役イラストレーター「テレビでお得情報と紹介するのは気持ちわるい」
この紹介に、ネットでは否定的な意見が多く聞かれた。1つは、プロに頼んでいた仕事を一般人に安く頼めば業界の価格破壊に繋がるという指摘だ。
事実今年7月、日本イラストレーター協会が「イラスト相場価格」の一覧を公表した際、キャリコネニュースの取材に対し、アマチュア作家が低価格で請け負うことでプロの市場価格下落を誘発している現状を明かしていた。このような流れを踏まえると、価格崩壊への懸念が出るのも当然だろう。
現役のイラストレーターは、価格変動以外の面から意見を出していた。安い仕事を断ればプロの価格崩壊は避けられるが、「お得情報」として取り上げられることへの違和感があるという。
「私はあまりこういうの見て『業界の危機』とは思わないです。ああいう安く描く人と安く頼む人は、閉じられた世界でやってると思うし。こちらにあんな値段できたら断ればいいだけなので。でもテレビでお得情報って紹介するのは気持ちわるいな、搾取推奨か、と思います」
プロとアマチュアの境界線が今後変わっていく可能性
ただ、C2Cサービスも悪いことばかりではない。番組でイラストを制作していた主婦は、子育てをしながら1年に50件ほど依頼を受けている。そのおかげで「子どもに気兼ねなく月1冊絵本を買える」という。
かつて体育の個人インストラクターをしていた別の女性は、出産と育児で4年ほど休んだ仕事に復帰するにあたり、ネット上で「運動が苦手な子供にかけっこや鉄棒を教えるサービス」を始めた。依頼者の悩みにアドバイスすることで「仕事復帰するための感覚を戻せるんじゃないかな」と話していた。柔軟な働き方をしたいという世間のニーズにはマッチするようだ。
サービスの隆盛に伴い、プロの定義も変わる可能性がある。今までプロとアマチュアを区別していた「制作物をお金に替えられるかどうか」の重要性は薄くなり、新たな基準が産まれたり、別の基準の重要度が増していくかもしれない。