11月18日、WEC世界耐久選手権第9戦バーレーンの決勝レースが行われ、このレースがLMP1クラス“ラストレース”となったポルシェLMPチームは2号車ポルシェ919ハイブリッド(ティモ・ベルンハルト/アール・バンバー/ブレンドン・ハートレー)が総合2位、1号車ポルシェ919ハイブリッド(ニール・ジャニ/アンドレ・ロッテラー/ニック・タンディ)が総合3位に入り、2台揃って表彰台を獲得した。
2週間前の11月5日に開催された第8戦上海で3年連続となるドライバーズ、マニュファクチャラーズの2冠達成したポルシェは、シリーズ撤退前、最後の決戦の舞台であるバーレーンにプロジェクトメンバー全員の名前をプリントした特別カラーリングが施されたポルシェ919ハイブリッドで挑んだ。
前日の予選で最後のポールポジションを獲得した1号車ポルシェはジャニのドライブでレース序盤をリード。しかし、スタートから30分過ぎの19周目に2台のトヨタTS050ハイブリッドにポジションを奪われ3番手に後退する。
その後、ピットストラテジーの違いによって2番手と3番手を行き来していく展開のなかで61周目にジャニからバトンを受け取ったタンディが92周目のピットインでふたたび2番手に浮上。さらに124周目に迎えたピットタイミングで給油のみの作業でコースインすると、トップに躍り出ることに成功した。
しかし、そこからわずか6周後、1コーナーでLM-GTEマシンを交わそうとしたタイミングでラインを塞がれ2台が接触。このアクシデントによって1号車ポルシェは左フロントタイヤがパンク。スローダウンするとともに緊急ピットインを強いられ、戦線離脱を余儀なくされている。
レース終盤にはロッテラーが追い上げをみせるものの、GTカーへの追突に対するストップ&ゴー・ペナルティを課せられたこともあり、結局1号車ポルシェは最終戦を3位で終えることとなった。
「スタートは順調で、序盤はトヨタとほぼ互角のペースだったんだ」と語るのはスタートを担当したジャニ。
「しかし、トラフィックに巻き込まれて、徐々にリードを広げられてしまった。今日はブーストを本当に楽しむことができたし、このような駆け引きもこれが最後です。最終戦のために全力を尽くしました」
レース中盤にル・マン以外のシリーズ戦では珍しい3スティント連続走行を任されたタンディは「今日はトヨタとハードな戦いになることはわかっていたから全力を尽くして戦ったよ。同じタイヤで3つのスティントを走り、それは成功した」とコメント。
「しかし、残念ながらレース中盤に他車との接触があり、両方のクルマがパンクしてしまったんだ」
今シーズン、ポルシェともにレースができて幸せだったと語るロッテラーは「僕のスティントはスムーズだったよ。クルマは素晴らしく、今日は走行を楽しめたよ」
「レース序盤での接触が残念だったけど、今シーズン全体が不運の連続だったので気にしていない。WECに参戦できたこと、そしてこのすばらしいクルマで走れたことをうれしく思うよ」
■まさかのアクシデントでレースを失った2号車ポルシェ
前戦上海ラウンドでドライバーズタイトル獲得を決めた2号車ポルシェは今回、ベルンハルトが好スタートを決め、1周目に3番手から2番手に浮上した。
しかし、不運にも3周目にコース上に落下したコーナーボラードを車体下部に巻き込んだことでマシンバランスが崩れ、ペースダウン。チームは直後に導入されたセーフティカーラン中にはこのことに気づかず、リスタート後の7周目に緊急ピットインしたタイミングでようやくボラードを除去したが時すでに遅し。2号車はその後、トップから1周遅れの4番手でラップを重ねていく。
苦しいレース展開のなかで迎えたレース中盤、2番手を走る7号車トヨタTS050ハイブリッドがGTカーと接触。ピットでのマシンの修復作業を余儀なくされたことで2号車ポルシェは3番手に浮上する。
さらにスタートから4時間を迎える直前に僚友の1号車ポルシェのアクシデントにより2番手となった2号車ポルシェは最後のスティントで、2013年にポルシェ919ハイブリッドの最初のテストでステアリングを握ったベルンハルトにふたたびステアリングを託してコースイン。そのままの順位で最後のチェッカーフラッグを受けた。
今季はシーズン途中からF1にも参戦しタイトなスケジュールとなったハートレーは「今日は、早い段階で優勝争いから脱落してしまった。コースの真ん中に落ちたボラードに当たったのは決して彼のミスではないよ」と不運に泣いたレースを振り返る。
「アクシデントによって不利にはなったが、ゴールまでのスティントは順調だった。今日は2台のポルシェが表彰台を獲得したけれど、(優勝できず)気持ちは複雑だね」
2015年にポルシェのル・マン復帰後初優勝をもたらしたバンバーは「919プロジェクト全体を通して、今日は最高に楽しい一日でした」と語った。
「ポルシェは、ル・マンの919ハイブリッドためにカレラカップ出身の僕をドライバーとして選抜してくれた。ピラミッドシステムを信頼して、このようなチャンスを与えてくれたポルシェの皆に感謝しているんだ」
「プロジェクトを通して熱心に作業してくれたヴァイザッハの皆に感謝したい。僕は最高水準のモータースポーツで、ポルシェのドライバーになれたことを光栄に思っているんだ。そして、レースの水準を引き上げてくれたトヨタには『優勝おめでとう』と言いたいね」
開発期間を含めると5年にわたってポルシェ919ハイブリッドをドライブしてきたベルンハルトは「素晴らしいひとつの時代が終わりを迎えた。プログラムの始動から今日のレースの最終ラップまで、このプログラムに参加できたことを栄誉に思うよ」とコメント。
「素晴らしいクルー、素晴らしい人たち、そしてチームメイト。僕が彼らのことを忘れることはないだろう。このプログラムは僕のキャリアのハイライトだからね」
■WECからフォーミュラEへ
2014年にWEC/ル・マン24時間レースの最高峰カテゴリーであるLMP1クラスに復帰したポルシェ。参戦初年度から計4回のポールポジション獲得、そして最終戦で初勝利を挙げるなど“耐久の雄”の名に恥じないスピードをみせた名門チームは、翌年の2015年からはル・マン3連覇に加え、WECドライバーズチャンピオン、チームチャンピオンをそれぞれ3年連続で獲得してきた。
「これまでル・マンを3連覇したポルシェチームはなかったが、このチームはそれを達成してくれた。チームに感謝し、チーム全員を誇りに思うよ。彼らは、大変な努力、一貫性、そして適切なアプローチによって偉業を成し遂げたんだ」とポルシェAGのオリバー・ブルーメCEOはチームの偉業達成をたたえている。
また、ポルシェAG研究開発担当役員のミヒャエル・シュタイナーは「我々は、ポルシェの歴史において、発明力、経験、および勇気が成功を収める高度で複雑なレーシングカーを造り出すことを繰り返し証明してきた」と語る。
「ポルシェ919ハイブリッドは、4年間に実現可能なことをほぼすべてを達成し、ハイブリッドの卓越したパワーを実証してみせたんだ」
ポルシェは参戦当初から一貫して2.0リッターV4エンジンとフロントMGU-K、リヤのMGU-Hそしてリチウムイオンバッテリーからなるパワートレイン採用し、成功を収めてきた。4年間の戦績は前述のタイトルのほか、34戦中7回のワン・ツー・フィニッシュを含む17勝という輝かしいものであり、さらに計20回のポールポジション獲得、13回のファステストラップ記録もこれに付随する。
4年間という短い期間ではあったが、そのなかで“耐久の雄”の名をさらに強固なものとしたポルシェは、来たる2019/20年シーズンのフォーミュラEにワークス参戦することを発表。
12月2日に香港で開幕する2017/18年シーズンにはポルシェ・ワークスドライバーであるジャニ(ドラゴン・レーシング)とロッテラー(テチーター)がフル参戦する予定だ。