未払い賃金を遡って請求できる期間を延長しようという動きが進んでいる。厚生労働省は、労働基準法を改正して、請求できる期間を2年から5年に延長することを検討しているという。11月19日、日本経済新聞が報じた。
厚労省の担当者は、キャリコネニュースに対して、「民法改正を受けて、労働基準法で定められている未払い賃金の請求期間などについて見直しを進める」と語った。
厚労省担当者「有給休暇の繰り越し期間も見直す予定」
契約や金銭の支払いに関する規定を見直した改正民法が今年4月に国会で可決され、2020年4月に施行される。これまで、お金の支払いを遡って請求できる期間は、個人の貸し借りであれば10年、飲食店での「ツケ払い」なら1年、医師の診療報酬は3年といった具合にそれぞれ定められていた。
それを今回の改正で「請求権があると知ったときから5年」または「請求できるようになってから10年」に統一。賃金については、従業員が請求権について知っていると見なされるため、5年の期限が適用されることになる。
しかし、民法よりも優先して適用される労働基準法では、2年までしか遡れないことになっている。そこで労基法の期限を見直すということだ。
見直しの対象になるのは、未払い賃金の請求期間だけではない。同省の担当者によると、「有給休暇も現在は2年しか繰り越せないが、その期間についても検討する」という。
「請求をすると会社に居づらくなるため、躊躇してしまう人も多い」
産業別労働組合「UAゼンセン」の松﨑基憲弁護士は、「3~5年前の賃金が請求できるようになるのはとても良いことです」と延長の動きを評価する。企業も請求を恐れ、労働時間削減に動く可能性がある。
「請求できる未払い賃金の金額が最大で2.5倍になるだけではありません。1年当たり6%の遅延損害金は、請求の期間が長くなるほど高額になりますし、付加金の支払いが命じられることもあります。これらを支払うよりは、業務量を調整して、違法な残業をなくそうとする企業が増えてくるのではないでしょうか」
ただし、請求のためには、賃金が未払いだという証拠も遡って集める必要がある。
「タイムカードや日記、監視カメラの映像、"残業せざるを得ないほどの業務量があったと証明できるもの"といった証拠が必要になってきます。しかし古い証拠は散逸してしまう危険もありますし、従業員本人の記憶も曖昧になっているかもしれません」
同組合には、大手スーパーマーケットや家電量販店といった流通・サービス・製造業の労働組合が多数加盟している。加盟組合の中では、「製造業よりも、サービス業や流通業でサービス残業が多く発生している」という。
「しかし未払い賃金を請求するのはまだまだ簡単ではありません。会社に残りづらくなるため、退職を覚悟せざるを得なくなる場合も多いようです。転職先が簡単に見つかるとは限らず、躊躇する人もたくさんいます」
インターワイヤードが7月に発表した調査結果によると、「サービス残業をしている」人は回答者の40.7%に上った。特に「教育・学習支援業」では69.0%、「土木・建築業」では51.7%がサビ残を行っている。社員が個人で賃金を請求するのは大変かもしれないが、労基法改正が企業への抑止力として機能するとよいだろう。