「家族を幸せにしたいという気持ち」が仕事のモチベーションになるという人は多いが、他にも「自己実現という欲求」「人から感謝されることの喜び」「社会から必要とされている充足感」などと答える人もいるだろう。しかし中には、辛かった過去を現在のやる気に変えてしまっているツワモノもいるようだ。
11月16日の「5時に夢中!」(TOKYO MX)では、「仕事をしていく上での原動力」が話題となる一幕があった。作家の岩井志麻子は、良い思いをすることよりも、もっと原動力になっているものがあるという。(文:みゆくらけん)
「あそこにだけは帰りたくない。寂しいっていうのがダメでした」
それは、「過去に戻りたくない」という強い気持ちだ。岡山から上京してすぐの頃、ウィークリーマンションを借りて暮らしていたという岩井。友達も仕事も金もない日々、毎日午後3時になると「今日も誰にも会わなかった」と肩を落とし、「上京などせず元夫と大ゲンカしていたほうがよっぽどマシだった」と後悔していたのだという。
しかし、今になって振り返ると、いつのまにかその辛かった日々が今日を頑張るエネルギーに変わっている。「実感した侘びしさ寂しさを思えば、もう今は何があったって大丈夫。今は楽しくてしょうがない」と話す。
「あそこにだけは帰りたくない。寂しいっていうのがダメでした」
自分にとってキツいことは他の何より「孤独」だったと気づいた岩井は、もう当時のような思いはしたくないと、その一心で仕事に精を出しているという。
岩井の話に共感していたのは新潮社の中瀬ゆかりだ。同じように田舎からひとり上京してきた中瀬が最初に見たのは新宿の高層ビル。「こんなコンクリートジャングルの中にやって来てしまってどうしよう」と自分の小ささを感じ、不安に押しつぶされそうになっていたのだとか。
上京して最初のクリスマスイブ、駅から家に変える途中の道で、ケーキを持った家族連れやカップルと何度もすれ違う。自分には一緒に過ごす相手もいない。深い孤独を感じた中瀬だが、「絶対に自分はここで何かを築くんだ」と決意。それが中瀬にとっての「初心」となり、「今でも『あそこに戻っちゃいけない』というモチベーションになっている」と話す。
「寂しさを感じたり辛さを感じたことはマイナスばっかりだけでなく、むしろ原動力になるっていうことですね」
過去の自分が現在の自分のお尻を叩いてくれる。そう考えると、孤独な日々にも意味はある。今辛い毎日を過ごしていても、いずれそれは未来につながる強い「バネ」になるのかもしれない。