2017年11月20日 10:42 弁護士ドットコム
青酸を飲まされた高齢の男性が相次いで死亡した事件で、殺人などの罪に問われた筧千佐子被告人に対し京都地裁は11月7日、死刑判決を言い渡した。弁護側は死刑判決を不服として即日控訴した。
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この裁判では、筧被告人の「認知症」の影響が争点の一つとなっていた。産経新聞によると、公判で筧被告人を「軽度の認知症」と診断した医師が出廷。医師は「(筧被告の認知症は)急速に進行するようなものではない」とし、責任能力や訴訟能力を有しているという見解を示したという。
しかし認知症の症状は進行する可能性もある。一般的に裁判で症状が進行した場合、審理はどうなるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
「認知症などと診断された被告の場合には、責任能力と訴訟能力の2つが問題となります」
神尾弁護士はそう指摘する。まず、責任能力とはどういうものか。
「責任能力というのは、よくニュースなどでも出てくるものです。『事件当時に』弁識能力(悪いことだと判断できる能力)や制御能力(自分をコントロールする能力)があったかどうかが判断基準となります。あまりにひどい場合(妄想に支配されて事件を起こした場合など)は、刑罰よりも治療が検討されます」
では、訴訟能力はどういうものか。
「訴訟能力は、責任能力と似て非なる概念です。『裁判時に』相当な防御ができる能力があったかが基準となります。例えば自分が裁判を受けているのかさえ理解できない場合には、裁判が停止されることもあります。20年近く停止され続けた事案などでは、裁判が打ち切られたこともあります。
筧千佐子被告の事件では、弁護側は、被告は認知症が進んでおり、責任能力も訴訟能力もないとして無罪を訴えていましたが、判決では完全責任能力と訴訟能力を認めました」
事件当時は影響がなくても、裁判で症状が進行した場合はどうなるのか。
「責任能力は事件当時の状況をみますので、仮に裁判中に認知症が進行したとしても、責任能力の判断に影響が出ないと思われます。他方、あまりにも進行してしまった場合には、裁判手続が停止することもありえます。
控訴審で訴訟能力が失われた場合には、裁判手続きは停止します。また、訴訟能力が回復しそうにない場合には公訴棄却といって、訴訟手続を打ち切る手続をとることになります。その場合一審の判決は効力を失い、その後万が一回復した場合には手続をやり直すという流れになります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com