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桑田佳祐が表現した、ポップミュージックの“現在・過去・未来” 『がらくた』ツアー東京ドーム公演

2017年11月19日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 桑田佳祐のソロ活動はいま、“バンドマンとしての楽しさ”を深く追求する時期なのだろう。8月にリリースされた最新アルバム『がらくた』を軸とする全国アリーナ&5大ドームツアー。その序盤にあたる11月12日の東京ドーム公演は、見事なアンサンブルを背景とした音楽的な喜びに満ちた3時間だった。


 振り返ると、昨年12月に行われた横浜アリーナでの年越しライブは、人生の陰影を歌った名曲の数々が印象に残り、“ロックンロール詩人”たる桑田の表現にじっくりと耳を傾けるものだった。一方で今回のステージは、近年でさらに深められてきた内省的/文学的な表現もさることながら、それ以上に弾むような楽しさに満たされていた。


 ソロアーティストとして史上初となる、2度目の5大ドーム公演に突入したステージ。会場のスケールは圧倒的であるが、演奏自体には過剰な演出も仕掛けもない。桑田自身もカジュアルな装いで登場し、前半ブロックでは、立て続けに『がらくた』収録曲を披露した。四つ打ちのリズムが利いた「大河の一滴」に、ブルースやラテンを昇華した日本の歌謡曲へのリファレンスも感じる、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』の主題歌=「若い広場」。あらためて、海外も含めたポップ・ミュージックのリズムやアレンジと、日本のメロディ/言葉を融合する、無二の才能を見せつけられる。


 桑田の歌声は、バンドが刻むリズムとともに躍動していた。斎藤誠(Gt)、河村”カースケ”智康(Dr)を始めとするバンドメンバーと理想的な関係性を構築していることがわかる。往年のポール・マッカートニー&ウイングスやエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのアンサンブルがそうであったように、そこにはカリスマ的なアーティストと確かな技量を持つバンドメンバーによる闊達なインターアクションがあった。ステージを見ていると、『がらくた』というアルバムから感じられる“楽しさ”も、バンドの充実に裏付けられたものだと実感できる。桑田が「60歳を過ぎても、まだまだ“ひよっこ”!」とおどけて見せた「若い広場」の大サビは、東京ドームが笑顔と大合唱で満たされた。


 もちろん、時代を超える名曲も披露され、特にソロデビュー曲「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」は圧巻だった。歌唱とともに、ステージ上のスクリーンには30年前から今日に至るまでの桑田の写真が映し出されていく。しかし観客の胸に届くのは、単純な“郷愁”ではない。公演を通じて、海外の音楽を咀嚼して生まれた日本の歌謡曲へのリファレンス、桑田本人が現在進行形で道を拓いているThe Beatles以降のロックンロール、そして「ヨシ子さん」に代表される、USヒップホップやR&Bのエッセンスを汲んだ新しいサウンドーーと、日本のポップミュージックの“現在・過去・未来”がいずれも輝かしく表現されている。懐かしさから来る感動ではなく、やはり通奏低音として流れる、純粋な音楽の楽しさに心を打たれた。


 ワンフレーズだけ演奏された懐かしき名曲「恋人も濡れる街角」の替え歌もやはり、変わりゆく東京のイメージを折り込み、オリンピックが開催される2020年の姿に思いを馳せるMCと相まって、そのパフォーマンスは胸を躍らせる新鮮さを伴っていた。続く今後のアリーナ・ドーム公演での名演も確信させる、ポップ・ミュージックの本質を見るような夜だった。(文=編集部)