「イクメン」という言葉が人口に膾炙し、育児に積極的な男性も増えてきた。しかし父親の子育てには、様々な障壁が残っている。男性の育休取得率も依然として低い。
そうした現状を変えようと奮闘するのが、NPO法人「全日本育児普及協会」だ。同協会には、研修を受けた約20人の認定講師が在籍しており、子育てサロンや児童館で父親向けの講座を開いている。内閣府や教育委員会からの依頼を受け、一般の人向けに講演を行ったこともある。
「講座では、仕事と育児の両立方法についてレクチャーしています。両立のためには、とにかく定時で退社することが重要です」
そう話すのは、同協会の会長を務める佐藤士文さん(40)。佐藤さん自身も横浜市内で団体職員として働きながら、6歳と2歳の子どもの子育てに取り組んでいる。保育園へのお迎えをするため、定時退社を心掛けており、昨年は1年間で35時間しか残業していないという。
「定時で帰るためには、仕事の成果を可視化して、『成果を出して定時に帰る』という文化を作っていく必要があります。働いた時間ではなく、成果で評価してもらうのです」
おむつの交換台が女性トイレにしかないといった施設面での課題も
男性が育児に参加するためには長時間労働を削減していかなければいけないが、そもそも「残業は美徳」という考え方自体が古い、と佐藤さんは語る。
「残業を多くしている人は、効率が悪く、仕事ができないと判断されるのがグローバルスタンダードです。それなのに日本では未だに残業するのが良いことという雰囲気の職場が多いのではないでしょうか」
特に男性は、残業を厭わず、仕事に打ち込むのが良いという考え方は未だに根強い。それは"子育ては母親がするもの"という考え方と表裏一体なのかもしれない。
「育児は、あくまでも母親がするものという前提があると思います。だから父親が育児をしていると『イクメン』ともてはやされるのでしょう。でも『イクメン』と言われるのは、正直なところ、居心地が悪いです。私たちにとって、育児は当たり前のこと、やりたくてやっていることだからです。それに妻が育児をしていても褒められることはありません。女性は思うところがあるのではないでしょうか」
こうした古い意識が残っているだけでなく、施設面での課題も山積している。
「例えば、おむつの交換台が女性トイレにしかないことがあります。こうしたことも男性が育児をする上での障壁になります。出先でミルクを作る場所がないのも困りますね。あと、抱っこヒモなどの育児グッズが母親向けのデザインばかりなので、父親向けのものが増えてほしいとも思います」
男性の育休取得率はたったの4.2%、佐藤さんは「楽しいからやってみよう」と呼び掛け
佐藤さんは、第1子が生まれた34歳のときに7か月間、第2子が誕生した38歳のときには2か月間の育児休暇を取得した。幸い、育休はスムーズに取れたものの、復帰後に上司から掛けられた言葉には違和感を覚えたという。
「職場に戻ったときに『ゆっくり休めた?』と聞かれたのはとても気になりました。育児は仕事よりも大変なところがあります。休む暇なんて全然ありませんよ。もしかしたら育児『休業』という名前を変えた方がいいかもしれませんね」
佐藤さんのように育休を取得する男性はまだまだ少数派だ。厚生労働省が2017年10月に発表した調査結果によると、男性正社員の育休取得率の平均はたったの4.2%で、取得率が0%の企業は87.6%にも上る。
こうした現状に対して、佐藤さんは「男性に育児の楽しさを広めたい」と語る。
「育児はとても楽しいですよ。育児ができる時期は、子どもが0~8歳くらいの何年かしかありません。人生を80年だとすると、1割ぐらいの時間でしかないのです。仕事一本という生き方も良いですが、仕事も育児も楽しむ、という生き方はカッコイイと思います。もし職場に男性が育休を取得した前例がないのなら、ご自身が第一号になって歴史を変えてほしい。僕も今の会社と前に勤めていた会社の両方で、男性の育休取得第一号でした」
同協会が加わっている「『かながわ父子手帳(仮称)』作成検討会」は今年、「パパノミカタ」という小冊子を発行。ウェブページでもPDF版を公開している。横浜市から依頼を受けた全54回の「父親育児支援講座」も市内各地で開催中だ。