トップへ

高杉真宙、『セトウツミ』内海役が気になるワケ “掛け合い”で引き出された新たな魅力

2017年11月19日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 ドラマ『セトウツミ』(テレビ東京)を観ていると、毎回何だかほっこりとした気分になる。特に明確なプロットがあるわけでもない。基本的には、放課後のヒマな時間を持て余した高校生2人が、川べりで意味のあるような無いような会話を(ときには他愛ないゲームを)、延々と繰り広げているだけなのだが。しかし、それがすごくいい。「そんな青春があってもええんちゃうか」というのは、このドラマのキャッチコピーだけど、むしろ、そんなふうに無意味な時間を仲間と過ごすことこそ、青春の醍醐味なのではないか。そんなことすら思ってしまうのだ。


参考:高杉真宙×葉山奨之が語る、ドラマ『セトウツミ』の新たな挑戦 「僕らなりの瀬戸と内海になった」


 その魅力は、主演の2人……高杉真宙と葉山奨之という若い俳優の魅力によるところが大きい。普段は寡黙でクール、特に部活もやってないメガネ男子、内海想(高杉真宙)と、サッカー部を辞めてから、いたずらに時間を持て余しているお調子者の男子、瀬戸小吉(葉山奨之)。瀬戸の半ば天然掛かった饒舌なボケと、内海のクールで容赦ないツッコミの応酬が、何やら微笑ましくていいのである。


 さらに時折、川べりで過ごす彼らのもとに現れる、樫村一期(清原伽耶)、田中真二(森永悠希)、ハツ美(片山友希)といった友人知人たち。彼/彼女たちと瀬戸内海のやりとりも、ときにシュールで面白い。とりわけ筆者のお気に入りは、ハツ美の登場回だ。突然、瀬戸に告白してきたにもかかわらず、瀬戸の前ではうまくしゃべれず、いちいち内海越しに瀬戸と会話する……だけど案外毒舌という、ちょっと不思議な女の子、ハツ美。いつもはクールで冷静なのに、ハツ美の言葉を「通訳」するときだけは、ケタケタと無邪気に笑う内海。その姿を見ていると、何だかほっこりとした気分になる。そう、どうやら筆者は、劇中の瀬戸や一期と同じく、内海のことが……つまりは、高杉真宙のことが気になって仕方ないのだ。


 1996年生まれ、福岡出身の21歳、高杉真宙。小6の頃に「女の子と間違われて」スカウトされ、中2の頃には上京し、本格的に芸能活動をスタートさせた彼は、2012年から「ファブリーズ」のCMで松岡修三と平岩紙演じる夫婦の長男役を務め、2013年には『仮面ライダー鎧武』で第三のライダー「龍玄」を演じるなど、そのスラリと伸びた長い手足と端正なマスクと清潔感によって注目を集めていた存在だ。そう、2015年に出演したドラマ『表参道高校合唱部!』(主演:芳根京子/フジテレビ)で彼が演じた役どころ(ひきこもりを脱して合唱部に入り、同級生男子に告白してフラれる役)も、とても印象的だった。


 とはいえ、そんな彼のここ最近の活躍ぶりは、実に目覚ましいものがある。黒沢清監督の映画『散歩する侵略者』で、ジャーナリスト桜井(長谷川博己)が遭遇し、やがて行動をともにするようになる謎の若者「天野」役を好演していたのをはじめ、『PとJK』、『トリガール!』など、今年公開された出演映画は、実に6本を数える。その中でも、主演を務めた『逆光の頃』の芝居が高く評価され、今週末に授賞式があったTAMA映画賞では、最優秀新進男優賞に輝くなど、これから年度末にかけて各賞の受賞が期待される、堂々たる活躍ぶり。


 冒頭に挙げた『セトウツミ』をはじめ、そんな彼の最近作を眺めるにつけ、あることに気づいた。2013年に出演したドラマ『35歳の高校生』(主演:米倉涼子/日本テレビ)で共演した2人の兄貴たち……菅田将暉と野村周平(いずれも1993年生まれ)の仕事ぶりに大いに感化され、以降本格的に芝居にのめりこむようになったという高杉。実際、彼はその後出演した映画『渇き。』では、金髪ピアスの不良少年役を体当たりで演じてみせるなど、実は「カメレオン俳優」的な気概も持っている。


 けれども、ここ最近の彼の芝居を見ていて思うのは、むしろ自然体であることを基本としつつも、誰か他の役者との「掛け合い」の中で、新しい魅力が引き出されているということだ。思えば、『散歩する侵略者』の彼の役がとりわけ印象に残っているのは、長谷川博己との軽妙な「掛け合い」があってこその話だった。どこか超然とした雰囲気を身にまといながらも、未熟さの残るチャーミングな「侵略者・天野」の実像は、長谷川との「掛け合い」の中で浮かび上がる。その意味で、今回の『セトウツミ』は、彼の新しい魅力を引き出す上で、まさに打ってつけの役どころだったと言えるだろう。


 クールな役を演じていても、決して冷たすぎることはなく、武骨な役を演じていても、その奥底にどこか繊細さを感じさせる高杉。その魅力は、今後新しい共演者との「掛け合い」によって、まだまだ引き出されていきそうだ。だからこそ、その一挙手一投足から目が離せない。そんな存在に、今の彼はなろうとしているように思える。


 長い手足と凛々しい眉が、どこか若かりし頃の高良健吾を、その品のある面持ちが高橋一生を彷彿とさせ、さらにはその現場での愛されっぷりに、神木隆之介と似たものを感じるなど、今後の成長と活躍が楽しみな彼の次回作は、いくえみ綾の漫画を実写化した映画『プリンシパル』(2018年3月公開予定)になるのだろうか。その中で彼は、ダブル主演の黒島結菜と小瀧望(ジャニーズWEST)のあいだに立つ、“ゆるふわイケメン”桜井和央役を演じている。いわゆる“いくえみ男子”のなかでも、根強い人気を持つ「和央(わお)」役を、彼はどんなふうに演じているのだろうか。それ以上に、軽妙な芝居を得意とする小瀧が演じる、「和央」の幼馴染みであり特別な関係である“俺様系イケメン”「館林弦」と、彼はどんな「掛け合い」を見せながら、そこでどんな新しい魅力が引き出されてゆくのだろうか。まずは、そこに注目したい。


■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。