2017年11月18日 10:42 弁護士ドットコム
給料の前借り・前払いサービスが広がっている。タイムカード情報などをもとに、その時点までの給料を計算し、給料日前でもお金を受け取れるという仕組みだ。
【関連記事:追突され、新車がまさかの「廃車」...加害者が「無保険」だった場合、どうすれば?】
日経新聞電子版(10月24日付)によると、金融庁が把握しているだけで、システムの提供業者は約20社あるという。しかし、中には法律に抵触しかねないものもあるという。
たとえば、弁護士ドットコムニュースの法律相談コーナーには、ある企業の社員から、「給料の前借りとはうたっているものの、実際には給料を担保とした借金の申込だと思います」との投稿があった。
質問主の会社で利用しているサービスは、申し込んだ額から、振込手数料を引いた分が振り込まれるというもの。給料日になると、申し込み額とその6%が手数料として天引きされる。
実際に利用者が6%を超えて支払う状況は想定しづらいが、もし、この6%が「利息」だと判断されると、あくまで法律上の話ではあるが、年利は単純計算で最低72%ほどになり、法定の上限金利を超えてしまう。
このように判断が分かれる部分が、サービス普及の足かせになる可能性がある。杉浦智彦弁護士に法的な課題を聞いた。
そもそも、給料の前借り・前払い自体に問題はないのだろうか。杉浦弁護士は次のように解説する。
「法律上、会社は従業員に対して、貸金業登録なくお金を貸すことができます。
ですが、従業員が会社に、今月ピンチなので給料を『前借り』していいですか、と求めるときは、多くの場合、利息もないので、『借金』ではなく、給料の『前払い』と考えられます。労働契約も売買と同じく、合意さえあれば先払いが可能です」
「借りた」のか「先払いしてもらった」のかの区別は難しそうだが、利息の有無が1つの目安になるそうだ。
では、近年増えている、給料日前でもお金を引き出せるシステムは何がマズいのだろうか。
サービスは大きく、会社が前払い用のお金を用意している場合と、サービス提供者が用意している場合があるという。杉浦弁護士は、「会社がお金を用意していない場合は危険です」と分析する。
「サービス提供業社が手数料を取って、しかも給料を担保にお金を渡すわけですから、法律上は貸金業に該当する可能性が極めて高いだろうと考えられます。厳密には貸金業登録なく行うことは違法と判断せざるを得ない場合がほとんどなのではないでしょうか」
利息制限法上は、手数料も利息とみなされる(同3条)。たとえば、冒頭の相談者の例では、手数料6%で10日しか借りていない場合、年利は200%を超えることになる。利息制限法違反だけではなく、出資法違反で罰則が科される可能性もあるという。
このほか、給料の一部が会社ではなく、サービス提供業社から支払われることが、労基法の「直接払いの原則」に、給与からの天引きが「全額払いの原則」に違反する可能性もあるそうだ。
この手数料を合法にするにはどうしたら良いのだろうか。
「会社が前払いのお金を用意している実態があるかどうかは大切なポイントだと思います。
会社がお金を用意し、サービスの提供業者が金額の計算システムのみを提供する場合や、『前払い』の代行しかしないような制度であれば、『貸金』ではなく会社による給料の『前払い』をサポートするシステムと判断され、貸金の利息とは考えられないでしょう。この場合は、6%の手数料も、合法といえる余地があります。
今後、もしも検挙されることがあるとしたら、給料の前払いとはいえないものの中で、かつ消費者問題と考えられるもの(手数料が高いなど)になるのではないかと思っています」
現行法では、グレーな部分もありそうなシステムだが、労働者からの期待も大きい。福岡市は今年9月、サービスを推進するため、特区申請を行った。
報道によると、福岡では現金の受け渡しではなく、スマホアプリでの残高管理を目指しているようだ。利用者が加盟店で買い物すると、企業が代わりに支払い、給料から天引きするという仕組みだという。
「報道だけでは不明な部分もありますが、少なくとも、賃金の一部を従業員ではなく店に支払うことになり、労基法の『賃金直接払いの原則』に違反します。今回の特区構想も、賃金の直接払いについて修正を求めるもののようです。
私自身、これらのサービスにニーズがあるのは間違いないと思っています。しかし、現行法の下では実現しにくいのも確かで、労働者のための法律が、逆に労働者の権利を奪っているようにも思えます。Fintechと呼ばれる分野の進歩に応じて、うまく法改正をしていくことが望ましいと考えています」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
杉浦 智彦(すぎうら・ともひこ)弁護士
神奈川県弁護士会所属。刑事弁護と中小企業法務を専門的に取り扱う。刑事事件では、特に身柄の早期解放に定評がある。日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事務局員としても活躍。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/