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大磯「まずい給食」の真逆? 世界初の給食無償化、教育先進国フィンランドの「こだわり」

2017年11月18日 09:53  弁護士ドットコム

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神奈川県大磯町の公立中学で、異物混入が相次いだ上、「まずい」として給食が大量に残されるという問題が9月に発覚した。コストカットのために導入したデリバリー方式が原因とされ、10月には給食自体が停止している。


【関連記事:大磯町「まずい給食」異物混入の報告相次ぐ…業者の法的責任は?】


この問題をきっかけに、国内では「子どもが残すような給食の見直しを」「義務教育なのに給食費を負担させるのはおかしい」など、給食やその制度のあり方にまで議論が広がっている。また、給食費の未払いも各地の自治体で悩みのタネだ。


子どもの健やかな成長にとって、また学校教育において、給食がどのような役割を担っているのか。あらためて給食について考えるため、教育先進国と知られ、世界で初めて無償で学校給食を提供することを法制化したフィンランドの給食について、駐日フィンランド大使館(東京都港区)に訊ねてみた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)


●「学校給食で若い頃から国民に健康的な食生活を送ってもらう」

「フィンランドは1948年、学校給食を無償化する学校給食法を世界で初めて定めた国です」


そう話すのは、マルクス・コッコ参事官だ。就学前教育、総合学校(小・中学校)、後期中等教育学校(高校・職業学校)の生徒全員を対象に、給食が週5日間、無料で提供されているという。当初は質素なものだったが、現在では地域の食材を使ったり、栄養バランスの考えられた学校給食は、子どもたちに人気のようだ。学校給食を重視することに、どのような目的があるのだろうか。


「目的は色々ありますが、そのうちの一つが、国民に若い頃から健康的な食生活を送ってもらうことです。子ども時代に身につけた食生活の習慣は、成長してからも健康に大きく影響します。ですから、どうやってバランスよく栄養のあるものを食べるべきか、なぜ食べた方がよいのか、給食を通じて教えることが大事とされています。


また、若い世代からより良い食生活を送ることで、将来的に健康で病気にかかりにくくなるというメリットがあります。国としても長い目で見た時に、未来の医療費の削減につながるという投資の意味もあるのです」


フィンランドはOECD加盟国で実施している学力調査でもトップレベルを維持している教育先進国として知られる。給食は、学校教育と関係しているのだろうか。


「そうですね。もう一つ、大切なことはお腹が空いていると、集中力が落ちてしまうということです。学校は子どもたちが学ぶ場ですが、ちゃんと食べていないと授業に集中できません。学習の効率を上げるという観点からも、給食は大切な要素なのです」


●「より魅力的な学校給食」目指し、ガイドラインを刷新

学校教育が成功した理由のひとつが、学校給食にあるとも言われるフィンランド。実際には、どのように給食が提供されているのだろうか。


「フィンランドの学校では、ビュッフェ式のカフェテリアで給食を食べるスタイルが伝統的です。特に下級生は、上級生から食事のマナーを学ぶ機会であり、一緒に食事を楽しむことや、食に対するリスペクトを育てます。


メニューは自治体によって違いますが、メインコースが2種類、そのうち1種類はベジタリアン向けが推奨されています。また、フィンランド国立保健福祉センターの管轄で、各省庁からのメンバーで構成する国立栄養審議会でも、推奨メニューを作成しています」


国の推奨メニューが掲載された報告書には、例えば「調理された野菜かサラダが2分の1、ポテトまたはグレイン(穀物)のサイドディッシュと魚あるいはお肉のメインディッシュがそれぞれ4分の1、パン、飲み物」が望ましいなど、専門家の立場から丁寧に説明されている。


「ちなみに木曜日は豆スープの日です。北欧では木曜日に豆スープを食べる習慣があり、そうした伝統的な食事についても学校給食で伝えています」


また、今年はより魅力的な学校給食を目指すために、ガイドラインも刷新された。


「例えば、生徒数に対して、カフェテリアが狭い学校が多くなっていました。交代での食事を取ると、食べる時間が少なくなり、混雑するという問題がありました。新しいガイドラインでは、落ち着いた環境で食べることが大事であると発表され、そうした意味で教室で給食を食べることもありうるとされました。給食を楽しく、時間をかけて、ゆっくり食べることも大事です。


また、ガイドラインでは上級生になるにつれ、スナックのようなものでお昼ご飯を済ませてしまう子もいるので、給食をちゃんと食べるように魅力的なものにしなければならない、とも書かれています」


フィンランドの学校給食は、学校を運営する自治体がそれぞれ予算を組む。2015年のデータを元に、食材費、人件費、運送費(自校式の場合はなし)などのコストが調査されたことがあった。それによると、ヘルシンキの場合は1食あたり2ユーロ(約270円)ほどだった。


「北部のラップランドなど、生徒数が少なくて遠方の場合は輸送費が多少、かかっていますが、だいたい2ユーロ前後でした。自治体によりますが、食の安全からも地元で生産した食材が好まれる傾向にありますね」


●「フィンランドの学校給食のシステムを世界に」

「この10年間、トップレベルの教育と健康で栄養ある学校給食は、フィンランドのいくつものサクセスストーリーを実現させた」と説明するのは、フィンランドの航空会社フィンエアーだ。同社では今年、フィンランドが独立100周年を迎えるのを記念し、7月から学校給食を長距離フライトの機内食として提供している(来年1月まで)。「学校給食のシステムが素晴らしいと、世界にメッセージを送る」目的だという。



日本でも、戦後まもなく「学校給食法」が制定されたが、給食の提供については努力義務とされてきた。文科省の調査によると、ほぼすべての小学校で導入されているに対し、中学校では実施率が82.6%とまだ遅れている。また、貧困格差が広がり、給食の未納が社会問題となる中、学校給食は子どもたちにとってのセイフティネットでもある。しかし、給食を無償化する自治体は少しずつ増えているものの、全国に広まっているとは言えない。


「学校給食法」では、「国及び地方公共団体は、学校給食の普及と健全な発達を図るように努めなければならない」(第5条)とある。また、2005年に制定された食育基本法により、各自治体では、子どもの食育の場として、学校給食を活用する動きもある。大磯町の「まずい給食」をきっかけに、それぞれの地域で学校給食の役割をあらためて考える機会としたい。


(弁護士ドットコムニュース)