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【インタビュー】コマ撮りアニメ映画「KUBO/クボ」人形はいかにして命を得たのか?

2017年11月17日 21:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

【インタビュー】コマ撮りアニメ映画「KUBO/クボ」人形はいかにして命を得たのか?
『コララインとボタンの魔女』(2010年日本公開)、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(2013年日本公開)を手がけたストップモーション・アニメーション制作スタジオのライカがより大きなスケールの物語を携えて日本へやってきた。しかも、舞台は“日本”というから胸躍る。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』はパペットを一コマ一コマ撮影してアニメーションを作っていくという、気の遠くなるようなプロダクションを経て完成に至ったスタジオライカの最新作である。三味線の音色で折り紙を自在に操るという不思議な力を持つ少年・クボ。その力は彼の出自に大きく繋がっていた。彼はやがて、その秘密を追って旅に出る――。
イマジネーションの煌めきをそのまま画面に閉じ込めたかのような世界観。命を吹き込まれたパペットたちが織りなすファンタジックで一風変わった日本の世界。トラヴィス・ナイト監督が作り出したライカ流時代劇。
画面の中のアニメーションのひとつひとつが驚きに繋がる本作が、果たしてどのように作られたものなのか。日本公開のプロモーションで来日していたアニメーション・スーパーバイザーのブラッド・シフさんにその秘密を聞いた。

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
2017年11月18日(土)全国公開
gaga.ne.jp/kubo/


■“ライブアクションリファレンス”でより人間らしい演技を
――日本公開おめでとうございます。まず作品を完成させた手応えはいかがでしょうか。

ブラッド・シフさん(以下、ブラッド)
ありがとうございます。僕らライカにとっても、物語のスケール、サイズの両観点からもこれほど大きなプロジェクトを手がけたことはなくて、作品の出来を含め達成感はとても大きかったです。

――素朴な質問ですが、ブラッドさんの役職であるアニメーション・スーパーバイザーとはどういったことを担っているのでしょうか。

ブラッド
映画の中で“アニメーション”されているものは全て僕が見てアドバイスをしています。パペットはちゃんとアニメーターが動かせるものなのか、美術は正しいサイズか、小道具はちゃんと使えるか、キャラクターの表情は作品が求めるニュアンスを再現できているかなど、必然的に全部門に関わらざるを得ないのですが、そういった中でも一番大きい僕の役割は「キャラクターを創り出していく」というものです。アニメーターチームは35人ですが、ユニークな性格や個性を持ったキャラクターがまるで一人の手から生まれてきたかのように作ることが何よりも重要なんですね。そういう観点で統括するのが僕の仕事です。


――日本公開された『パラノーマン』を見た時に、ストップモーション・アニメーションの到達点だと衝撃を受けたのを覚えています。にもかかわらず、本作ではそれ以上の驚きがありました。キャラクターが更に活き活きと息づいて見えたからなのですが、その秘訣は何なのでしょうか。

ブラッド
まずは評価いただいてありがとうございます。僕は『パラノーマン』から関わっていますが、『コラライン』からどうレベルアップできるかを考え、『The Boxtrolls』(日本未公開)に至るまで常に新しいものを実践し、成功してきたと自負しています。何より大きいのは、『パラノーマン』から導入している“ライブアクションリファレンス”です。これはアニメーターが担当するカットを自分で動き、その様子を撮影してアニメーションに反映するというものです。『KUBO』ではアニメーター全員に「担当カットはリファレンスを撮るように」と伝えました。

ひとつのいい例が冒頭にあるカット、洞窟の中でクボが折り紙を拾うシーンです。ある時、担当アニメーターが「リファレンスを撮ったので見てほしい」と僕のところに来たんです。映像には彼が紙を拾い損なった瞬間も入っていました。彼はそこを単純なミスだと考えていたようなのですが、僕はそこにこそリアルを感じ、一緒に見返しながら彼にもその大切さを伝えました。お湯にちょっと触れて「熱っ!」という瞬間なども同様で、この作品にはそういった人間味のある表現を極力残し、入れるようにしています。些細なリアクションを積み重ねることによって、より自然な映像に仕上がり、見ている人がより感情移入できるようになると思うんです。そのためにライブアクションリファレンスは大きく貢献してくれています。



■『KUBO/クボ』はパペットとCGのハイブリッドによって実現した
――なるほど。まさにクボが紙を拾い損ねるところは詳しくお聞きしたいと思っていたところだったので、うかがえてよかったです。本作を拝見しながら、ストップモーション・アニメーションと3DCGの境目というのがほとんどなくなってきているんだと感じたのですが、その辺りはどうお感じですか?

ブラッド
ストップモーション・アニメーションこれまで、CGの台頭によってなくなってしまう技術だと言われてきました。でも実際そうなっていません。ライカの成長によってストップモーションの表現はCGに肉薄しています。逆にCGはストップモーションに近づけていないんじゃないかなとも思います。ただ、ライカの作品はハイブリッドなんです。クボはストップモーションだけど、脇役はCGだったり、エフェクトもVFXだったりします。例えば村のシーンでパペットなのはクボとおばあちゃんだけで、他のキャラクターはCGなんですよ。

――おお、それは全然気づきませんでした。すごい!

ブラッド
パペットの衣装の感触や照明が当たるときの質感などをVFX部門が研究して、高い技術で表現しているから違和感がありません。美術セットに関しても、ベースとなるパペットを参考にしつつ、例えば10本ほどの木をCGで増やし、森に見せることも出来るんです。もちろん元になるパペットの質感がなければ実現できないのですが、ハイブリッドであるからこそ、『KUBO』のような壮大なスケールを実現できたわけです。


――それは驚きました。見た人は海の描写にも心を惹かれると思うのですが、こちらはどう作ったのでしょうか。

ブラッド
実際に作ったオブジェクトをベースにして、VFXで水に仕上げています。波の動きは、針状の物を無数に立てて、ランダムに上下させることで作れるんですが、そこに何を重ねれば海に見えるのかいろいろ試した結果、一番よかったのが黒いゴミ袋でした。光の反射や動きも素晴らしくて、VFXにおける水の表現のベースになっています。

■これは日本文化へ向けたラブレター
――いかに発想を転がして作っているかということが実によくわかるお話ですね。さて、この作品全体についてはトラヴィス監督が「日本文化を独自の解釈で描いた」とおっしゃっているのが印象的でした。この辺りを改めてうかがえますか。

ブラッド
物語の核にある「家族」や「喪失」というものは国関係なく普遍的なものだと思うんです。そこに日本的な――と言っても宮崎駿監督がヨーロッパの文化を自分の中で昇華させて表現しているのと同様に、僕らもまた自分たちの感じる日本を、自分たちの心を通過して出て来たものを作品に表現しているつもりです。

――お客さんにはどう楽しんでもらいたいと思いますか?

ブラッド
まずは純粋に作品を楽しんでいただきたいですね。加えて、日本の方には日本文化に対するリスペクトに詰まった作品だということが伝われば幸せです。僕たちライカ全員が、日本文化へ向けたラブレターとして心を尽くして作った作品です。その気持ちを感じてもらえたら――そして同じくらい愛していただけたら、僕たちにとってこれほど嬉しいことはないですね。