流通サービス業などが加盟する産業別労働組合のUAゼンセンは11月16日、厚生労働大臣に対し、顧客の悪質クレームから労働者を守る措置を国として講じるよう、要請書を提出した。
UAゼンセンは今年6月から7月半ばにかけて、販売やレジ、クレーム対応などの接客業務に従事する組合員を対象に、悪質クレームの実態調査を初めて実施。5万878件の回答のうち73.9%が、業務中に客からの迷惑行為に遭遇したことがあると答えていた。今回の要請書提出は、この調査結果を受けてのもの。
「商品の在庫無いと答えたら、『売る気無いんか』と延々怒られた」
迷惑行為の内容で最多だったのは「暴言」(27.5%)で2万4107件、次いで「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」(16.3%)が1万4268件、「説教的態度」(15.2%)が1万3317件と続く。中には「金品の要求」(3.4%、3002件)や「土下座の強要」(1.8%、1580件)などもあった。具体的には、
「商品の在庫を訊ねられ、在庫が無い旨お伝えしたところ、『売る気ないんか、私が店長だったらお前なんか首にするぞ』と延々怒られました」(暴言)
「商品不良の交換対応時に店までの交通費及び迷惑料を要求されました。出来ないことを伝えると大声でどなられ、(中略)生活出来ないようにしてやると脅されました」(金品の要求)
などのケースが報告されている。中には、110番通報され警察で厳重注意を受けた客が逆ギレし、通報した店員への誹謗中傷をネットの掲示板で実名と共に書き、拡散された例もあった。こうした迷惑行為を受けた人の9割がストレスを感じていたことも、調査から明らかになっている。
UAゼンセンの担当者は要請後の会見で、「近年、こうした度が過ぎたクレームが目立つようになってきた」と話す。厚労省には、「職場における上司・部下関係のハラスメントだけでなく、消費者(顧客)・労働者の関係性の中にもハラスメントがある。その対策も検討してほしい」として、
・悪質クレームから労働者を守るために、事業者が講ずべき措置を定めること
・厚労省や消費者庁、警察庁などの公的機関が実態調査・対策に関する研究を行うこと
・労働者が受ける違法行為を抑止するための施策を講じること
の3点を要望したと明かした。
「サービスする側と受ける側がともに尊重される社会を目指したい」
悪質クレーム問題の難しいところは、悪質性の判断基準が定まっていない点にある。トラブルが起きても刑法が適用されるケースは少なく、対応も、企業によってばらつきがあるのが現状だ。
UAゼンセンは調査と並行し、8月に、悪質クレームの定義と対応に関するガイドラインを作成していた。そこでは悪質クレームを「要求内容、又は、要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレーム」と定義したが、これでもまだ不明確な部分があると受け止める。「今後は、業界内で判断基準を共有することで、社会的事実として慣習法上のルールを形成し、クレーム対応をしやすくしたい」との考えを示している。
また、業界団体との意見交換では、「悪質クレーム」の呼称が消費者をバッシングしているように思われるのではないか、という指摘もあったという。UAゼンセンとしても「顧客と対立したいのではなく、サービスする側と受ける側がともに尊重される社会を目指したい」との思いがあるため、今後の検討課題の1つとして代わりの呼称を考えたいとしている。
要請書は、UAゼンセン藤吉大輔副会長(流通部門部門長)から、厚労省の宮川晃雇用環境・均等局長に手渡された。厚労省側からは「理解できる内容だ」「業界団体との意見交換も必要だ」「パワハラ検討会で検討を深めていきたい」などの言葉があったと会見で明かされた。