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まるでドキュメンタリー!? HiGH&LOWスピンオフ『THE MIGHTY WARRIORS』の新しさ

2017年11月16日 15:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 EXILE TRIBEやE-girlsが所属するLDHのEXILE HIROが総合プロデュースを務める『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)は、テレビドラマ、映画、ライブ、漫画、SNSといった様々なジャンルで展開される世界初の総合エンターテイメントプロジェクトだ。11月11日に公開した『HiGH&LOW THE MOVIE3/FINAL MISSION』が盛り上がりを見せる中、とあるDVDがドロップされた。


 タイトルは『HiGH&LOW THE MIGHTY WARRIORS』。湾岸地区を根城として、SWORD地区を狙うギャングチームの活躍を、編集してまとめたスピンオフ作品だ。


参考:『HiGH&LOW』はなぜ盛り上がり続ける? “メディアミックス”としての新しさ


■MIGHTY WARRIORSは強者の共同体


 MIGHTY WARRIORS(以下、マイティー)は、アメリカ海軍のベースキャンプ出身のICE(ELLY)を中心とする少数精鋭の傭兵チームだ。ファッションと音楽の力で理想郷を築くという目標を掲げている。


 SWORD地区の山王連合会たちとは対立関係にあるが、どこか憎めないのは、基本的にプロの傭兵部隊として戦いに参加しているからだろう。その意味で「仲間と共同体を守る」という信念のために戦っている他のギャングチームに比べると、どこか精神的に余裕があるように見える。構成員も全員強くて、ノリが合うやつならば、出自は問わないというフラットな人間関係だ。


 それは衣装にも現れていて、他のチームが色やデザインにおいて統一されてるのに対し、マイティーのメンバーは着ている服の色もデザインもバラバラでカラフル。劇場版第二作『HiGH&LOW THE MOVIE2/THE END OF SKY』では、ジェシー(NAOTO)とフォー(関口メンディ)が所属するプリズンギャング達が仲間に加わり、日々、戦力を拡大している。


 マイティーは一言で言うと、強者の共同体だ。画面では描かれてないが、おそらく弱い奴やダメな奴は、容赦なく切り捨てるのではないかと思う。そういうドライさが見え隠れするのが、彼らの恐さだが、そこに会社組織に所属しないフリーランスのライターとしては憧れを抱いてしまう。そして理想郷を作るためには「金、金、金!」という、まずはメイクマネーという考え方に、圧倒的なリアリズムを感じる。


■架空のミュージシャンのドキュメンタリー


 『ハイロー』の各チームには、それぞれテーマソングのようなものがあるのだが、マイティーの場合はメンバーの中にラッパーとDJがいて、劇中でライブをするシーンもある。マイティーが歌っているのは、Trap(トラップ)という、アメリカで盛り上がっている、ゆったりとした重低音のビートが印象に残るヒップホップだ。


 日本人ではKOHHやBAD HOPがTrapを取り入れているが、このDVDに収録されている「DREAM BOYS」と「GOOD LIFE」を聴いていると、Trapの美意識を、どうやって日本語のメジャーなフィールドに落とし込もうとしているのかという、一つの音楽的実験としても楽しめる。


 Trapもそうだが、マイティーを見ていて一番に連想するのはアメリカのギャングスタ・ラップの世界だろう。


 このDVDは、マイティー視点から見た『ハイロー』総集編みたいな作りとなっているのだが、英語のナレーションからはじまり、ICEと仲間たちの出会いが一人ずつ語られていき、その間にマイティーのライブ風景やMVが入るという作りとなっている。自分たちの交友関係を伝説化して、自分たちで語り直していく作法は極めてヒップホップ的で、ドラマというよりは、海外のラッパーのドキュメンタリーを見ているかのようである。


 そのせいか、Netflixで配信されていたヒップホップ黎明期を描いたドラマ『ゲットダウン』やヒップホップグループ・N.W.Aの伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を見るようなノリで楽しむことができた。


 つまりこのDVDは『ハイロー』ワールドに存在する架空のミュージシャンのドキュメンタリーDVDだと言えよう。


 やや余談だが、マイティーのような集団を主人公にして、表現で金儲けをして貧困から這い上がって、金と権力を手に入れて成り上がっていく若者たちを主人公にしたドラマというのは、日本ではほとんど見当たらない。あったとしても、最終的に因果応報という形で破滅していくピカレスクものになってしまう。それよりは今、自分が所属しているコミュニティで昔ながらの仲間たちと楽しく生きていこうぜ。というマイルドヤンキーものの方が主流だ。


 『ハイロー』の基本的なベースにあるのも、こういったマイルドヤンキー的価値観で、特に物語の中心にいる山王連合会にそれが強く現れている。他のSWORD地区のチームも基本的に、「仲間達を守りたい」という防衛本能で戦っている。


 そんな中でマイティーだけは欲望に忠実で、アッパーな夢を持って動いているため風通しがいい。その意味でも『ハイロー』の中では、非日本的なチームである。


■MIGHTY WARRIORSはどちらに付く?


 もう一つ、マイティーが魅力的なのは、チームの中にセイラ(大屋夏南)とディクシー(祐真キキ)という女性がいることだ。中でもセイラは戦闘にも参加している。これは男女平等の理念というよりは、単純に強いから戦っているという実力主義の表れなのだろう。


 こういった「能力に根ざした平等」の根底にあるのは新自由主義的な思想に根ざしたプロフッショナリズムだ。


 九龍グループも含めて、ほとんどのチームが、自分たちの仲間とコミュニティを守るために戦っている中、マイティーだけが、帰属するコミュ二ティを持たなかったが故に、音楽とファッションの力で自分たちの理想郷を作るという、風通しのいい目的意識で動いていると言えよう。


 その意味で気になるのは、一応の完結編となる劇場版第三作で、マイティーがどのような結末を迎えるかだ。軸はSWORD地区連合軍と九龍グループの全面抗争という大人と子どもの戦いだが、それはそのまま古い日本と新しい日本の世代間抗争と言える。その枠組から外れているマイティーはどちらに付くのか? 今までの流れだと、傭兵としてかつての仲間・劉(早乙女太一)のいた九龍の側に付くだろうと思うのだが、もしかしたら土壇場でSOWRDの側に付くのかもしれない。


 いずれにせよ、今までの立ち位置を考えると大きな役割を果たすことは間違いないだろう。いっそのこと、SWORDと九龍が同士討ちになって滅んだ後で、マイティーがSWORD地区に理想郷を築くくらいの超展開も見たいものである。(成馬零一)